三陸の牡蠣が、フランスの危機を救う。そして日本の震災後立ち上がったのは、フランスの牡蠣業者。
フランス

フランスで嬉しい美味しいことはいっぱいあるんですが、そのひとつが、”1年中” 新鮮な生牡蠣を楽しめること! 実は、あまり知られていませんが、その一部は日本の三陸産の牡蠣がルーツなんですよ。

今回は、そんなフランスの牡蠣にまつわるお話です。

ソクたびソクたび

“牡蠣とRのつく月の法則”はあるけれど、1年中食べられる「牡蠣」

口にするもののほとんどを国内生産でまかなえてしまう農業大国フランス。お肉や魚介類も、かなり充実した品揃えです。

白身のお魚の数々はカルパッチョでもいただくし、牡蠣は生が主流……近年のSushiブームも、こうした新鮮な魚介類を生で愉しむ食習慣がベースにあったからこそかも。

英語と同じで、フランス語でも”牡蠣とRのつく月の法則”があります。スペルにRのついている月が食べ頃、そうでない月は、あたってしまう恐れがあるから避けるようにとい訓えなのですが……

パリでは、1年中メニューから消えない店も少なくないし、シャンゼリゼ通り沿いの24時間営業のレストランでは、365日いつでも口に出来るほど。

フランス各地、専門店やちょっとしたビストロ、レストランでも年を通じてメニューに載っています。(マルセイユの通りに出ている直売スタンドの多くは、日照の関係で、6月から9月は閉めるのが常ですけど)

特徴的なのはいつでもどこでも殻付き、それも閉じたまま!なこと。

基本的には、港でも専門店でもスーパーマーケットの魚売り場でも、生で殻の閉じた状態のまま並んでいます。

牡蠣の値段自体も店ごと・地域ごとさまざまです。1個いくらという表記のところもあれば、6個単位の店も。レストランのメニューなどでも、1ダース(12個)か半ダース(6個)だったりしますよね。

そのほか、殻を開けてもらって簡易プレートに並べた状態なら1個あたりプラス0.5~1ユーロかかったり、プレート代(たとえば3ユーロ)が別だったり、牡蠣の値段にプレート代が含まれてるところも。

ちなみにプレートは発砲スチロールがほとんどなので、使い捨てが多いですが、お店に返せばプレート代を返金してくれるところもあったりします。

生牡蠣や魚介スタンドの盛り合わせは、頼めばその場で開けて作ってもらえる場合もあるし、時間指定で予約受け取りや配達もポピュラーなので、週末や行事の時にはとても重宝。

でも、スーパーマーケットの魚売り場の傍などには、素人でも使える牡蠣の殻を開けるためのナイフと極小まな板が並んでいて、自宅でも(慣れればカンタンに)すいすい開けられます。

セットでも1,000円でおつりが十分来るものなので、生牡蠣が好きな人のキッチンには必ずあるもの。慣れないとやっぱり難しいですけどね。

種類は大きく分けて2種類。平型とクルーズ型。


そんなフランスの生牡蠣の名産地は、ブルターニュ。年中、揚がっています。フランス人の生牡蠣好きはちょっとしたもので、クリスマスのご馳走のひとつでもある一方で、真夏にもやっぱり1度は口にするという人もよく聞くほど。

中でも、モン・サン・ミッシェル湾の西側に位置するCancale(カンカル)という浜に揚がるものは絶品。よく知られているんですよ。

私達も、今回の夏のヴァカンスをどうするかという話の流れで、モン・サン・ミッシェルに行きたいね→それなら、北西フランス滞在……となって、まず、生牡蠣の揚がるこの港との距離も確認!したほど。

どうせなら、新鮮な生牡蠣をお腹いっぱい食べる日を持とう、と。

ここのスタンド・マルシェを仕切っているのは漁師さんのおかみさんたち。パリや都市部の魚介スタンドでは、男の人たちしか見かけないぐらいなのに。

さて、そんな風に愛されている生牡蠣。人気のクルーズ型の原種は、日本の三陸の牡蠣組合から寄贈されたもの(つまり、写真はその子孫達)って、ご存知でした? そんなエピソードと一緒に、ブルターニュの風景をお届けしますね。

ちょっとかわいいでしょう?

