日本では「バウムクーヘンの本場はドイツ」と思われていますよね。それが間違いというわけではないのですが、実はドイツでバウムクーヘンを手に入れるのは案外難しいのです。
ドイツでは、バウムクーヘンは限られたお店でしか手に入らないお菓子。そのため、旅行する地域によっては「ドイツで本場のバウムクーヘンを買おうと思っていたけど、結局見つけられなかった」という話も聞くほどです。
今回、「フランクフルトで老舗のバウムクーヘンが買えるお店がある」との情報を入手し、早速行ってきました。
ドイツでは意外と手に入りにくいバウムクーヘン
日本では専門店やデパート、スーパー、コンビニにいたるまで、津々浦々で販売されているバウムクーヘン。「本場のドイツならさぞ身近な存在では」と思うところですが、実はドイツではまったく状況が違います。
ドイツ南西部に移住して1年半になる筆者は、当初ドイツにおけるバウムクーヘンの存在感の薄さに驚きました。日常的にバウムクーヘンを目にする機会がほぼないのです。
クリスマスが近づいてくると時折スーパーで見かけることがあるものの、町のケーキショップなどでバウムクーヘンを見たことは一度もありません。
ドイツでバウムクーヘン発祥の地とされているのは、ドイツ北東部のザルツウェーデルという小さな町。そのため、東ドイツに行けば、バウムクーヘンの専門店やバウムクーヘンを出すカフェに遭遇することがあるものの、それ以外の地域では、そういったお店はなかなか見つからないのが現実です。
世界一バウムクーヘンが巷にあふれている国は、おそらく日本でしょう。
ドイツではバウムクーヘンは特別なお菓子
なぜドイツでバウムクーヘンが各地に広まっていないかというと、それはバウムクーヘンが高度な技術を要するお菓子だからです。
ドイツでは、国立菓子協会によってバウムクーヘンの定義が定められており、本物のバウムクーヘンとして認められるには、ベーキングパウダーを使用しない、油脂はバターのみといった厳しい基準をクリアする必要があります。
ベーキングパウダーを使って、機械で大量に製造されたものは「本物のバウムクーヘン」とは認められません。専用のオーブンを用いて、伝統的な製法で手間暇かけて作られる本物のバウムクーヘンは、製造できるお店も人も限られる特別なお菓子なのです。
フランクフルトで本場のバウムクーヘンが買えるお店「Zarges」
そう聞くと、ますますドイツのバウムクーヘンが食べてみたくなりますね。しかし、ドイツ旅行の予定はあっても、バウムクーヘンの本場である東ドイツへは行かないという人も多いことでしょう。
それでも大丈夫。ドイツの空の玄関口として、あるいは列車の乗り継ぎ地として、多くの旅行者が立ち寄るフランクフルトにバウムクーヘンが手に入るお店があります。
それがフランクフルト中央駅から徒歩約20分、町の中心部にあるスイーツショップ「Zarges」。バウムクーヘン製造会社の直営店ではありませんが、複数の種類のバウムクーヘンをまとめて買うことができます。
隣には雰囲気の良いカフェを併設しているので、買い物ついでにお茶をするのもいいかもしれません。
老舗のバウムクーヘンが並ぶ店内
こぢんまりとしたお店ながら、店内にはシュガーコーティングされたバウムクーヘンやチョコレートコーティングされたバウムクーヘン、大きさや形もさまざまなバウムクーヘンが勢揃い。
筆者が「バウムクーヘンは日本ですごく有名だけれど、ドイツではなかなか手に入らない」と漏らしたら、お店のスタッフは、「知ってるわ、バウムクーヘンは手に入るお店が限られますからね」という返答。やはり、バウムクーヘンを目当てにこのお店にやってくる日本人は少なくないようです。
Zargesで手に入るバウムクーヘンは、おもに「クロイツカム(CONDITOREI KREUTZKAMM)」と「ライジーファー(Leysieffer)」のもの。いずれも老舗の名店です。
シュガーコーティングされたクロイツカムのバウムクーヘンと、チョコレートコーティングされたライジーファーのバウムクーヘン、それぞれ1種類ずつを購入してみました。
ザクセン王室御用達、クロイツカムのバウムクーヘン
クロイツカムは、1825年に東ドイツの都市・ドレスデンで創業した老舗。ザクセン王国のアルバート王から「王室御用達」の称号を受けた名店で、日本人のあいだでは、クロイツカムのバウムクーヘンはドイツ土産として高い人気を誇っています。
賞味期限は購入時点から2ヵ月弱あったので、すぐに渡すことができない人へのお土産にも良さそうです。
シュガーコーティングされたこのバウムクーヘンの特徴は、レモンが香る爽やかかつ上品な味わい。近年日本で人気の柔らかくフワフワのバウムクーヘンとは違って、密度のあるしっかりとした生地です。
生地にはバニラビーンズがたっぷりと練りこまれていて、甘く優しい風味がたまりません。
チョコレートが人気、ライジーファーのバウムクーヘン
ドイツ北部の町・オスナブリュックで創業したライジーファーは、ドイツでは高級チョコレート店として有名。ベルリンやミュンヘンをはじめ、20店舗以上を展開していて、手に入れるチャンスが比較的多いバウムクーヘンです。
チョコレートで有名なだけあって、やはりおすすめはチョコレートコーティングされたバウムクーヘン。賞味期限は購入時点から10日ほどでした。
サイズは小さめでも、ずっしりとした重みがあります。オレンジリキュールを使用しているため、鼻を近づけると、チョコレートの香りと甘酸っぱいオレンジの香りが漂います。
やはりこちらも、クロイツカムのバウムクーヘン同様、柔らかいながらもしっかりした密度の感じられる生地。チョコレートでコーティングされているのでかなり甘いのかと思いきや、オレンジ風味のダークチョコレートはあまり甘くなく、大人の味わいです。
濃厚なので少しでも満足感があり、一度にたくさん食べるよりはご褒美として少量を食べたくなるようなバウムクーヘンです。
ドイツのバウムクーヘンは大人向け?
これらドイツのバウムクーヘン2種類を食べてみて感じたのは、日本のバウムクーヘンは老若男女誰にでも好かれるクセのないお菓子ですが、ドイツのバウムクーヘンは技巧を凝らした大人向けのお菓子だということ。
クロイツカムやライジーファーにしても、それぞれオレンジリキュールやレモンなどで、独自の風味をきかせています。
万人に好かれようとしているというよりは、「わかる人にこそ愛してほしい」というような職人的なこだわりが詰まっているのがドイツのバウムクーヘンなのかもしれません。