なぜフランスでは、5月1日だけは誰でもスズランを売って儲けてもいいのか?
フランス

5月1日はメーデー(労働者の日)。多くの欧米の国と同じように、フランスでも祝日。オフィスも学校もスーパーマーケットも、全部、お休み。なんと公共交通も(多くの地域で)シャッターを下ろしてしまいます。

まるで、クリスマスの朝みたい……と思いきや、街角はちょっと賑やか。お花屋さんはどこも(お菓子屋さんもいくつか)は開いているし、ところどころ、スズランの花を並べる人たちがいるんです。

なぜなら、フランスの昔ながらの伝統、『スズランを贈る日』も5月1日だから。

16世紀から伝わる、フランスの素敵な習慣。5月1日は女性にスズランを!

女性にスズランを贈って幸運を祈るというこの習慣を始めたのはシャルル9世。エイプリルフールの起源を作ったといわれるのもこの王様。

白い清楚な印象を与える釣鐘型の花・スズランは、春の訪れを知らせるもので、鈴なりのその姿は溢れるように幸福をもたらすシンボルであるとして、1561年に始めたそう。フランス革命より200年以上も前のこと(何でも、起源をフランス革命の前か後かで分別するのが私のクセなんですが、そうすると時代背景が、よりリアルにイメージしやすいんです)。

シャルル9世は、イタリアから(今のフランスグルメの基礎となった)食文化の数々や、マカロン(も!)をこの国に持ち込んだカトリーヌ・ド・メディシスとアンリ2世の間に生まれました。

ちなみに、祖父に当たるのが、フランス史のテストには必ず出てくる偉王の1人、フランソワ1世。そのルネサンス期(美術芸術の発展だけでなく、戦争や宗教弾圧などなども)の発展が、今のフランス文化の源流になっているんでしょうね。カトリーヌ・ド・メディシスは、政治の影で力を振るった人物として語られるのと同時に、彼女のお陰で伝わってきた生活を豊かにするものがいくつもあることで知られます。


そんな風に『愛する人に贈る風習を』として始まったこのスズランの日ですが、何世紀も経た今では、『(すべての)女性に贈る祝日』になっていて、家族や友人、そして、近所の人に贈ったりもします。だから、しつらえや価格もいろいろ。

フランスでは、蘭の鉢植えも買いやすい値段なこともあって、とてもポピュラーで、白いオーキッドとすずらんの組み合わせも人気です。

そう、花束だけではなく鉢植えも人気で、鈴なりの花のついた茎が何本あるかによって値段が違うんですが、たとえば、こんな風に予め色分けされたセロファンで包んで、ひと目でわかるようにしてあったりします。上の写真は、市の中心地のメトロ駅前で。左が2本で6ユーロ、右は3本で8ユーロ。週に1度の朝の花マルシェや郊外などでは、同じものがもう少し安いのは、どこの町でも同じですね。

お花を贈るだけでなく、スズランにちなんだお菓子を愉しんだりもします。ガトーケーキに飾りがついていたり、デコレーションで描かれていたり。飾りは本物ではなく、プラスチック製か砂糖菓子。本物のスズランの花自体は毒性があって、口にはできないのでご留意を!

港近くのあるパン屋さんでは、毎年、この日のためだけに、スズランの香りのするマカロン!も。

色は、アイボリー。バラやスミレは定番なんですが、スズランは前日と当日だけの限定。残念なことに、今年の5月1日は、定休日の月曜に当たるだけでなく世間は三連休の週末の最終日。早めに作るには時間が開き過ぎてしまうので作らないことになってしまい……マカロンは来年までのお預け、です。

 

逆に、1週間ぐらい早取りでスズラン飾りをしている店もあちこち。我が家でも、フライングでプチ・ガトーなどを楽しんでいます。そうして正解でした。前日朝には、すでに完売。

どこも休みな祝日だから、誰かの家でランチというのもポピュラーで、テーブルセッティングにスズランのモチーフをあしらったりも。

たとえば、ナプキン1枚で、いつものシンプルな食器が雰囲気たっぷりになりますよね。

大きさ・形は様々。家庭によって、家具やテーブルサイズが違うものの定番サイズがあるのは、ベッドみたいな感じでしょうか。


蝋燭やちょっとっした小物もいろいろあって、1週間ぐらい前になるとあちこちに並んでいます。この日のためでなくても、スズランが好きなら楽しめますね。ちょっとした贈り物にも。

