素顔のフランスがここに。コルビュジェ(ユニテ・アビタシオン)で朝食を!
フランス

「マルセイユで何食べる?」と聞くと、まず多くの人が挙げるのがブイヤベース。そして、私の記事を読んで気に入ってくださった方なら、ケバブも!?

忘れちゃいけないのが、朝ごはん。もう少し陽射しの延びる時期になったら、パン屋さんのテラスやカフェ・バーでご紹介したいところがいろいろ。今回は年を通じて、晴れても雨でも使えるイイ場所をご紹介しますね。世界遺産の建物でモダンに、そしてごくごくふつうに。

マルセイユのユニテ・アビタシオン(通称コルビュジェ)のカフェ・レストラン

建築・アート好きな方なら、たぶん観光ルートに入れているはずの「Unité d’Habitation (ユニテ・アビタシオン)」。ここマルセイユの地元では、通称『コルビュジェ』と呼びます。ここは、泊まらなくても、朝食を楽しめるんです。午前7時から、3階のレストランで。
旧い建物なので天井高があり、いい眺めです。テラスに出なくても大きなガラス窓越しに地中海が一望できて、とても気持ちのいい空間。朝が苦手な人(たとえば、私)でもきっと、素敵な1日を始められます。

ル・コルビュジェって名前、聞いたことありますか?

Le Corbusier(1887年-1965年)は近代建築家の三大巨匠といわれるうちのひとりで、スイス系フランス人。世界中で多くの作品を生み出しています。
この名前はペンネームなので、本名とは全く異なるんですが、祖先の名前に由来しているそう。

 

パリ万博、そして2つの大きな世界大戦の時代を生き抜いて、最初の代表作といえる『ユニテ・アビタシオン』をマルセイユに完成させたのが1952年。建築家やそれを目指す人たちが専門的な興味で訪れるだけでなく、小学校の課外授業の行き先としてもポピュラーです。(現在、外壁補修中なので足場がかかっています)

元々は、この建物の中だけで生活の多くのことが事足りるように、という観点から建築の構想から始まったもので、居住スペースの他に、商店や幼稚園、医療クリニックや、ベビーシッター会社もあります。

コンクリートが打ちっぱなしの部分と、原色で塗り分けられた壁面やインテリアなど、1952年に落成した時にはかなりセンセーショナルだったはずです。このスタイルに込められたコンセプトが根幹のひとつになって、マルセイユの開発が進められてきた印象があります。

ホテルとオフィスの他に居住階もあって、オフィス・ド・ツーリズム主催の見学ツアーも人気だし、ヴァカンス物件として個人的に貸し出している人も。

 

友人家族が以前暮らしていたときに招かれたとき、隅々まで見せてくれたんですが、空間の使い方に無駄が無いつくりでした。たとえば、トイレやシャワールームの扉が引き戸式! 中には最低限のスペースしかないのに、事足りるんです。
そして、階段の下が収納(こちらは、今ではごくごく普通ですね)だったり。意外と知られていないんですが、フランスの住まいは、北米のように広々としてはいないので、壁を少し分厚くして収納にしたりします。

ここをお手本にしたようなデュプレックス(Duplex)と呼ばれる2階建てになっているアパルトマンはマルセイユにいくつかあって、パリとはまたひと味違う独特の生活スタイルがあります。

フレンチスタイル? それともコンチネンタル?

フランスの朝食は甘いパンなど、軽いものが主流だと以前『パリで一番素晴らしい朝食を!』~の記事でも書きましたが、カフェやホテルでの朝食メニューも、多くが温かい飲み物とバゲットやクロワッサン、そしてデニッシュ類程度。

民泊やシャンブル・ドットと呼ばれる洋風民宿の場合には、パンの種類がもう少し豊富だったり、いろいろなジャムやはちみつがずらりと並んだりはするものの、卵やハムなど塩味の習慣はないフランス。
ただ、外国人客の多い都市部のホテルでは、コンチネンタルスタイルも取り入れています。コルビュジェでも、単品で飲み物とデニッシュなどを選べる他に、バイキングスタイルの朝食(11ユーロ)があるけれど、あまり知られていないよう。

