ゆっくりと本をめくってほしい。ブックカフェ「松庵文庫」の温かさ。
日本

ついに読書の秋がやって来ましたね、ご無沙汰しております。

今回は、是非ゆっくりと本をめくってもらいたいと自信の一店をご紹介。ブックカフェ「松庵文庫」を徹底分析です。

「松庵文庫」とは?


場所は、西荻窪駅から少し歩いた先。2013年にオープンした、建物から漂う重厚な雰囲気との割に、まだまだ初々しい店です。

築80年とも言われるこの建物。実は先住人のご主人が亡くなり、取り壊す寸前だったところを「この家は残さないと!」「もったいない!」と立ち上がったご近所の方々の働きかけにより、オープンした「古民家ブックカフェ」です。

本を紹介するためでも、食事でもてなすためでも、「この家での暮らしを守るためのカフェ」とも言えます。住宅街のど真ん中にあるのもそのためですが、遠くてもわざわざ通いたくなるようなこだわりが至る所に見られます。

「住まい」から生まれる店構え


玄関先で、靴を脱いで入店します。もともとお家だったんですものね。靴が多いから今日は来客があるんだなー誰だろう、と自宅と同じ感覚で思ってしまうような、自然な構えです。

勿論、居酒屋のように立派なロッカーがある訳では有りません。管理は各自でしっかりと。スリッパを履いたらさあ店内へ。

普通のお家よりもずっと広いですが、お店としては丁度よく小ぢんまりとしています。大きな窓から光が一杯に入って来るので、机の手元に照明が無くても快適に本が読めます。

各テーブルと本棚の位置が近いのは、もしかしたら本好きにとって住まいの鉄則とも言える条件かも……。販売されている本でもあるので、手に取る時は大切に扱いましょう。

ラインナップは様々。懐かしの本から店員さんのオススメ、実用書から雑誌まで、幅広いジャンルの品揃えです。

これだけ色々な本が置いてあるのに雑多とし過ぎないのは、置き方の変化の付け様に工夫が見られるかと。平に置くだけでなく立てたり、戻してみたりーー。

1番下の台の本を全て平に置くことで、立った状態の目線で眺めても本棚全体の様子を伺うことも出来ます。

美術本や絵本まで完備。良い意味で見境のないラインナップ。

また、各テーブルには自由に読める文庫本が用意されています。状態は、どれもお世辞には良いとは言えません。つまりは中古本。

棚に置かれている本と比べて、気軽に手に取ることがしやすいです。何より本を読んで過ごすことを前提にしてくれるスタイル。長居してもいいんですよ、というメッセージが伝わってきます。

(実際、いらっしゃったお客様に極力時間制限は設けない方針だそうです。土日は混雑していることが多いので、席を譲り合って過ごし欲しい時もあるとのことですが)

松庵文庫の魅力の1つは、同じ形状の席が1つも無いところ。骨の細いお洒落な席から、

ゆったりレトロなソファまで。同じ場所に、スタイルの違う様々なスポットを寄せ集め、各々が好きなように楽しめる空間を作っています。

同じテーブルや椅子が1つも無いというこの環境、「喫茶店というお店」ではなく「家という住まいの派生」としての雰囲気をいかに大事にしているかが分かります。

真ん中のテーブルが空いていることが多いですね。大きな花瓶が個人的に好きです。勿論ここにも文庫本が。各テーブルで本の置かれ方が違うところも芸が細かいです。お気に入りの席を、自分で見つけてみてください。

こだわりの食事を、読書に添えて


勿論カフェなら食事も充実。しかし安易にカフェご飯とは呼ばせない。どれもこだわり抜いています。

この日いただいたココナッツカレー(¥1,000)は、少し酸味が強め。シーフードの旨味が引き立ちます。予め店員さんがパクチーの有無を聞いてくれますが、これがとても良く合う。

是非一緒に食べてみてほしいです。パラパラのターメリックライスや、ジャガイモの和え物も美味でした。隅々まで美味しさが行き届いたオススメの一品です。

スイーツもこだわり抜いています。アフォガード(¥650)は、深煎りのマヤビニックコーヒーをかけて楽しみます。

香料や卵臭さがない甘さは控えめのアイスクリームに苦味がプラスされ、そこにシュガーコーティングされたナッツが絡まって……よく配慮されています。

よく見ると、アイスクリームは2色。恐らく砂糖の種類が違うのでしょう。確かに喫茶店で、砂糖が2種類用意されているところは多い気がします。あっさりとした白いアイスとまろやかな薄茶のアイス、どちらもコーヒーとの相性は抜群です。