ちょうど日本に帰っていた年、1週間ほど過ぎて戻ったら、女友達が「(お花はしおれてしまうと思ったので)オー・ド・コロンを買っておいたから」とプレゼントしてくれたことがあります。

「縁起物だから、とりあえず、部屋にひと振りしておくといいわよ」、と。フランス人の多くは、迷信好き(単に話のタネにしている人から、とことん信じている人まで)が意外と多いんです。

5月1日は誰でもスズランを売っていい日! あちこちで即席マルシェが。

さて、生花の場合、当日の朝早くから、街や通りのそこここで、即席の台のスズランを並べて売る人たちが出始めます。一輪だけの小さな切花もあれば、立派な寄せ植えも。

なんと、フランスの法律では、この日は《誰でもスズランを売る権利》が認められているんです。こんなふうに直訳すると、なんだかしゃちほこばった表現ですけど、フランス語表現でよく出てくる「~権利」というのは、「~(そうしたかったら)してもいい」という程度のニュアンス。

だから、売りたい人はお好きにどうぞ!な日。(舗道や広場の)公共スペースを使う届出も必要ないし、収益の税申告もしなくていいし、楽しんで、儲けていいんです。ブロカント(と呼ばれる旧いもの市)やヴィッドグルニエ(家の中の不用品を売りに出すフリーマーケット。こちらは、事前に出展届けをして参加費も必要)が昔からポピュラーなフランスならではの、のびのび楽しい習慣。

他府県ナンバーの大きな車を傍らに停めた生花農家の人たち風もいれば、子ども達だけで店番していたり(大人たちは、すぐ近くに椅子とミニテーブルを広げて談笑していたり)、シックなお花屋さんの前に台を置いて、1本だけの小さな切花をずらりと置いている親子連れも。
子ども達にとっては、街に飛び出すお店屋さんごっこ、ですね。

チャリティにもなっているスズラン

一方で、チャリティがとても盛んなフランスでは、不測の災害時には赤十字や各自治体が寄付金を募りますが、そうでなければ、様々な伝統の風習の機会に、いろいろな団体がそれぞれ物品を販売して得る収益金を寄付するのがポピュラーです。


以前、ご紹介した希望の小麦の種みたいに、スズランでも。マルセイユでは、ロータリークラブが《小児ガンの子ども達を支えるための募金になる》鉢植えを扱っていて、我が家も、子どもの学校経由で予約購入しました。

いつもお世話になっているご近所の、年配ご夫婦と1人暮らしの老婦人に届けるために。

フランスでは、保育園が充実していると言われていますが、マルセイユや大きな都市では、妊娠がわかった時点で申し込んでもキャンセル待ちというほどの競争で、祖父母やヌヌとよばれる保育ママにみて貰う例も多いんですが、毎日必要ない場合、急にちょっとだけ誰かにお願いしたいという時には、家族親族がいないと困るもの。

でも、意外なほどにご近所づきあいの習慣の残る地域やアパルトマンはまだまだあって、「いつでも言ってね」と声をかけて貰えたりします。そうした方たちに、感謝の気持ちを込めて、贈るのも贈られるのも温かい気持ちになれるのがチャリティ。福祉だとか、誰かのために力にならなくちゃと深刻になり過ぎることなく、シアワセの循環、だと思っています。

スズランを売る人も、買う人も、受け取る人も、微笑み溢れる日。どうぞ、いい1日を!

Pays du Soleil Levant  "日本"から来た花たち

日出ずる国=日本。Soleil Levantは、陽が上るという意味で、東方をさす言葉。そんなことから、日本のことをPays du Soleil Levant陽が上る国という表現をする人はとても多くて、そう言われるのは、なんだかちょっと好きです。とくに、「きれいでしょう? そういえば、同じPays du Soleil Levant出身ね!」と、マルシェで言われると。

意外なほどに、日本や東方から中世に伝わった花は多くて、スズランもそのひとつ。今の時季は、街のあちこちでは藤が満開、マルシェでは芍薬や牡丹が主役なんですが、一見、別の花みたいです。

同じ花なのに、違う咲き方、異なる設え方をされていて、でも、だからこそ、全く違和感なくフランスの空気や風景に溶け込んでいて……でも、その存在感はZen東洋ならではのもの。そんな風に、無理せず、しなやかに、でも、自分らしく暮らしていきたいと思っています。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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