ブルターニュは、英国との歴史の交差も少なくないので、建物や町並みが、パリや南仏ともまた違って、こんな感じ。

産地や形・大きさで、風味も味も異なる牡蠣

牡蠣は基本、生食。殻を使ったグラタンなどの温かいお料理はあるけれど、残念なことに、牡蠣フライはないんです。フライ自体が、そうポピュラーではないからかもしれませんね。

でも、フランスの冷凍食品メーカーいくつかで、3年ほど前からエビフライを売り出しているので、知られるようになったら、流行ってくれるのかも。自宅では時々するんですけど、なかなか評判いいですよ。

牡蠣は産地・形大きさによって、ずいぶん味わいも風味も違うので、生食中心のフランス人たちは、自分のお気に入りをもっている人も少なくないです。

なんと開いた牡蠣の殻の中の海水は、捨てずにそのまま愉しむという人が多くて、潮の香りのきついもの・そうでないもの、たっぷり肉厚か薄めか、濃厚味かサラリ系か……などなど。

……というわけで、大人4人前の『前菜』は、3ダース!(ちなみに、上の写真はNo.3という大きさ)

開けてもらったら(ここは安めとはいえ)18ユーロになってしまうので、殻が閉じたままの状態でビニール袋にばさっと入れてもらい、男性2人で10分ほどかけて開けました。

絶滅の危機だったブルターニュの牡蠣。

ひとくちに生牡蠣といっても、実はずいぶん種類大きさがあって、ずらりと並んでいる街の大きなスタンドだと、一瞬戸惑いますよね。レストランのメニューでも、どこどこ産の何番(番号は大きさを示します)とあっても、写真解説があるわけでもなく……

12年前、まだフランス式の生牡蠣の食べ方が苦手だった頃、近所の魚介スタンドで「濃厚だけど磯臭くないもの、やや肉厚だけど大きすぎないもの」と頼んだら、ムッシューが選んでくれたのが「三陸の子孫」でした。

「日本ルーツだから、きっと気に入る味ですよ」と。その昔、ブルターニュでの牡蠣危機があったこと、三陸産からの大量寄贈があったことをこのときの会話から知りました。

牡蠣には大きく2つの種類があって、殻が丸めで平べったい(中身も薄い)タイプと、クルーズと呼ばれる細長くて深い彫りの(中身はいくつかの特長に分かれる)タイプがあります。実は後者はHuitres Japonaise(日本の牡蠣)とも呼ばれているんです。

1963年、ブルターニュ地方を大寒波が襲い、banquiseと呼ばれるほどの水面が氷河のように凍った状態になって、その後、なんと80パーセントもの牡蠣が疫病で絶滅しかけました。

その時に、牡蠣を寄贈したのが日本の三陸の養殖業者達。これがクルーズのルーツなので、こう呼ばれるようになりました。今では、フランスで流通しているほとんどがクルーズ型で、この日本原種といわれています。

フランスで牡蠣や水産業に携わる人たち、そして、生牡蠣を愛する人たちの間では有名な話なようです。現地では有名なのに、日本ではあまり知られていないままの感動秘話は、まだまだ意外とあるのかもしれませんよね。

今では中学校の教科書に載るようにもなった杉原千畝氏のエピソードも、20年近く前にパリで友達になったリトアニア人女性から聞かされるまで、全く知らなかったし、言われても想像もつきませんでした。

日本でその事実が公になって報道されたのは、その数年後のことです。

そして、今度はブルターニュから日本へ

そして、今、日本で流通しているブルターニュからの子孫達も……というと、「え?」と思われるでしょうね。

2011年の未曾有の震災で、三陸産の牡蠣は大打撃を受けたと聞いて、声を上げてくれたのがブルターニュの牡蠣業者たち。数十年前にフランスに贈られて育ち、また、脈々と生まれ育ってきた牡蠣たちの子孫が、三陸に贈られたのです。

生牡蛎を開くのは男の仕事!……にクレームはないフランスの食卓。

男女平等とか、家事育児参加とか、フランスはとてもリベラルに進んでいるように報道されていますけど、実際は、ずいぶん男尊女卑が残っている気がすること、多々あります。

たぶん、今、定年している世代の女性達は専業主婦がほとんどだったし、南仏では、女性がキッチンにこもりっきりで、男性達とお客さんだけテーブルにという世界もまだまだ残っているようで……でも、家庭で生牡蠣を開けるのだけは、男性の仕事というシーンばかり見かけるのが楽しいです。

それは当たり前。手の大きさ的にも、男性にはたやすいけど、女性には無理、というイメージだったんです。が、カンカルではおかみさんたちがちゃっちゃとしなやかに開けていて、実は女性でも鍛錬すればどうということないのかも。

さて、年末年始に飛ぶように売れるのが、箱入りの牡蠣! クリスマスイヴや大晦日などには、男性達はグラス片手にこの前菜に取り組んでくれたりします。女性はキレイに着替えるのだけが仕事。こんな日もいいですよね。
生牡蛎を開くのは男の仕事!……にクレームはないフランスの食卓。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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