 

……という私も宿泊客以外誰でも利用できるということを、つい最近まで知らなかったんですけど。

 

それでは、中に入ってみましょう。

ランチとディナーの時間以外はお茶だけも楽しめます。

12時から13時半のランチ(メニューは1週毎に変更)と20時から21時のディナー(メニューは1月毎に変更)の給仕の時間帯以外は、飲み物だけを(ソフトドリンクでもカクテルでも)楽しめます。デニッシュ類も、”残ってさえいれば”頼めます。

この日は、朝9時過ぎだったのに、これだけ……。宿泊していたのが大人数のグループ客だったそうで、バイキングももうほとんど残っていないからと片付けられてしまったのだそう。用意していたものがなくなったらおしまい。どうしても、という時には予め連絡しておけば用意しておきますとのこと。

焼き上げておいてくれるのは、この方。

「ただオーヴンに入れるだけじゃないの?」と同僚女性に茶化されて、「いや、それでも焼き加減に工夫がいるのは事実だから」と胸を張ってくれたところを、1枚。

さて、こちらが”コルビュジェならでは”の朝食バイキング。

そんなわけで仕切り直し。別の日に子どもを学校に送り出したその足で向かいました。時刻は8時半。

上りのエスカレーターでは、8階の幼稚園に向かう子ども2人の手を引いたママンと一緒になりました。8階は立ち入り禁止ですが、3階、4階のホテルやオフィススペースと9階の屋上だけは、一般にも開放されています。

 

平日の静かな朝のレストランスペースは、タブレット片手の女性と、テラスで新聞を広げている年配男性、そして、カウンターで話し込んでいる(たぶん住人の)男性だけ。あとは、窓の外のカモメの鳴き声だけというとても静かな時間。

ホールに入ってすぐ正面のカウンターには、焼きたてクロワッサン、デニッシュ類、ブリオッシュ食パン、そしてりんご(フランスの朝食やピクニックメニューの定番)。

セルフサービスの温かい飲み物たち。外国人客が多いせいもあるでしょうけど、紅茶も種類いろいろ。

朝はカフェ・オ・レというイメージがあるフランスですが、コーヒー類でなくティーバッグ紅茶という家庭が意外と多いです。子どもなら、粉末ココアもポピュラーかも。

そして、コーンフレーク、(後ろに隠れて見えないけれど)ハム、サラミソーセージ類、チーズなどなど)、ヨーグルトにコンポット(パック入りの果物の摩り下ろし)、トッピング類、そして、卵。

そういえば、ウフ・ア・ラ・コック(œuf à la coques)と呼ばれる温泉卵みたいなとろとろのゆで卵は、フランスの休日のブランチメニューで昔から愛されているもののひとつ。殻を上のほうだけ割って、ちょこんと帽子みたいに外し、トーストを細切りにして浸してつけていただきます。
横に並んでいるのは、自分で出来てしまうゆで卵器(ちなみに、家電品店で20ユーロほど)。

卵の入っているワイヤーのかごは、スーパーやマルシェで気軽に買えるポピュラーなもの。ニワトリの形をしているものもよく見かけます。

その後ろの台に乗っているのはジャムのメーカーとして知られている「ボンヌ・ママン」の空き瓶に詰められた、プラムや杏などのドライフルーツたち。そして、写真には写っていないけれど、やはりスーパーでも並んでいるオーガニックのはちみつ。

バゲットは自分で好きなサイズに切ってトースターで焼いてタルティーヌ(トーストしてバターやジャムなどをたっぷり塗りつけて)で楽しめます。

 

コルビュジェならではのバイキングの魅力は、誰かの家にいるみたいな空気。
キッチンや冷蔵庫にごくごく普通にあるもの、親しまれているものがそのまま用意されているんです。それも、コルビュジェが建てられた頃からずっとあるようなものばかり(ゆで卵器とオーガニックはちみつは別として)。

 

素顔のフランスが、ここにあります。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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