「柳宗理デザイン研究所」で大人のおままごとをしたら欲しくなってしまった
日本

柳宗理デザイン研究所

戦後日本のインダストリアルデザイン(工業製品のデザイン)の確立と発展の最大の功労者と讃えられる柳宗理。そのデザインは世界的にも高く評価され、ルーブル、メトロポリタン、ニューヨーク近代美術館に収蔵されています。

柳宗理氏は50年にわたって、金沢美術工芸大学で教鞭をとりました。その縁あって柳宗理工業デザイン研究会が大学にデザイン関係資料を寄託され、これが切っ掛けとなり2014年、金沢市に柳宗理デザイン研究所が開設されました。

この柳宗理デザイン研究所は、大学施設ということもあってもっと専門性が高い施設かと思いきや、「おままごと」が楽しめる施設でした。

インダストリアルデザイナー・柳宗理とは?


日本のインダストリアルデザインの発展に尽くした柳宗理。まずはインダストリアルデザインについて簡単に説明しますと、工業製品デザインと翻訳されることが多いです。

プロダクトデザイン(製品デザイン)と混同されがちですが、インダストリアルデザインとは大量生産できる工業製品のデザインのことを指します。美しさはもちろん、使用者の立場に立ち、使いやすさを追求し、デザインによって商品価値を高めることを目的としたものです。

デザインというと装飾的なものを想像しがちですが、例えばiPod。歴代のiPodにはデジタル音楽のプレイヤーやデバイスとしての役割だけではなく、持ちたいと渇望させるデザイン性がありました。

スペックだけ見るなら、ソニーのWalkmanと遜色ありませんし、寧ろ、Walkmanの方がダイレクト録音機能があるので、オーディオ機器があればすぐに音楽を持ち運べます。

しかし、消費者であるユーザーはiPodを選びました。なぜなら、その直感的でミニマムなデザインがiPodの価値を高めたのです。

シンプルという価値観


シンプル・イズ・ザ・ベスト。よく好きなファッションを形容する言葉として登場します。著者は対極のデコラティブ通り越して、キッチュになっている気がします。シンプルというと簡素ではありますが、素材を活かし最も機能を堪能できるデザインだと思います。

柳宗理氏が最初に手掛けたデザインはこのシンプルな食器でした。当時は大胆な花柄が日用品には不可欠でした。言葉による数少ない資料では、当時は製品のへこみや欠けといったものを隠すために、そのような大胆な絵柄を用いたといわれています。また、時代も華やかさを求めていたようにも感じます。

柳宗理氏の食器のなめらかな表面は傷や汚れを誤魔化せず、勇気あるデザインとも言えます。しかし、戦後間もない物がない時代には物足りなく映ったようです。絵のないシンプルな白い器を三越に営業に行ったら未完成品と評価されたのは有名な話です。

このように、柳宗理氏が手掛けたデザインの特徴は、シンプルであり無駄がないこと。直感的に機能性を感じることができるのです。

柳宗理と民芸

柳宗理デザイン研究所の壁には雑誌「民藝」のカバー表紙やポスターが飾ってありました。それを見たとき「なんか読んだ覚えがあるな」ぐらいの印象で、その時は撮影する必要はないと思ってしまったのですが、今思い返せば、民芸と柳宗理には縁がありました。

柳宗理の御父上である柳宗悦氏は民芸運動を起こした、思想家、美学者、宗教哲学者です。この民芸運動というのは、日常の中で使われてきた手仕事の日用品に、用の美を見出すというものです。これは柳宗理が追求してきたデザインの根本と重なるものではないでしょうか。

「おままごと」ができることが大きな特徴です。


柳宗理デザイン研究所の大きな特徴として、「おままごと」ができることです。

展示におけるコンセプトは直にモノに触れて、感じるということを掲げています。よって、展示品を直接手で触れるようになっています。また、直観の邪魔になる知識や、余計な先入観を植え付けないために、キャプションといった展示物の説明文もありません。

展示室のレイアウトは柳宗理氏が手掛けた家具類、食器、キッチンツールが住宅展示場のように展示されています。よって、このテーブルの椅子に座って、器を持っておままごとができるのです。


著者が座ったテーブルは4人掛け。しかも1人で来てしまい、隣の2人掛けテーブルでは2人組の女の子達が未来の家庭を思い描きながらおままごとをしていました。その楽しそうな様子が、私の心を虚しくさせました。

カップルならより一層、私を虚しくさせたでしょう。よって、柳宗理デザイン研究所は一人で行くのは不向きかもしれません。

ほしいもの、ほしくなったもの


その名の通り形状が、蝶が羽を広げているように見えるバタフライスツール。すらっと、なめらかな曲線と丈夫さが特徴の2枚の成形合板を、1本の連結金属で左右対称に合わせたというだけの椅子です。

生き物の形のような曲線は優美さがあり、筋が通ったシンプルさに潔さを感じます。しかし、どんな生活様式にも馴染む柔軟性があるから不思議です。

柳宗理氏のキッチンツールは、最も身近な作品のひとつで、長く愛用している人も多いと思います。そのようなものを使うのは雑誌「Casa BRUTUS」や「Pen」といった世界の人たちと思っていましたが、この片手鍋を触った途端、そっちの世界の人たちの気持ちがわかりました。

柄の長さが絶妙で火をかけたとき熱くならない配慮があります。張り出た耳のようなところからお湯など、こぼさないように注ぐことができます。最も感動したのは、蓋です。上下回転すると隙間ができ、この隙間から湯切りをしたり噴きこぼれないようにできるのです。

柳宗理デザイン研究所
〒920-0902 石川県金沢市尾張町2丁目12-1
開所時間:午前9時30分から午後5時
休 館 日:毎週月曜(但し月曜が祝日のときは開所)
入 所 料:無料
公式HPはこちら

日常を大切に、楽しむデザイン

柳宗理というとブランド化されて、おしゃれを気取った鼻につく人達のキッチンツールという印象がありました。スターバックスでMacBookをいじっているような人たちが、好みそうな感じがしていたのです。また、シンプルという柳宗理デザインの大きな特徴が、余りにも味気なく見えていたのです。

しかし、実際に触ってみると実用的な機能美を追求したデザインは、理由あってのもので、何気ない日常を大切に楽しむことができるものでした。
日常を大切に、楽しむデザイン

この記事を書いた人

千津

千津ライター

幼いころは何者にでもなれると思っていたのに、成人しても特に何者にもなれず、外に探すようになりました。特に目的もなくふらふらと出かけるのが基本で、旅行も付き合いで行くという主体性のなさ。そんなことを積み重ねて、自分に厚みを出そうと思っています。

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