「世界入りにくい居酒屋」マルセイユ編で紹介された店に入ってみた
フランス

海外レポート番組が好きな方、このお店、見覚えありませんか? そう、『世界入りにくい居酒屋』というNHKの番組のマルセイユ編で紹介された、カフェ・バーです。

公共放送ということもあり店名も場所も特に紹介されず、フランス通でマルセイユに何度か来ているような人でもどこなのかさっぱり見当つかないらしく、何人にもに訊かれたので、実際に行って確かめてきました。

そこはカランクに続く海岸線の幹線(双方向で2車線だけですけど)なので、何度も前は通っているものの、わざわざ車を停めて寄る機会もないままで、入ったことはなかったので。

それでは、中へご一緒に……

地元で愛されているだけでなくカランクへの観光客にとっても峠の茶屋的存在「Le Bistrot Marin」


新年度が始まってすぐの水曜日の朝10時、まずは、電話で念のため確認。

「日本のテレビ番組の取材を受けたことありますよね? WEBで、住所や詳しいことを書きたいんですけど、日本から観光客が押し寄せてもご迷惑になりませんか?」

「大歓迎ですよ。いつでもどうぞ!」というムッシューに、「じゃあ、30分後に。私、マルセイユに住んでいるんです。今から、バスで行きますから」「え?……ハハハ」

番組の空気そのままの、くったくない明るい声が返ってきて、なんだかこちらまで心弾んできました。そして、到着。ここです。

Le Bistrot Marin
214 Avenue de la Madrague de Montredon, 13008 Marseill


店に入ってすぐ左手のカウンター越しのこのムッシューが、電話に出たその人。なのに、「写真撮らせてくださいね」と言うと、「ハイ、どうぞ」と、渋い表情になって腕組みポーズ。決めてくれます。

エスプレッソ片手のお客さんは、これからカランクへ向かう人。

マルセイユの地図を見ていただくとわかるんですが、海岸線をずーっと南下してきたこのカフェバーは、その先にいくつも続くカランクの入り口ともいえる場所で、峠の茶屋的存在も担っているんですね。

ずらりと並ぶ、しっかり冷えた清涼飲料たち。

下町ではないけど下町の匂いのする理由

……そして、その中央に、きっちり鎮座するロトくじやナンバーズやサッカーくじなどなどを見ると、やはり、地元の憩いの場の匂いぷんぷんしてきますよね。

「なに? 写真撮ってんの? じゃあ、僕も」と、店に入ってくるなり、いきなりポーズをとってくれたのは、「今日の日替わりランチは何~?」と調理スペースのカウンターに向かって入ってきた別の常連ムッシュー(見覚えありませんか?)。

一方で、奥の席で静かに新聞と向き合うムッシュー。

「よく来られるんですか?」「うーん、よく、といえるかどうかわからないけど、1日に1回は、朝、エスプレッソ飲みに」

「いや、それは、よくって言うと思うんですけど、ご近所ですか?」「うーん、どうかな。Les Goudesゴード(この先うねうねと続く海岸線の突端近くの景勝地)の向こうなので」「……それは近所、とは言えないですね(車で10分ほど)」

コルビュジェのカフェの時もそうだけれど、マルセイユでは、がやがや集まるムッシューたちグループをよく見かけるのと同時に、1人で朝カフェするムッシューも見かけるのに改めて気づきました。

で、ぽつんとしているのかと思いきや、

さっきの決めポーズのムッシューに気付くと、立ち上がって、ビズ(左右の頬をくっつけての挨拶)。

パリでは、男性同士は、握手だったり肩を叩き合うんですけど、南仏では、こんな風に男性同士でも親しいとビズするのが習慣なんです。

窓の向こうは、広がる旧い住宅街。

そして、地中海。

フランスでは、家族の存在がとても大きい

さて、「ところで、今日のランチは何なんですか? さっきから、とってもイイ匂い!」と厨房の中のマダムに尋ねたら、「豚とジャガイモとポロ葱のラグーよ」と、ジャガイモの皮を剥きながら。

奥では、ぐつぐつとお鍋がおいしそうな音を立てています。

それを受けるように、前のテーブルで、新聞を広げていたムッシューが、表に出す立て看板にチョークですらすらと書き始めました。いかにも手馴れた感じ。でも、カード仲間が来るのを待っているお客さん(なのは、映像そのまま)。

そうそう、この日は水曜日なので、テレビに出ていた『女番長』とニックネームつけられていた店主のマダム・ジェニファーさんは不在。

フランスでは、子育て中の女性は水曜日は仕事をしないシフトで雇用契約するのがポピュラーで、小さな子どもを2人持つ彼女も、そのスタイル。

子ども優先で、ご主人と一緒にお店を切り盛りしているんですね。他の日も、月曜・火曜・木曜・金曜の11時から14時だけ。

え? じゃあ、写真のカウンター越しの女性は?と思いますよね。実は、よく似ている実のお母さん。水曜のランチは、そのマダムが担当。その他の時間も、バーカウンターの向こうの(上の写真の)お父さんと一緒に家族で手伝っているんだそうです。

ジェニファーさんたち夫妻がこの店を買い取ったのは3年前だそうで、番組の収録があったのは2年前の6月(第1回の放映は10月)。番組の頃には、朝早くから毎日漁師さんと次の日の仕入れの相談という具合だったのが、今は、魚は(フランス式に)金曜だけ。

それが今のリズムになっているのは、お店が軌道に乗っているということですよね。子どもを預けて働くのではなく、子どもとの時間を大事にしながら働くというのを優先順位にしている人の目立つフランス。

そのためには、家族の協力がとても特徴的です。さて、フランス育児事情は追ってまた改めて。話を元に戻しますね。

「娘はからかわれちゃったりもしてたけど、とてもいい番組だったし、とても、いい取材だった」がご夫婦揃っての感想なその収録、ロケ隊は、なんと2週間滞在!していたそうです。

6月のマルセイユ、いい番組が作れるはずですよね。街なかではなく、カランク手前の地区を選んだ理由がわかった気がします。嫌味ではなく、本当に一緒に空気を吸った映像、と思いませんか?

