パリに築地が移転してきた?「こだわりラーメン」という名前のお店のこだわりと情熱
フランス

フランス・パリから、こんにちは。

まずは、この写真を見てみて下さい!



パリの6区・オデオンにある『KODAWARI-RAMEN(YOKOCHO)こだわりラーメン』という名のラーメン屋さんの“店内”なんです。

この扉の向こう側に広がるのが、さきほどの写真の世界……昭和の新宿をイメージしたYOKOCHO(横丁)。今はもう無くなってしまった東京の小路がそのまま再現されているんです。

オーナーは、フランス人男性。もちろん、その時代に身を置いてたわけではないし、料理人を目指していたわけでもなかったと言います。初めて、ラーメンを口にするあの日までは……。
そんなご本人のインタビューの前に、まずは、お店の様子をどうぞ。

フランス人が、並ぶ? 1時間でも?

待ち時間は、早くても15分。休日には1時間半ということも。それでも、大人気です。

並ぶのが嫌いなフランス人も行列する秘密は、その段取りの良さ。テーマパークさながら、係の人がこまめに確認誘導してくれるので、最後尾の待ち時間を予め知ることが出来るから、ストレス激減。混み具合はある種タイミング次第なので、無理せず次の機会にと、そのまま立ち去る人もいます。

並ぶのは、ガラスの自動扉の外だけ。店内の行列は、待つ方も待たれる方も居心地悪いですよね。ここは、扉の向こうに入ったらもう、ただただ美味しい時間が待っています。

フランス人のKODAWARIが作り上げた店。そして、その素材も味もこだわり。

美味しいと、その評判は聞いていました。フランスで1番の広告はクチコミ、と以前も書いた通り、「こだわりラーメン」も、そう。でも、正直なところ、半信半疑でした。

だって、お薦めトッピング3種セットが、味玉・チャーシュー2枚増量・焼きプチトマト……なぜ、トマト?(と思いきや、これがまた、いい味出してます。)周りを見ていると、黒ゴマたっぷりなラーメンもどんどん運ばれています。人気なのは、店内インテリアのお陰なのかもと勝手に決め付けて、さほど期待もしていなかったのに、運ばれてきたラーメンを一口食べた瞬間、「また次もどんなに並んでもきっと来る」と確信しました。それが、こちら。

素材や製法にもこだわった自家製麺は、こしが強くて、味わい豊かで、どんどん喉を通り抜けて胃袋へ。
そうして、頼んだ替え玉は、このボリューム!

上の写真だと、ちょっと分かりづらいですね。改めて、もう1枚(ええ、やっぱり、また並んででも食べたくて行きました)。

真ん中の、小さい赤いのがTomate rôti(焼きプチトマト)。これについては、インタビュー部分の中でまた。

ちなみに、普通のラーメンだと下のこちら。とてもシンプルだけど、旨味がぎゅっと詰まっています。厨房には今日本人シェフが立っていますが、そのレシピは、オーナーが創り出したもの。

そう、日本と全く同じ具材での再現スタイルではなく、パリで、日本の味をどう正しく醸し出せるか。研究に研究が重ねられたわけです。

そうそう、和のデザートのひとつ、どら焼きは、その場で焼いてもらえます。こんな感じ。

和のオリジナルカクテルもいくつか。写真は、ゆずSakeモヒート。

メニューを見ると、他にも色々な種類の麺があるんですが、このしょうゆラーメンだけでも繰り返し飽きない魅力があります。食べ終わった帰り道、明日もまた来て食べたくなる味。

飛び抜けて何か表現出来る特別な個性ではないのに、ひと口目の瞬間に、「あ、これ大好き!」って感じる味ってあるでしょう? 初めてなのに、既に親しさを覚える感じ。

それは、もしかしたら、店のインテリアや、ずっと流れ続けている東京の生の音のせいかもしれないと思っていたんですが、“こだわり”は、そんな舞台装置だけではなくて、素材や製法にも及んでいたんです。

ところで、ちょっとトイレに失礼します。

どこまでも、日本の横丁が再現し尽くされているビールケースづかいのテーブル席の傍の階段を上がると、2階席に続く手前の踊り場に、案内が出ています。


ドアを開けると、フランスでは、まだまだ目にしたことのない人も多いウォシュレット! 日本では、すっかりごくごく普通の存在ですが、フランスでは、まだまだ珍しいので、戸惑う人は少なくないかも。

ほかの設えは、あくまでも昭和レトロ。
たとえば、そのすぐ上には棚があって。落書き?いえ、これも演出なんですね。

昭和の象徴とも言える、赤いダイヤル式の公衆電話! 平成には、もう見かけなかった……というより、携帯の普及で、公衆電話自体ほとんど見かけなくなりましたよね。タイムスリップしたみたいな空間。
モダンとレトロの共生。日本のイメージそのままのコントラストが、ここにも詰まっています。

そして、いよいよ2号店「KODAWARI-RAMEN(TSUKIJI)(こだわりラーメン築地)」、オープン!

