自分だけのマルセイユ石鹸を現地で作る!「マルセイユ石鹸博物館」のアトリエ体験
フランス

石鹸博物館

ラヴェンダーの香りに満ちた工房で、ほーっとひと息してきました。
先日ご紹介した、港に面したマルセイユ石鹸博物館では、自分だけの石鹸を作って持ち帰れるアトリエ付きの見学コースも始まっているんです。

30分もあれば出来てしまうし、空いている時間帯なら1人でも随時受け付けてもらえると聞いたので、ちょうど朝1番に近くでの用事が早く終わったこともありちょっと寄ってみました。アトリエスペースは館内入ってすぐ左側。平日なので、船の動きもほとんどないし、人通りもまばら。

工房というと、壁に囲まれた暗いスペースをイメージしがちですが、こんな風に、大きなガラス扉越しに港が一望できるオープンな空間。カモメが行き交う青空が、すぐ目の前に広がっています。

“香り”はフランス生活に欠かせないもののひとつ

フランスでは、香りは暮らしから切り離せないもの。香水を身につけるのがポピュラーなのはよく知られている通りだし、バスルームや寝室だけでなく、玄関や居間にいつもアロマを用意しておく家庭はとても多いし、虫除けや医療効果で知られるものも。

普通の薬局でも様々なグッズが並んでおり、空いている時間帯に行くと、エッセンシャルオイルの効能や使い方など色々教えてもらえたり試させてくれたりするので、好奇心さえあれば、どんどん詳しくなれてしまいます。

そういえば、アロマ教室みたいなものは、改めて考えると存在していないかも。マルシェや店で隣り合っただけでも、いろいろ教えてくれるおしゃべり好きのマダムはそこここにいるし、ママン仲間同士での情報交換も(たとえば、しらみが全国的に流行ったり、たちの悪い蚊が船荷と一緒に上陸しているらしいとニュースになったりすると)、かなり専門的だったりします。
おばあちゃんの知恵袋ではないけれど、昔々からごくごく身近に馴染まれてきたものだからでしょうね。

身につける香りはいつも同じという人もいれば、服を着替えるみたいに香水もTPOに合わせて使い分ける人もいます。私も、生活のシーンごとや、どういう印象を持たれたいかによって、何種類か使い分けています。

家の中も同じ。部屋の香りを整えるだけでなく、季節を愉しんだり、リラックスしたり集中したりといった様々な効果を考えてみたり……こちらは、テーブルクロスを替える感じというところ、でしょうか。

「かなづち?」がこんなに? ええ、石鹸作りのアトリエで使います。


希望者がいれば随時受け付けてくれるアトリエ(製作教室)は、全工程30分ほど。
まずは機械のスイッチをONにしてもらって、暖まるまで数分待ちます。その間に、どんな文字を入れたいのか内容を決めるために作業台へ。

「オリーヴオイル72%」とか「100パーセントピュアなマルセイユ石鹸」などの品質表示の定文やリコーンの名前やデザインの入ったものなど、正方形の銅の刻印版を使いたければ正方形のキューブを。自分の名前など、いくつかのアルファベットを組み合わせたものを入れたければ長方形のキューブを切り出します。

完成品の一例は、こんな感じ。博物館の入り口に、いくつかサンプルが並んでいます。右端が自分の名前入りの長方形、左端がキューブ型。

ちょっと迷いますよね。私は、マルセイユ石鹸の伝統的フォームでもある四角いキューブ型を選択しました。インテリア小物として、我が家にすでにあるものと組み合わせしやすい形ということも決め手になりました。

ちなみに博物館見学だけの場合は、2ユーロの入場チケットと引き換えに好きな香りの石鹸を頂くことができます。見学+アトリエの場合は5ユーロとなり、石鹸は自分で作るものを持ち帰れます。ただ香りについては、その時機械にセッティングされているもののみ(当面ラヴェンダーだそう)とのこと。

石鹸は洗面・バスルーム・寝室と広い用途で楽しむかもしれないので、刻印はあまり深く考えずに、成分表示とマルセイユ品質、そしてイニシャルひとつだけとしました。周りは細い釘を借りて、自分で彫ってみました。

我が家では、化粧室の一角に自宅の植木鉢で収穫したラヴェンダーを乾燥させたものを飾っていて、その脇に、石鹸類を無造作に盛ったボウルを置いているので、とりあえずそこへ。

そうそう、ラヴェンダーはリラックス効果のあるものとして知られているものの、蜂に愛されていることでも有名。クーラーを使わないこちらでは、よく窓から飛び込んで来たり、食卓への来訪(!)もあります。ベッドサイドや枕元に花を飾るのにはご留意くださいね。

さて、それでは、石鹸を切り出しましょう。

「大きな音がするから、驚かないでくださいね」の声とともに、2つ目のスイッチが入れられると、練り歯磨きチューブやソフトクリームマシーンみたいな勢いで、石鹸がうねり出てきます。

音よりも、その勢いにビックリ。

そして、すぐに止めると、このヘラのような金具で切り出してくれます。先ほど機械を温めていたのは、中の石鹸を柔らかくしてこうして四角いチューブ上に送り出すため。そして、冷めて固まってしまわないうちに刻印する、というわけです。

そして、フォアグラを切る器具のような針金をぴんと張り詰めた機械で、端っこをシャープに切って整えてくれます。こちらも、小さいけれど、すごい勢いで一瞬の出来事。危ないので、ここまでの作業は、素人の私達にはさせてくれません。

そうして、手渡されたマルセイユ石鹸の固まりは、温かくて柔らかな感触。蝋細工のような、粘土細工のような、なんとも懐かしくて心落ちつく手触りです。温められた分、香りが豊かに広がるので、工房全体がなんともいえないほんわりとした空気に包まれてきました。

さて、このはんこのようなものが文字のレリーフを入れるためのもので、石鹸の好きな面を選んで載せたら、かなづちで上から小刻みにとんとんと叩きます。20数回で、なんとなく、素人ながらに手ごたえを感じるもので、不思議ですよね。静かにそーっと外します。

この日、アトリエをしてくれたのは、パリ在住のアーティストMr.Yves Yacoël(イヴ・ヤコエル)氏。ユニコーンをイメージしたこの扉のデザインやガラスの壁面は彼によるものです。マルセイユと南仏プロヴァンスが文化首都を務めた2013年には、キューブや石鹸をモチーフにした作品を発表して絵葉書などにもなっているので、見たら作品のどれかをご存知の方もいるかも。

以来、パリとマルセイユを頻繁に往復しているそうですが、平日の日中はこのマルセイユ石鹸博物館で説明やレクチャーを行っています。

週末・日曜日を担当しているのは、Mathieu(マチュー)。彼は、フランス語だけでなく英語も話します。

フランス人は母国語以外話さないと言われていたのは、プライドなどのせいではなくて、話せる人が少なかったのと臆していただけ。この頃のフランスでは、積極的に英語を勉強する人も多いし、こんな風にバイリンガル対応のところがどんどん増えているので、観光客のフットワークはどんどんよくなる感じ。

アトリエは、ものづくりを学ぶというだけでなく、現地の人やその場で居合わせた見知らぬ同士でのコミュニケーション広がるとてもいい機会なので、大好きです。フランスって、単発のアトリエがいっぱいあるので、ちょっと時間が空いたらいろいろ愉しんでいます。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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