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    いまベトナムでは戦時中に生まれたプロパガンダアートが人気
    ベトナム

    近年、ベトナムのカルチャーとして注目されているのが、プロパガンダアート。

    ベトナム戦争時にプロパガンダが盛んになったベトナムでは、現在も街角でプロパガンダアートを目にすることができますが、近年では、外国人を中心に新たな「トレンド」として人気を集めているのです。

     

    レトロで独特の世界観をもつベトナムのプロパガンダアートは、外国人にとっては妙に気になってしまう存在。プロパガンダをデザインした雑貨のみならずレストランまである、ホーチミンのプロパガンダアート事情をレポートします。

    ベトナムのプロパガンダ

    「プロパガンダ」とは、広義では「宣伝」のこと。特に、政治的意図のもとに特定の思想や主義を喧伝し、個人や集団の行動を意図した方向へ向かわせようとするような宣伝のことを指します。

    ベトナムでプロパガンダの存在感が増したのはベトナム戦争時。当時は国民の団結や戦意高揚を目的にしたものが中心でしたが、現在は自由や国防を掲げるものだけでなく、公共の安全や秩序の維持、記念日、環境保護など、多彩なテーマの宣伝に用いられるようになっています。

    ホーチミンのプロパガンダアート

    ベトナム最大の都市・ホーチミンの街を歩いていると、あちこちにプロパガンダのポスターが掲げられていることに気づきます。プロパガンダアートが特に目立つのは、サイゴン大教会や統一会堂周辺など、ホーチミン観光の中心地。ホーチミンの近代史の中枢ともいえる場所です。

    内容は、「ベトナム人民軍70周年」や「第一次インドシナ戦争を忘れない」というものなど、戦争や国防に関連するもののほか、勤労や勤勉を訴えるものもあります。いまだに建国の父ホー・チ・ミンの絵や顔写真が登場しているものもあり、ベトナムにおける彼の存在感の大きさを実感します。

    ベトナムのプロパガンダアートは、イラストが主流で文字が少なく、色使いがカラフルなのが特徴。文字があまり読めない人でも、視覚的に内容がわかるようになっているのです。

     

    昔の日本の漫画のような、どこか懐かしさを掻き立てる筆致に、時に物騒な内容であるにもかかわらず、ほのぼのとした人物の表情……普段こうしたスタイルのアートを見る機会がない外国人にとって、ベトナムのプロパガンダアートはとても新鮮で、ついつい惹きつけられてしまう存在です。

    プロパガンダと政治体制

    通常の旅行では、その国の政治体制を意識することはなかなかありませんが、街のあちこちでプロパガンダを目にすると、ベトナムが社会主義の国であることを思い出さずにはいられません。

     

    ベトナムの正式名称は、「ベトナム社会主義共和国」。第二次世界大戦後、ベトナムは、社会主義の北ベトナムと、親米の南ベトナムに分断されました。

     

    1975年には、南ベトナムの首都であったサイゴン(現ホーチミン)が陥落。北ベトナムが実権を掌握し、1976年に現在のベトナム社会主義共和国が発足します。

    プロパガンダ7

    プロパガンダは、これまで社会主義国家で多用されてきた手法。「歴史に”If”はない」とよくいいますが、もし南ベトナムが南北を統一していたら、プロパガンダアートであふれるホーチミンの風景も違うものになっていたのかもしれません。

    トレンドになったプロパガンダ

    プロパガンダ9

    近年、ベトナムのプロパガンダアートが、本来の「プロパガンダ」としての役割を超えて、「トレンド」になっている例が目立ちます。

     

    プロパガンダアートは、ベトナム人の若者にはあまり人気がないといいますが、独特の世界観から、外国人には新鮮なものとして注目され、プロパガンダアートをあしらった雑貨が人気を博しているのです。

    プロパガンダ8

    プロパガンダ雑貨ブームの牽引役ともいえるのが、欧米人に大人気の雑貨ショップ「サイゴンキッチュ」。

    2階建ての店内には、プロパガンダアートをあしらったポスターや文房具、マグカップなどをはじめ、従来のベトナム土産とは一線を画すハイセンスな雑貨がずらりと並んでいます。

