書店や出版社がまだまだ元気なフランス。紙の本が愛される理由とは?
フランス

フランス人は読書好きが多いの、ご存知ですか?

クリスマス前の本屋さんは長蛇の列。プレゼントの定番のひとつなんです。ハードカバーの高価なものから、ポケットサイズの手軽なものまでと、価格にかなり幅があっての選びやすいのも、重宝される理由。

寝る前に読書の習慣を持つ人は意外なほど多いし、手荷物に気をつけないといけないからメトロや公共バスの中では見かけないものの、列車や長距離バスでは読書している人をよく見かけます。言葉遊び(駄洒落や韻を踏んだり、クロスワードパズル)の大好きな人の目立つフランスならではの、活字のある暮らし、という感じ。

具体的にはどんな様子なのか、ご紹介します。

パリの駅の列車待ち時間の過ごし方。”無料の図書”サービス。

たとえば、これ! 何だと思いますか?

パリのリヨン駅(※フランスの主要駅には都市名プラスそれぞれ名前がついていて、紛らわしいんですけど、パリの主要駅のひとつの名前はリヨン、なんです)がリニューアルされた昨年から造られた、ソファーがつづく広い待合いスペースにいくつか置かれている機械。

案内パネルには、1、3、5の数字が大きく書かれているのしか遠目には見えません。

何か案内が数行あるようなので近づいて見ると……

ボタンが3つ、ついているだけ。お金やカードを入れるところもありません。ご自由にお楽しみください、だけ。minと言う表記もあるので、minute(s)分のことみたいです。

本体には、Shortéditionとあるので、短い読み物のディストリビューターみたいです。なんだか気になります。このまま試さずに、マルセイユには帰れない。試してみて、高い金額が必要と表示がどこかに出たならキャンセルすればいいだけ、ですよね。

5(分)を押してみました。すると、こんな風に、買い物したときのレシートみたいに、するすると印字された物語が出てきました。

そう! これは、無料の『読み物印刷機』だったんです。

待ち時間に合わせて、好きな長さ(読み終える時間)の活字をプリントアウトできる。何が出てくるかはわからないから、自分の好みの話かどうかはわからないけれど、あらかじめ内容が予想できなくても読むのって、新聞やタブロイドを手にするのと同じ感覚ですよね。

改めて、ソファスペースの方に目をやると、何人か『長ーいレシートを手にして眺めている人たち』が。

フランスの鉄道は、直前まで発着ホームが表示されないし、遅延もしばしばなので、こんな風に待っていられるの、ちょっと楽しいです。

古着・古本に抵抗のない文化。そして、物を捨てない習慣が根強いフランス。

そして、『物を捨てない』人の多いフランスですが、断捨離はやっぱりする習慣。よく見聞きするブロカントやヴィド・グルニエというのは、(フリー)マーケットで不用品を売るもので、地域主催のものもあれば誰でも参加できるものもずいぶんあります。

本の場合は、古本屋さんやマルシェの古書スタンドで売買したり、友人や同僚間で貸し借りしたり、そのままあげてしまったり……そんなことしたら本が売れなくなっちゃうんじゃ?と思えますよね。でも、そうじゃないんです。その反対。本が生活の一部であり続ける限り、新しい本(新刊・既刊にかかわらず)を買う習慣も続いていくから。

『ご自由にお持ちください』――不要な人の手から必要な人の手に、というスタイル。

たとえば、これは、マルセイユのあるタワーマンションのエレべーターホール。壁に貼ってある文字は、Servez-vous.(ご自由にどうぞ。)。つまり、ここに置かれているのは、誰かが読み終わった本で、読みたい人が勝手に持って行っていいんです。

そして、その読み終わった本は、ここに返しても返さなくても自由。自分の手元に置きたいと思えばそうしていいし、他の誰かへと渡しても構わないので、そうして、次々と読み続けられるしくみ。だから、やがて、古本屋さんの手に渡ることもあるかも。

古本屋さんは、フランスの街ならたいていいくつもあるし、マルシェの一角やブロカント(骨董とまでいかないけれど古いもの市)の定番。古着や使用済みのものに抵抗のないフランスでは、値の張る古書を扱う店とはまた違う存在として親しまれています。

どんなに携帯機器が便利になっても、本は別物として旅のお伴の定番。

下は、以前、『フランス人は春まで滑る!南仏アルプスのスキー・ヴァカンスとは?』でも載せた写真ですが、小さなリゾートホテルのロビー脇サロンにも、こんな風に、ちょっとした一角が。

不要になった本を置いて行けて、読みたい本は持っていける書棚が見られます。

そして、フランス各地の駅でも、そうしたスペースが、どんどん増えています。たとえば、マルセイユ駅では、構内のカフェの傍らのスペースにこんな書棚。

こちらは、置いた冊数だけ持って行けるのが基本ルール。でも、誰かが見張っているわけでもないので、そう厳しく管理されているわけではありません。

新刊みたいにすごくいい状態のままのものもあれば、ボロボロのものも。帰途に、不要になったからと置いていく人もいれば、出発するついでに不要なものを家から持ってきて置いて行くという人もいるようです。

書棚の前で出くわした同士で、この本はよかったとちょっとした会話になったり、最近読んだ本の話になったり。ついでに、旅先の情報交換になったり、ただカフェで居合わせただけでは生まれない、ちょっとした温かい時間を共有できるのが素敵です。

日本の作家の翻訳本を見かけて、「この作家、いいですよ」と薦めたら、もう読んだという答えが返ってきたことも(逆に、「この本とこの本もよかった」と言われて、自分は読んでなかったり、も。)。

日本に行ったことがなくても、日本の作家の小説のフランス語訳本を読んだことがあるという人は案外多くて、そこから日本文化に触れていたりします。本って、やっぱりいいですね。

フランス語以外の本でもかまわないんです。この頃では、日本語を勉強している人もどんどん増えてきているから、喜んで手にしていくひとが待っているかも。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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