本屋Titleは、インテリアやお洒落として本を扱う昨今流行りのリアル書店とは違う。単なるブックカフェでもない。どちらかというと、最近めっきり減った町中の本屋さんに近い、でもちょっぴり違う。そんな不思議な本屋さん「本屋Title」についてご紹介する。
新しいけど、どこか懐かしい外見のお店。
Titleは、JRの荻窪駅から歩いて10分ほどの距離のところにある。決して駅近とはいえない。でも、時間をかけて本屋まで歩くのは、なんだかワクワクするし、期待も膨らむ。それに荻窪は、筆者はほとんど降り立つことがない駅。お散歩がてらちょうどいい。
そして目的地のTitleに到着。お店のロゴが描かれた黒板が出ていた。
古民家をリノベーションしたTitle。外装はとってもレトロだ。新しいけど、懐かしい趣き。
残念ながらTitleでは、お店の中の写真を撮ることができないので、今回写真は外装のみ。なぜ、と思う方もいらっしゃるかもしれないが、まずここがいわゆるお洒落書店とTitleの違いなのだ。
このお店の空間は、訪問者が写真を撮ってSNSにアップロードすることを目的として構築されているわけではない。確かに店内の見栄えは良いが、それはあくまで結果であって、目的ではないのである。お客さんが本のある空間にどっぷりと「浸る」ためのの空間なのである。
小難しいことを書いてしまったが、要するにTitleの雰囲気を壊さないための撮影禁止。けれどもお店に滞在していて、筆者はこのことにすごく納得がいったし、お店の本とお客さんを大事に思う気持ちが理解できた。
気になるお店の中は……。
稚拙ながら、Titleの店内図を描いてみた。
店内には、文庫などが並ぶ木製の本棚(店主の辻山さんが記した『本屋、はじめました』によれば、特注とのこと)と、シックな黒い本棚が並ぶ。棚は女性でもギリギリ手が届く高さであった。某書店のように、絶対に手の届かない位置に本を陳列しているということはなかった。
お店がコンパクトな分、一冊一冊の本が目につきやすいように感じた。またTitleは一般的な新刊本屋とは異なり、カテゴリーごとに本が分類されてはいない。これが一冊ごとの本が目につきやすい、もう一つの理由であると感じた。
つまり、ジャンルや本の種類ごとに分類しておくと、隣り合った本と似通っているため、本棚の中に一冊の本が埋没するおそれがあるが、ここではバラバラであるために一冊が目立つのである。
いくつかの本は表紙を通路側に向けて置いてあるが、よくある本のそれとは異なり、新しく刊行された本という訳ではない。Titleがおすすめする本である。
お店の天井に目を向けると、立派な太い木を丸々一本、梁として渡してある。この建物の歴史の長さをうかがわせる要素だ。
本屋の2階は展示スペースとして活用されているが、この日は入れ替えのため入れず。ただ、1階の書店スペースにいると、2階で人が動くたびにみしっ、と床が軋む音がするのが心地よい。もちろん1階部分も床は木製なので、歩くとコトコトというご機嫌な音がして、気分が良い。
Titleにはもちろん雑誌も置いてある。漫画だって、月刊誌だって立派な一冊の本なのだから。しかしこちらの本屋には写真週刊誌のような猥雑な雑誌は陳列されていない。それらは陳列すれば売れるかもしれないが、Titleの雰囲気にはおよそ似つかわしくない。Titleに並ぶ本は、上品で、どことなく落ち着きがあるのだ。
本棚に隠れるようにして設置されたレジ(店員の視線を気にせず本と触れ合ってほしい、という思いからこの配置になったのだそうな)の脇には、個人などが制作したミニコミの棚もある。こうしてミニコミが陳列されている本屋さんは珍しく、筆者も思わず手に取ってしまった。なんだか創作意欲が沸き上がって来る思いがした。
本選びを邪魔しない、ブックカフェ
お店の奥にあるカフェのお陰で、店内はコーヒーとスイーツのふわっ、とした香りで包まれていた。ゆったりとしたBGMも相まって、リラックス効果は絶大。思う存分、本選びに没頭することができた。
最近のカフェが併設された本屋では、本屋とカフェの線引きが曖昧になり、本選びの際にカフェがノイズになることが多々あったが、Titleは段差も存在するせいかカフェと本屋がきちっと分かれているように感じた。
NORIMAKIがTitleで買った2冊。
Titleでは2冊の本を買った。一冊は『という、はなし』という本。可愛らしい表紙に目を引かれて手に取ってみたところ、フジモトマサルさんという方が描いた動物が読書する絵に、後から吉田篤弘さんが文章を載せたという変わった本だった。
帯もないし、ちくま文庫の本は少し値が張るイメージがあったので、なかなか手が出せないでいたのだが、このお店ではなぜかすっと買えてしまったから不思議である。
『という、はなし』は読書がテーマの本だったが、この本屋には本を題材にとった本が多かったように感じる。本好きが感じる、心地よさはこういうところからも来ているのかもしれない。
もう一冊は、『本屋、はじめました』はTitle店主の辻山良雄さんが、Title開業までの経緯を綴った本だ。
こちらの本は初めからこの本屋で買おうと思って購入した一冊。新刊本屋の開業を単なる偉業として自慢するではなく、朴訥な筆致で綴っていたため、最後までTitleの世界観から離れなかった。
本を購入する時に、作者であり、店長の辻山さんとお話することができたのも良かった。チェーン店の本屋では店員さんとの会話はまず考えられないが、Titleはやはり町の本屋さんであり、荻窪が地元でない筆者でも話したくなる、そんなアットホームさがこのお店にはあるのだ。
一冊は買いたくなる本が見つかる本屋。
Titleがこういう本屋だと一言で言い表すのは難しい。強いて言うなら、不思議な雰囲気のお店といったところだろうか。外界とはまったく、違うスピードで時間が流れているように感じるのである。それがお店の居心地よさにつながっているのではないかと思う。
そして繰り返しになるが、Titleはよくあるお洒落書店、セレクト書店とは異なる。Titleはそれらと違って、店主の辻山さんの血が通った本屋なのだ。本の並べ方や雰囲気から、ここは本が好きな人がやっている本屋さんなんだな、という感じがわかる。どこか温かいのである。本を眺めていると、友達がそうするように、本棚が本を薦めてくれているような気がする。
Titleに来れば、一冊は何かしら買いたい本が見つかるはずだ。特に目的の本を持たず、本のある空間を楽しみにTitleへ訪れてみてほしい。