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    新興宗教「カオダイ教」の総本山に行ってみた
    ベトナム

    最大の都市ホーチミンや首都のハノイ、中部リゾートのダナンなどが人気のベトナム。そんなメジャーどころとは一線を画しつつも、「普通の観光じゃつまらない」というマニアのあいだで密かに人気を集める場所があるのをご存じでしょうか。

    それが、カンボジアとの国境近くにあるカオダイ教の総本山。カオダイ教とは、世界のさまざまな宗教をミックスさせた摩訶不思議な新興宗教で、ド派手な建物はもちろんのこと、信者が一同に会する礼拝の様子は圧巻です。

    ベトナムの新興宗教「カオダイ教」

    カオダイ教総本山1
    日本ではほとんど語られることのないカオダイ教は、1926年に発足したベトナムの新興宗教。仏教、キリスト教、イスラム教の三大宗教に加えて、儒教と道教を合わせた5つの宗教をベースにした混合宗教です。

    「カオダイ」とは、宇宙の至上神たる天帝の名であると同時に、天帝神殿を指す言葉でもあり、カオダイ教の寺院や信者の家では、至上神を象徴する巨大な眼「天眼」が祀られています。

    カオダイ教の主神は「カオダイ」ですが、釈迦やキリスト、ムハンマドも神様……これだけでも混沌とした印象ですが、小説家のヴィクトル・ユーゴーや哲学者のソクラテスまでもが崇拝の対象となっているから驚きです。

     

    東西の宗教をミックスさせた教義に加え、政治的要素の強さにも特徴があります。日本統治時代の1943年から1956年に武装解除されるまで、独自の軍隊をもち、かつての南ベトナム政府に対し、武力による抵抗を行っていました。

    いざカオダイ教総本山へ


    聞けば聞くほど複雑怪奇に感じられるカオダイ教の総本山があるのは、ベトナム南部タイニン省の省都タイニン。お膝元のタイニン省では、人口の約70~80パーセントがカオダイ教の信者であるといわれています。

     

    ホーチミンから日帰りで行くことができますが、交通の便は良くないため、現地ツアーの利用が便利です。クチトンネルと組み合わせた日帰りツアーが人気で、ホーチミンのデタム通りにある「TNK Travel」や「Sinh Tourist」などで申し込み可能。「TNKトラベルJAPAN」では、日本語ツアーを取り扱っています。

     

    いずれのツアーもお昼前にカオダイ教総本山に到着するようスケジュールが組まれており、毎日12時からの礼拝を見学することができます。

     

    一度見ると忘れられないド派手な建物


    カオダイ教を知っている人なら、一目でそれとわかるような派手な建物が多いカオダイ教寺院ですが、総本山の派手さは飛び抜けています。

     

    ホーチミンとは別世界の、のどかな雰囲気漂うタイニンの田舎。そこに突如として現れる極彩色の立派な建物がカオダイ教総本山です。

    1933~1955年にかけて建てられた中央礼拝堂は、カトリック聖堂の様式をベースにしながらも、アジア的な装飾が施された一度見ると忘れられない建物。南国らしくパステルカラーが多用されていて、宗教施設というよりは、テーマパークに登場しそうな感じがします。

    内部は、外観を超える色の洪水。青い天井には空が描かれ、ピンクの柱には龍が巻き付き、黄色い壁にも色鮮やかな装飾が施されています。かなり派手な空間ではありますが、平均的日本人の美意識を超越しているからか、不思議と「悪趣味」とは感じず、幻想的な感じがします。

    カオダイを象徴する「天眼」


    中央礼拝堂の奥に鎮座しているのが、ご本尊たる「天眼」。心臓に近く、心と繋がっているという理由から左眼で、「宇宙の至上神」や「宇宙の原理」を表しているといいます。巨大な球体に描かれた「眼」は少々不気味……近づくと、監視されているかのような落ち着かない気分になります。

     

    インパクト絶大のこの「眼」は、外国人のあいだでは「フリーメイソンを彷彿とさせる」といわれることもしばしば。アメリカの1ドル札に描かれている「眼」にもよく似ています。

    ご本尊のみならず、壁面にも、カオダイ教の象徴である「眼」があしらわれているのにご注目。

    世界の有名人の姿も


    カオダイ教には多くの聖人や使徒が存在し、キリストや釈迦、観音菩薩、ムハンマドに加え、孔子や積和、トルストイ、ヴィクトル・ユーゴー、ソクラテスといった偉人達も崇拝の対象となっています。礼拝ホールの入口には、孔子とヴィクトル・ユーゴーが「愛と正義」と署名している場面を描いた絵画が飾られています。