中煎りのTUTUJIブレンド(¥550)は、程よい酸味がコーヒー初心者にも優しいです。ずんぐりした陶器のカップになみなみと。読書のお供に長く付き合ってくれそうです。

チョコレートのテリーヌ(¥700)は、カカオの深みは有っても嫌な後味を残しません。アイスケーキなのに、胡桃がゴロゴロ入っていて食べ応えがあります。

先ほどアフォガードにもかけたマヤビニックコーヒー(¥550)は、深煎りなので酸味より苦味が強め。その代わり冷めても酸化せず、味が落ちにくい不思議なコーヒーです。

他にも看板メニューのキャロットケーキや土日限定のスパイスチーズケーキ等、ご紹介したいメニューが沢山あったのですが……あとは皆さんに足繁く通ってもらうことにしましょう。

今日のひと時をお土産に


お会計のレジは別の「部屋」に設けられており、そこがギャラリースペースになっています。どれも、暮らしに関係する雑貨です。

ジャムや蜂蜜は全て手作り。写真内の蜂蜜が結晶化してしまっていますが、それも手作りならではのご愛嬌(温めれば、ちゃんと元に戻ります)。

やけに多いカゴのコーナー。改めて買おうと思ってカゴを見る機会、実はそんなに無いかもしれません。一面にカゴが並んでいますが、よく見ると沢山の編み方の種類、ブランドで分けられています。用途に合わせてじっくり選んでみてください。

お米やご飯のお供まで。雑貨に混じって可愛らしく置かれていますが、勿論品質も負けていません。

こちらの部屋の本棚は販売目的で並べているため、宣伝が第一。同じものをずらっと並べる!というのは、実は目玉商品を売るための王道の置き方。本そのものが看板代わりになるので、一番に目を惹いて欲しいという意図がダイレクトに伝えられます。

その本にちなんだ雑貨も一緒に置いてしまうという合わせ技。勿論宣伝効果もアップしますが、それにしてもお弁当箱の種類って本当に沢山あるんですね……。

最後に


食べることは生きること、暮らすことは食べること。そんな毎日のお家での生活を、大事に大事にしてきたんだなということが、店内の状態の良さや気配りの行き届いた食事、選ばれた本や雑貨の数々から伝わってくる場所でした。

こんな穏やかな毎日の中で本が読めるのは、ありきたりだけどとっても素敵なことで、でも実際慌ただしい日々の中では難しくてーーそんなことに気付かされる、貴重な時間を過ごすことが出来ました。

それは、昔からずっとそのままなトイレのドアの簡素な施錠が、ちゃんと今でも使えるということからでも伺えます。そんな小さな、でも大切な事の積み重ねで、このお店は動いています。忙しい人にこそ是非一度は訪れてほしいブックカフェです。

松庵文庫
東京都杉並区松庵3-12-22
毎週水〜日曜日/11:30〜18:00(ランチラストオーダー14:00まで)
公式HPはこちら

通うことで、流れる時間

家は、人の居ないとすぐに駄目にしまってしまうらしく、人が足繁く訪れることで綺麗になるものなのだそうです。手付かずなもののほうが汚れない、という風に考えれば一見矛盾してそうな考えですが、このカフェに訪れるとその理屈がよく分かります。

人がお喋りをし、本を読み、美味しいものを食べ、この時間を大切に過ごすこと、つまり生きた時間を流すこと、それが家を生かすことに繋がるということを目で見てきたような体験でした。今回、徹底的な取材をと数回訪れましたが、大切な時間をくれたこのお店にこれからも通う予定です。お客が少ない平日の昼間をお勧めします。皆さんも遊びにいらして欲しいです。
通うことで、流れる時間

この記事を書いた人

香罹伽 梢

香罹伽 梢ライター

とある九段下の大学生。国文学科映像メディア専攻。近現代文を研究したり、作ったりが専門。都心に行けば下っ端書店員。 書評であれ創作であれ、文学研究という素敵な趣味を1人だけで完結させるのは勿体無いので、文芸団体を主宰したり読書会をインカレで運営したり、書評を広報したりと「複数人で盛り上げる文学ライフ」に力を入れています。 ここでは、主に都内のブックカフェを紹介し、様々な本との触れ合い方を皆さんとシェア出来たらなと思っています。

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