さて、これもパリです。

5月最後の土日にかけてオープンしたばかりの2号店『KODAWARI-RAMEN(TSUKIJI)(こだわりラーメン 築地)』。
場所は、セーヌ川を越えて反対側・ルーブル美術館からオペラ座に向かう方向、パレロワイヤルに平行した通りにあります。

©KodawariRamen

「1号店の横丁とは全く違うイメージ・コンセプト」と謎かけのような予告を聞いていたり、ぽろりとこぼれた言葉の端々から、海鮮居酒屋風にするのかも?とは感じていたんですが、築地が丸ごと移転したかのような光景にびっくりです。

といっても、私は、まだ実際には、この足で立っていなくて、急ぎ1点だけ写真をお借りしました。3月にはオープンと聞いていたので上パリしてたんですが、延びに延びて、いつになるか読めなかったので、公になり次第写真をいただく約束にしていたんです(私の自宅はマルセイユなので850km南、TGVで3時間20分ほどの距離なので)。

でも、そういえば、ホームページで、店の情報ページに、なぜか築地が無くなるのを惜しむ投稿が載っていたのが、今思えば、フレンチ・エスプリ。茶目っ気たっぷりですよね。

さて、こちらがオーナーのM.MEUSNIER(メウニエー氏)の横顔。

フランス人たちは駄洒落や言葉遊びをよくするので、インタビュー紹介、というのを横顔という表現にしてみました。KODAWARI-RAMEN(こだわりラーメン)に取り組むその姿を、文字通り、この横顔が表している気がして。

©KodawariRamen

1号店のYokocho(横丁)がオープンしたのは、2016年4月。

内装に使われているバーの電飾看板や広告プレート、赤い公衆電話などは、日本製の本物。東京の大井競馬場などのフリーマーケットで買い付けて、運んできたといいます。

イメージしたのは、新宿の横丁。それも、高度経済成長時代の。

若い彼がそんな時代を知っているとも思えないので、お気に入りの漫画や映画で見たのを再現したかったのかと思ったら、モデルになっているのは「写真」だそう。あぁ、だから、誰もが、「いつか見た風景」として懐かしくほーっとした暖かいものに包まれたように感じられるのかも、と思いました。

日本のゲームや漫画は、人並みに接したことはあるものの、特にファンということもなく、料理はしていたし嫌いじゃなかったけど、今の世界を極めることになるとは想像したこともなかったそうです。(上でも書きましたが、)11年前のあの日、ラーメンを初めて口にするまでは。

 

日本に初めて降り立ったのは、2008年。フランス空軍パイロットから、同じ生業でも民間航空会社の勤務になってからのことでした。

 

初めて見る東京の街は、子どもの頃から成長するに従って漫画や映像・写真で想像していたイメージ通りで、とても感動したのを良く覚えていると語るその口調は、日本人としては、聞いていてこちらまで嬉しくなるほど弾んでいました。

 

そして、初めてのラーメンとの出会い。その時の渋谷のとんこつラーメンは、今思うと、そんなに逸品というものではなかったけれど、もう、なんと言ったらいいのか、つまり、その瞬間から、堰を切ったように『ラーメンを極めたい』という情熱にかられて、年に3,4回の仏日往復フライトを担当するたびに、有名店・無名店にかかわらず、北に南に東に西に、とにかく食べて食べて食べまくり……1日に8店はしごしたこともある、とか。

 

もちろん、食べすぎに違いはないので、後で、ものすごく苦しかったけれど、それでも、もうその頃には、なんとかラーメンを極めたい。味と技術を習得して、本物の味をフランスに伝えたいという情熱に背中を押されていたわけです。数えたことはないけれど、たぶん、100数十店は周ったし、修行させてもらった店もあれば、幸運なことに3人の師匠にも恵まれて、惜しみなくその才能と技術を教えてもらえて、そこから、自分の味を創り出したそうです。

 

世界のあちこちでよくあるような”なんちゃってラーメン”にはしたくないという強固な信念。90年代のパリで、Sushiブームが始まると共に”なんちゃってスシ”が広まったせいで、今のフランス各地では、日本のそれとは全く違うものがSushiとして人々に知られるようになっているように、ラーメンもきちんと伝えないと一人歩きしてしまうかもしれないから、と。

 

オデオンを選んだのは、いろんな職業・様々な年代の人が行きかうエリアだから。一部の限られたタイプの人たちだけを対象に、その人たちに気に入られるようにと考えてラーメン作りをするのは興味ありませんでした。

 

フランス人にも日本人にも愛されるもの。でも、万人受けするものなんかないのはわかっています。たとえば、塩辛は美味しいと薦めたって、多くのフランス人は後ずさりするでしょう。逆にフランスで受けが良くても、日本人の好まないものも、ありますよね。

 

気にしだしたらきりがないし、自分が日本で得てきた経験を元に、本物のラーメンの美味しさをフランスで確実に伝承したいと考えました。

 

麺は、日本から輸入するより、こちらで小麦から栽培する方法にしたのは、そうすることによって、自分の求めている、出したい味が実現できるからです。4代続く生産者に託し、自社ブランドの小麦を、1号店の地下で、日本から運んだ機械で製麺します。

 

太さも茹で方も、オリジナルです。

 

焼きトマトのトッピングは、ごく自然な流れで思いつきました。

 

ラーメンのスープは脂っこい。でも、それが、ラーメンの魅力のひとつです。そのままで美味しく感じてもらうために、甘酸っぱいトマトは最適だと思ったし、ロティすることは味も栄養も更に引き出しますから。

 

2号店は、全く違うコンセプトで、エリアも全く異なる場所を選びました。日本人や日本食、アジア系の店が特に集中している場所ならではの魅力を持っていると思います。お楽しみに。

KODAWARI YOKOCHŌ
29 rue Mazarine 75006 Paris

KODAWARI TSUKIJI
12 rue Richelieu 75001 Paris

https://www.kodawari-ramen.com/

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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