    宗教に東西の偉人とは唐突な気がしますが、世界の有名人を集めているのは、信者獲得のため。近年のカオダイ教は、若い信者の獲得が難しくなり、信者の高齢化が進んでいるという悩みを抱えているからです。例えるなら、「新規顧客開拓のためのマーケティング」といったところでしょうか。

    独特の雰囲気漂う礼拝


    カオダイ教総本山では、6時、12時、18時、24時の一日4回の礼拝が行われています。礼拝の時間が近づくと、白いアオザイを着た信者たちが一斉に中央礼拝堂へと集まってきます。

    色のついた衣装を身にまとっているのが僧で、黄色が仏教、赤が儒教、青が道教を表しています。ひとつの宗教に複数の宗教を表す僧とはややこしい話ですが、それぞれが元の宗教を尊敬しつつ、カオダイ教に融合しているそうです。

    僧と信者が中央礼拝堂に入ったら、整列し、各人がそれぞれの所定の位置に座ります。真っすぐで、乱れがなく、美しい。この列を目にすれば、複雑怪奇なカオダイ教の秩序が垣間見える気がします。


    礼拝が始まったら、男性信者による楽器の演奏と女性信者の合唱に合わせて、読経が行われます。


    日本のお寺の鐘の音にも似た「ボーン」という音が鳴ると、皆が一斉に頭を深く下げます。さまざまな宗教がミックスされたカオダイ教ですが、頭を深く下げる礼拝スタイルは、イスラム教を彷彿とさせます。

     

    1回礼拝の所要時間は、なんと1時間半。そのあいだ、ひたすら楽器の演奏や合唱、読経が繰り返されるのです。さすがに、若い信者が減っているというのも納得がいきますね。

    旅行者にも寛大なカオダイ教


    キリスト教の教会にしても、イスラム教のモスクにしても、礼拝(宗教行事)中は見学や写真撮影ができないことが多いですが、このカオダイ教総本山では、国籍や信仰を問わず、礼拝中も見学オッケー。

     

    礼拝中は、さすがに信者たちが礼拝を行っているホール内に立ち入ることはできませんが、ホールへの入口前や、2階のバルコニーから礼拝の様子を見ることができ、写真も自由に撮ることができるのです。2階のバルコニーでは、観光客が祈りを捧げている信者の真横まで接近することができますが、礼拝に集中しているからなのか、慣れているからなのか、信者たちは気に留める様子もなく礼拝を続けていました。


    日本では、「宗教」という言葉自体が、必ずしもポジティブなイメージをもたらすとは限らず、「新興宗教」となると、なおさら「胡散臭い」「危険」などと思われがちです。

     

    しかし、実際にカオダイ教総本山に行ってみて感じたのは、旅行者への寛大さと信者たちの熱心さ。信者の高齢化が進んでいるとはいえ、一生懸命に歌い、祈りを捧げる若者たちの姿が印象的でした。

    世界中を探しても、これほどまでに礼拝をオープンにしている宗教はなかなかないでしょう。カオダイ教が東西のさまざまな宗教をミックスしてできた宗教だからこそ、信仰を異にする人を「異教徒」として敵視したり、危険視したりすることのない、オープンな気風が育まれたのかもしれません。

    知れば知るほどわからなくなる?

    「総本山」というと厳粛な感じがしますが、礼拝中こそ厳かな雰囲気が漂っているものの、それ以外の時間帯は和気あいあいとしたオープンな雰囲気。新興宗教といえば、閉ざされた世界というイメージがありましたが、誰でも礼拝を見学できるカオダイ教は、とてもオープンな宗教でした。さすがに「入信したい」とは思わないものの、カオダイ教に対してほのかな親近感を抱いたのは事実です。

    その一方で、総本山を訪れたからといって、そう簡単にこの複雑怪奇な宗教が理解できるわけはありません。カオダイ教には、「知れば知るほどわからなくなる」という要素があるような気がします。
    知れば知るほどわからなくなる?

    この記事を書いた人

    はるぼぼ

    はるぼぼ旅するライター・ブロガー

    和歌山出身。東京での会社員時代、旅先の長野でドイツ人夫に出会う。5ヵ月間のアジア横断旅行と2年半のドイツ生活を経て、2018年7月日本に帰国。これまでの海外旅行歴は60ヵ国240都市。特に目がないのが、「旧市街」「歴史地区」と名のつく古い街並みを歩くこと。旅のリアルな「ワクワク」をお伝えします。

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