でも、マルセイユ在住として、番組内容で訂正させていただきたいこと、3つ……

① マルセイユは高級リゾートではないし、船の価格も維持費も日本とは比べ物にならないほど安いこと。だから、お金持ちばっかりではないんですよ。

普通に暮らす人が、頑張れば手の届く存在です。家族・親族が皆マルセイユや近郊という場合、誰かが代々持っていたり……というのも、駐車場ならぬ停泊場の権利を得るのがとても難しいんです。なかなか空きが出ないので。

② 50分もかからないし、漁村でもない住宅地。50分と言うのは、その先のカランクの向こうに広がる漁村のLes Goudesの辺りのことではないか、と。19番のバスで終点まで行って、その先20番のバスでカランクを3つ越えた先です。

映像で紹介されている画像を見るとこんな感じでしょう? 歩いていたら、店の中から声が聞こえてきて……というのは面白可笑しいつくりですけど。

③ 毎日があんなではなくて、時々、なようです。アタリマエですよね。ちなみに、次回の大カード大会は、翌週月曜とのこと。

番組にケチをつけたいわけではなくて、こんなに行きやすい場所だって知って欲しくて。マルセイユって、(コート・ブルー」もそうだと書きましたけど)コンパクトでバラエティ豊かに出来ているので、来る機会あれば、ぜひ、フットワークよく、とことん楽しんで行っていただけたら……公共交通の1日(3日)乗り放題チケットも、かなりお得で便利です。

さて、行き方はこちら。バス停が真ん前!(と言いたいぐらい傍・すぐお隣)です。

市営バスの19番1本で、店のすぐ前に停留所があるので、迷わず行けてしまいます。

始発駅は(メトロ2路線両方が停まる)Castellaneという駅ですが、Rond Point du Pradoという2号線の隣駅(マルセイユの玄関口のサン・シャルル駅からメトロ2号線で5つ目・所要時間10分程度)のバス停は交差点角にあって、便利。

以前紹介した『フランス1治安の悪いマルセイユを、公共交通で楽しむ。』の83番のバスの始発停留所と隣り合っています。

ただ、このバス停は、海のほうに行く3本だけ独立した場所なので、改札口を出たら、バスターミナル出口ではなく、Prado交差点方面に向かってくださいね。(ケバブの店のある方です)

ここから乗って、所要時間は20分前後。もしくは、83番のバスで、海岸線沿いのダビデ像の前で降りて、19番に乗り換える方法も。

海岸線沿いのバスは、この2路線。Rond Point du Pradoから海岸線まで来て、このダビデ象に向かって右に北上していくのが83番、左に南下していくのが19番、です。(※ただ、この先からは20番という小さいバスも存在します)

だから、ここまで83番で港方面から来て、乗り換える方法も。ここからなら、乗って15分ほど。(しつこいようですが、番組で「バスで50分」と紹介されていた最初のシーンは、このバス停を海側からみたもののはずなので”何かの間違い”です)

そうして、Rointe Rougeを越えて走ること数分。商店街の点在する住宅地を抜けていくと、見たことのある看板が。

すぐその前のバス停が、Madrague Mont Roseです。その次が終点。万一乗り越してしまっても、大丈夫。マルセイユのバス停は、1駅2分ほどしかかかりませんから。

帰りは、横断歩道を渡って反対側へ渡れば、この通り。

バスは、約10分に1本。ここで、立っているのもなんですから、一駅先まで、歩きながら待つのもいいかも。

向かって左側が崖下になっていて、坂道を降りると地中海。

またちょっと見知らぬマルセイユ、でしょうか。

この下、水際にも、またとって置きのビストロが点在します。そちらは、また改めて……

フランス人たちは、クロスワード・パズルが大好き

マルセイユって、いろんな顔があるんです。繁華街からほんの数キロで、ごくごく普通の生活圏が広がっていて、市の中心地と海岸線沿いに点在する名所旧跡やちょっとした観光エリア以外は、昔ながらの佇まい。

そして、こんな風に年配男性達が集まったり、ペタンクをしたり、三々五々カフェに現れてはパスティス片手に雑談したり、ただテラス席に腰掛けて、知った顔を待って居たり、通りすがりの人に一声かけたり……は、マルセイユでも、近郊でも、よく見かける光景で、知らなければ、ちょっと怖い思いしそうですけど、ところ変われば、区民センターの談話室とか、商業施設の憩いのロビーみたいなものと思えば、なんていうことない微笑ましい時間。

ところで、記事の中で2人のムッシューが広げていた新聞のページは、それぞれ同じ。クロスワード・パズル!なんです。フランス人たちのこのパズル好き、文字遊び好きは、昔から知る人ぞ知る習慣。カフェやプールサイドなんかで、ちらりと覗いてみてください。かなりの確率ですから。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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