フライドポテトみたいな「パニス」は揚げたてが醍醐味。…ところでパニスって何?
フランス

Panisse(パニス)、ご存知ですか?

北フランスと南仏では、食文化が少々異なるんですが、これもそのひとつ。だから、パリでは(まず)見かけません。南仏・マルセイユならではの食材を使った昔ながらの独特の食べ物・飲み物って、日本ではそう知られていないことに改めて気づかされたのは、日本で評判高い海外紹介のTV番組での『マルセイユ篇』で。

その取り上げられた店でも、サービスとして無料で振舞われているおやつ(というかアミューズブーシュというか)として紹介されていたパニスもマルセイユ名物で、昔から伝わるポピュラーなもののひとつ。

ブイヤベースより身近な存在、です。ご紹介しますね。

パニスって?

パニスは、ひとことで言うなら、ひよこ豆ペーストのフライ。外はカリッ、中はほくほく。揚げたてをいただくのが醍醐味です。

材料は、ひよこ豆の粉とオリーヴオイル、そして、水と塩だけ。どれも地中海名物のシンプル素材で、あちこちの店で、ビールを頼むとつまみとして無料で出してくれたり、食事の前の待ち時間に、ちょこっと運んで来てくれたりします。

夕方のカフェでソフトドリンクを飲んでいても、「沢山揚げすぎちゃったから」と、サービスしてくれたり、も。パリのカフェで生ビールやアルコール飲料を頼むと、ナッツやチップスが添えられてきますよね。そんな感覚です。

もともとは、エスタック名物。週末、時間限定オープンのスタンドには、予約客も。

もともとは、パニスと揚げパンはエスタックの名物。スタンドも出ています。でも、日曜日などには夕方しかやっていないところも。

夕方のアペリティフ用に、近所の人はモチロン、車で揚げたてを求めて行く人も。大量の場合、時間予約している人も見かけます。

こんな風に、頼んだ数ごと、まとめて大きなかごに入れられて、フライドポテトみたいに揚げられます。

これは、家に持ち帰って袋から出した状態。30分ほど経過しているので、上の揚げたてとは、ちょっと違うでしょう? でも、まだまだ温かいので、このまま。オーヴンで焼き直すより、そのままでじゅうぶん美味しいんです。

モチロン、家庭料理としても親しまれています。

昔ながらのものだから、レシピも出回っているし、自宅でも楽しめます。

シンプル素材とはいえ、生地作りはそう簡単ではないので、一から自分でという人はそう聞かないんですけど、こんな風にお肉屋さんのお惣菜コーナーやマルシェで並んでいるので、気軽に作れるんです。

クッキー生地みたいに(とはいえ、かなり太いですね)、棒状に練り固められたパニスを、輪切りにして揚げるだけ!

マルセイユのそこここのお肉屋さんやマルシェでは、この塊ひとつが300円~400円程度で買えるので、家庭でわざわざ生地から作らなくてもいいし、揚げたてを楽しめるんです。それと、厚みも自由自在。薄切りでカリカリが好きという人と、厚めで中ふっくらがいいと言う人と、さまざま。

三ツ星シェフも大切にしている郷土のソウル・フード

そして、例えば、マルセイユのミシュラン三ツ星のシェフの店でも、アミューズブーシュのさらにその前に、こんな風にスティックタイプで供されたりも。

一見、フライドポテトみたいでしょう?

食事を始める前にお腹がいっぱいになってしまわないように、でも、”郷土の味”に親しんでもらうために。量が少ないのはそのせい、です。

この写真は、あるビジネスランチの時のものなんですけど、このパニスがきっかけで、地中海の歴史の話題になって、もともとフランスはマルセイユにギリシャ人・ローマ人画という話から、日本映画のテルマエ・ロマエの話になり(翻訳された原作漫画もよく売れているようです)……。

食を共にするのは、口を動かす(会話弾ませる)いい機会でもあって、一気に距離感が縮まります。

いい眺めでしょう? これは、MuCEM美術館のそのシェフのレストランからのもの。地中海が一望できます。

ちなみに、エスタックは向かって右側の弓なりの辺り、その先がコート・ブルー。反対側をずーっと行くと、カンヌやニースのあるコート・ダジュール、です。

材料はニースのSocca(ソッカ)と全く同じ。地中海食文化は繋がっています。

面白いのは、ニースでは、全く同じ素材でソッカというクレープ状のものが名物なんです。

ニースの旧市街には、よく知られている名店が2つあって、どちらもいつも行列。それ以外の地中海沿いの街町でも、そこまで特化してはいないもののソッカの店が存在します。一方で、パニスはそれほどでもなかったんですが、ここ数年、スティック状のパニスを出すビストロが、同じ地中海沿いの街町で増えていること。

素材は同じなのに味わいは全く違うんですが、スティック状パニスがどんどん増えてきているのは、食べやすさのせいかもしれませんね。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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