実は本場のマルセイユでもブイヤベースを食べたことのあるフランス人は少ない
フランス

マルセイユというと、「まず、ブイヤベースを食べに行かなくっちゃ!」という発想になりませんか?

私も初めてこの街に旅行で来た時には、ランチでちゃちゃっと30分ぐらいで楽しむつもりでいたんです。だって、魚介のスープのワンプレートのはず(そういうイメージありませんか?)。

でも、本当のブイヤベースって用意が整うのに時間がかかるし、ゆっくりいただくものだと言われたんです。それで、その時はニースからの日帰りだったので、諦めました。

 

その5年後にマルセイユで暮らすことになって、ようやく念願かなって口にしたのですが、まずびっくりしたのは、想像していたものとゼンゼン違ったこと!

そして、マルセイユの人たちにとっても、よく食べに出掛けたり家庭の食卓に上るようなポピュラーなものでもなかったんです。ブイヤベースを食べたことのあるフランス人は、ふぐを食べたことのある日本人と同じぐらいの確率なんじゃないでしょうか。

実際のところ、どういう感じなのか、ご紹介させてくださいね。

ブイヤベースって?

ブイヤベース(Bouillabaisse)の語源は、bouille(bouillir=煮る) + baisse(baisser=嵩を減らす)。

ぐつぐつ煮込まれていく魚のスープを想像してみてください。美味しそうでしょう?

 

もともとはよく知られている通り、その朝マルシェで売りさばいた残りや、身が崩れて売り物にならなかった魚を、漁師さんたちが一緒くたにして煮込んでは濾して、濃厚なスープにしたもの。

なんども濾しては煮詰めるのは骨を取り除くためで、白身の部分は残しておけるように粗い濾し布を使ったと言います。

 

さぞ、いい匂いが漂っていたんでしょうね。

とても滋養があるし腹持ちもいいということで、一般にも知られ広まっていったそうです。

マルセイユやその近郊では、各家庭でそれぞれのレシピで作られていたとも言いますが、私の周りではそんな手間のかかるおばあちゃんのレシピを持っている人はいませんでした。

ブイヤベースよりも、魚のスープ自体に親しんでいるのは、パリや他の街と同じです。

たぶん、ブイヤベースを食べたことのあるフランス人は、ふぐを食べたことのある日本人よりも少ないと思うのは、魚のスープというメニューだけで十分美味しいからかも。

 

ちなみに一般的にブイヤベースは、スープと具が別々で胃にずっしりくるので、心の準備とその後のスケジュールへの余裕をあけておくことが必要です。

「ブイヤベース憲章」(後述します)では、魚は決められた5種類があって、”マルセイユからトゥーロンにかけての近海で獲れたもの”と掲げられているので、それぞれの魚の上に名前の旗を立ててうやうやしく運ばれることも。

 

魚のスープは、フランス各地で美味しい名物

魚のスープ自体は、魚屋さんの自家製や市販品が安価に出回っています。

「ブイヤベース憲章」で認められた有名店が出している瓶詰めも、マルセイユ市内や近郊では販売されているので重宝しています。全国ルートでは販売されていないので、お土産にも好適品。

 

フランス各地で親しまれている料理で、薄切りのバゲットやクルトンにルイユ(にんにくソース)ととろけるチーズをのせて、スープに浮かべて浸して楽しみます。

家庭でも一人暮らしでも気軽に作れるし、瓶詰めは常温のまま買い置きしておけるので、私は風邪の引き始めや疲れの溜まった時などに、随分助けられています。

 

滋養栄養を考えるなら、あんこうを加えて煮込んでもいいです。

あんこうは小骨がないことから離乳食に薦められて知りました。実はマルセイユでは年を通じてよく水揚げされる名産なんです。あん肝は、生フォアグラみたいにソテーするのがポピュラーです。

話が逸れました……。さて、ブイヤベースは、普通にビストロで注文するにも大抵の場合で2人分からになります。

予約も必要という店が多いし、料理だけで1人当たり30数ユーロはします。

気軽に誰もがふらりと立ち寄るものでもないし、安い店を見つけて気軽に頼んでみたらハズレという店が多いからと敬遠する人は少なくないので、マルセイユに来ても必ずしも食べていくとはならないようです。

 

マルセイユ市で掲げられている「ブイヤベース憲章」で認められた、伝統にかなった通りのレシピの店は、今日現在7軒しかないといわれていて、お値段もそれなり。

お料理だけで、1人前50ユーロが目安です。

 

「ブイヤベース憲章」って?