    プロパガンダ10

    フランス人がオーナーというだけあって、ベトナムのモチーフにフランスらしいアレンジをきかせた洗練されたアイテムが多く、欧米人に人気があるというのも納得。

    ここの雑貨を入口に、ベトナムのプロパガンダアートに興味をもつ外国人も少なくないそうです。

    Saigon Kitsch
    住所:43 Tôn Thất Thiệp, Bến Nghé, Quận 1, Hồ Chí Minh
    https://www.facebook.com/pages/Saigon-Kitsch/482422941780809

    プロパガンダポスター専門店も

    プロパガンダ11

    ホーチミンのバックパッカー街として知られるブイビエン通りには、プロパガンダポスターの専門店「ライス」もあります。

     

    小さな店内には、自由と独立、反戦、食料増産、動物愛護など、さまざまなテーマのポスターがぎっしり。プロパガンダとはいっても内容はさまざまで、インテリアとして採り入れやすいソフトな内容のものも。

    プロパガンダ16

    この2枚でうたわれているのは、「森は黄金」「たくさんの米を育てれば育てるほど、我々はより幸せに、より賢くなる」というメッセージ。

    戦争を匂わせる要素のないプロパガンダポスターなら、レトロなムード漂うアートとして、気軽に手に取れますね。

    RICE OLD PROPAGANDA POSTERS
    住所:183 Bùi Viện, Phường Phạm Ngũ Lão, Quận 1, Hồ Chí Minh
    ※近くのファングーラオ通りにも店舗あり

    プロパガンダレストランまで

    雑貨や食品だけでは飽き足らず、ホーチミンにはプロパガンダをテーマにしたレストランも登場しました。ホーチミン観光の中心地、サイゴン大教会の近くにあるお店は、その名も「プロパガンダ」。

    壁一面に極彩色のプロパガンダアートが施されたカラフルな空間が印象的で、お店の看板やソファ、ナプキンに施されているのも、もちろんプロパガンダアート。卓上に置かれている小物類も共産主義チックな雰囲気を醸し出しています。

     

    ベトナムのプロパガンダの世界観をモダンに採り入れた楽しい空間は、外国人旅行者や現地の若者に大人気。ベトナムの家庭料理にアレンジを加えたヘルシーな創作料理が楽しめます。

    名物は、揚げ豆腐やブラウンライスなどがのった米麺「プロパガンダヌードル」。ベトナムの揚げ豆腐は、外はサクッ、中はトロッとしていて絶品です。

    Propaganda
    住所:21 Hàn Thuyên, Bến Nghé, Quận 1, Hồ Chí Minh
    http://www.propagandabistros.com/

    もともとは富国強兵が目的でしたが、いまでは政府の意図とは関係なしに、古いのに新しいアートのスタイルとして確立された感のあるベトナムのプロパガンダアート。

     

    街角やお店など、街のあちこちで遭遇するプロパガンダアートに注目すれば、ホーチミンの旅がもっと楽しくなるはずです。

    外の目によって「アート」に昇華

    筆者はこれまでに4度ベトナムを訪れていますが、今となってはプロパガンダアートは、ノンラー(ベトナム笠)やバインミー(ベトナムのバゲットサンド)とともに、ベトナムを代表する風景になった感があります。

    ベトナム人の若者からすれば、プロパガンダアートは取るに足らない存在、あるいは「ダサい」存在かもしれませんが、それが外国人に注目され、トレンドになっていっているというのは非常に面白い現象だと思います。日本の浮世絵が、海外で「芸術」として評価され価値が高まっていったように、その国では身近すぎて目にも留まらないようなものが、外(海外の人々)の目によって「アート」や「文化」に昇華されていくのですね。

    「プロパガンダアート」というと、とっつきにくいイメージがありますが、政治色が強くなく、単純にインテリアとして楽しいポスターも多いので、筆者も思わず数枚購入してしまいました。

    この記事を書いた人

    はるぼぼ

    はるぼぼ旅するライター・ブロガー

    和歌山出身。東京での会社員時代、旅先の長野でドイツ人夫に出会う。5ヵ月間のアジア横断旅行と2年半のドイツ生活を経て、2018年7月日本に帰国。これまでの海外旅行歴は60ヵ国240都市。特に目がないのが、「旧市街」「歴史地区」と名のつく古い街並みを歩くこと。旅のリアルな「ワクワク」をお伝えします。

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