写真は、マルセイユ市役所(L’Hôtel de ville de Marseille )。

ヴュー・ポー港(Vieux Port)に面して、丘の上のノートルダム・ド・ラ・ガルド(La Basilique Notre Dame de la garde)と向かい合いように立っているこの建物は、マルセイユで最も歴史あるもののひとつです。

この港の辺りに最初はギリシャ人が、そしてローマ人がやってきて、この街を作りました。

今は、ビストロ・レストランが連なるこの界隈で、ブイヤベースをメニューに掲げる店がどんどん増えたそうなんですが、レシピはそれぞれ思い思いの好きなもの。伝統の味からはどんどん離れ幅が広がっていったんだそうです。

 

そこで、作られたのが、「ブイヤベース憲章」

使うべき魚の種類と数や、魚の産地(マルセイユからトゥーロンにかけての地中海沿岸からの獲れたてのみ)、ソースにも細かい取り決めがあります。

 

近年、マルセイユだからというだけで、いい加減なブイヤベースを出す店が乱立しているこの街では、料理人たちがその伝統を守り、本物の味を世界に伝えるために、と尽力しています。

 

自分が美味しく感じない店が多いのは、日本人の舌だから期待していた味と全く違うせいかと思っていたんですが、そうではなくてちょっと安心しました。

 

モチロン、この憲章とは関係なしに美味しい店はあり、価格も抑えられている店もあります。

でも、せっかくならこの憲章の店で食べたいですし、そうでないなら家庭で魚のスープで十分美味しい、というのが、私の周りでのクチコミです。

憲章に認められてなくても、割安なお店に行くのはトクなのかどうかは、視点と価値感次第です。

 

いずれにしろ獲れたての海の幸が本当に種類豊富で新鮮であることは間違いなので、生のままのカルパッチョや本日の獲れたての魚のグリルを注文している人の方が目に付く、現代のマルセイユです。

よく知られる名老舗たちと2エリア

そういう私も名店を食べ比べているわけではないので、訪れる人に訊かれた時には場所でお薦めしています。行きやすさ、他に見どころがある場所です。

ヴューポー港 : ミラマール

港に面しているのですぐ目に付くのはミラマール(MIRAMAR)

 

ヴァロン・デ・ゾウフ : フォンフォン と ル・ルゥル

そして、ぜひ寄っていって欲しいヴァロン・デ・ゾウフ(Vallon des Auffes )

港から、気軽に83番のバスで行けるのは、以前別の記事でご紹介した通り。

このプレートを目印に下に降りて、振り返ると、上の写真の光景が待っています。

これは、上のバス停から、地中海に背を向けて見下ろした風景。

左手にFONFONとついた建物が見えますよね。岸恵子さんのエッセイや小説にも出てくる老舗シェ・フォンフォン(Chez Fonfon)です。

 

ヴァロン・デ・ゾウフの魚のスープは南仏地域では市販されているので、フランス国内でも他の地域へのお土産に好適品です。

 

この先、1kmほどのところ、ちょうど海岸線のカーブ正面にあるル・ルゥル(Le Rhul )にも魚のスープを市販していて、港沿いのアーケードにあるメゾン・ド・パスティスにも置かれています。

早起きは三文の徳。気持ちのいい朝のマルセイユより。

これは、そのヴァロン・デ・ゾウフの入り江で。

ちょうど船が荷下ろししてたので、「写真撮っていい?」「いいよ、いいのが揚がってるよ!」

ブイヤベースの材料のカサゴがどっさり。見るからに美味しそう!……東京では魚の切り身も触れなかったぐらいなのに、パリでは切り身をお刺身に、マルセイユでは魚一匹まるごともさばけるようになった私です。人間、強い意志目的(食欲)があると、進化しますね。

目の前は、シェ・フォンフォンとシェ・ジャノー。どちらも、目にも胃袋にも美味しい店。オーナー達は兄弟です。
他にも、三代目、四代目の店もいっぱい。皆、顔見知りという感じで、最初は臆したりしたんですけど、新参者でも、通りで何度もすれ違ううち、笑顔を交し合う顔見知りになったりするのが楽しい……マルセイユは、大きな下町みたいで、温かいです。この陽射しみたいに。
早起きは三文の徳。気持ちのいい朝のマルセイユより。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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