ダナン帰りの家族やお友達、同僚からのお土産に、シンプルだけど色鮮やかな箱に入ったチョコレートをもらったことはありませんか? そして、その箱には流れるような字体で「Pheva」と印字されているのでは?
それこそまさに在住者も含め日本人観光客から高い人気を集める、ダナン生まれの「Pheva(フェーヴァ)」チョコレートです。
観光地として脚光を浴び始めた当初、ダナンには旅行者の心を掴むようなオリジナルのお土産はありませんでした。カワイイ雑貨の国として知られるベトナムなのに、ダナンでは買い物が楽しめない、というちょっと残念な状況だったのです。
それゆえ、ベトナム産の素材とフランスのエスプリが効いたPhevaのチョコレートは世に出るや否や、待ってましたとばかりに観光客からの支持を集めます。何と昨年11月には日本進出も果たしてしまったのです。
今回はそんなPhevaの魅力に迫るべく、何と、フランス人オーナーのヴィンセントさんに直接お話を聞いてきちゃいました。
ダナン中心部にあるPheva本店へ行ってみよう
ダナン市内中心部のチャンフー通り。実はユルワはこの通り沿いのアパートで暮らしていたので、なじみ深い場所でもあるのですが、ここはダナン名物ドラゴン橋にもほど近く、観光客が集まる一角でもあります。
そんなチャンフー通りの239番に、ブラックを基調としたシンプルでエレガントなPheva本店があります。ベトナムから一気にフランスに飛んできたかのような気分でガラス戸を開くと、なんと「いらっしゃいませ~」の声に迎えられます。
Phevaを訪れるお客さんの多くが日本人ということで、日本語ができるスタッフが常駐しているのです。商品のポップにも日本語版があるので、安心してお買い物ができるのがありがたいところ。
ちなみに以前ご紹介した日本語でお土産が買えるHoa Ly(ホアリー)の斜め前にあるので、ハシゴも可能です。
さらに、スタッフがユルワに小さなチョコを差し出してくれました。実際に販売されている18種類のフレーバーのうち、いくつかの種類を気前よく試食させてくれるサービス。
Phevaでのチョコレート選びは他とはちょっと異なります。味を確認したら、次はカラフルなパッケージから好きな色とサイズの箱を選び、それから好きなフレーバーのチョコレートをバイキング形式で自らセレクト。
と、まあ、Phevaチョコレートについてはネットでも多数紹介されているので、説明はこれくらいにしておきましょう。
というのも、ユルワはこのユニークなチョコレートショップについて、もう一歩踏み込んでみたくなったので、再びダナンを訪れた際にオーナーのヴィンセントさんに直撃してみることにしました。
オーナー自ら語るPheva誕生秘話
Phevaをスタートさせたのはフランス人のヴィンセントさんとベトナム系フランス人のナム・フーンさんのお2人。
かつて植民地時代の宗主国だったフランスは今でもベトナムとつながりがあり、ベトナムの主要都市でフランス人がカフェやビストロ、レストランなどを経営するケースがよくあります。Phevaも果たしてそんな「フランス系」のお店なのでしょうか?
1時間にも及ぶインタビューで得られた答えは「ノン(違う)」でした。
「僕とパートナーのナム・フーンとはフランスで出会ったんですけど、彼女はもともとダナン出身のベトナム人なんです。子供のころフランスに移住して、フランスで育ちました。それで2008年に彼女はダナンに戻って何か始めようとした。それがPhevaのチョコレートという形になったんです」
経済成長の波に乗り、諸外国から旅行者が訪れる観光立国になったベトナムでしたが、久方ぶりに故郷に降り立ったナム・フーンさんの目に映ったのは、外国への輸出に適うクオリティの物産に乏しいという事実でした。
「それでナム・フーンはベトナムで新しい何かを、自らの手で生み出すことにしたんですよ。しかも彼女は芸術家肌なので、クリエイティブな発想を活かしてモノづくりを始めたんです」
2010年、そんな若き起業家が向かったのはメコンデルタ地域のベンチェーと、西高原地帯のダクラック省。ベンチェーはココナッツの産地として知られ、ダクラック省は高地を活かしてコーヒー豆やアヴォカドなどの農業が盛んです。
実はダクラック省では植民地時代にフランス人によるチョコレート原料のカカオ豆の栽培が行われていたのですが、戦争の時代にカカオ豆産業は一度途絶えてしまいました。しかし、2000年ごろから家族規模でカカオ豆の栽培が再開されるようになり、ベトナムでもチョコレート製造の可能性が生まれます。
そこに目をつけて、ナム・フーンさんはダクラックのカカオ豆のクオリティを確認した上で、2012年にPhevaをスタートさせたのでした。
そう、つまりPhevaは創立以来わずか5年しかたっていないことになります。しかし、短期間でこれだけの成功ぶりには目を見張るものがありますね。ユルワの興味はますます膨らんでいきました。
ナム・フーンさんから遅れてダナン入りをしたヴィンセントさんは、フードエンジニア。プロとして原材料や製品の品質管理などを担当しています。Phevaのチョコ作りについてこう話してくれました。
「ベトナムにはほかにもチョコレートブランドがあるけれど、僕たちがやっているのは伝統的なチョコ作りはないんですよ。飽くまで新しいチョコレートを作りたいと思ってます」
Phevaが目指す「新しさ」とは
「チョコレートの製造販売において、大方のブランドは最初のステップにフォーカスするものですが、ぼくたちはあえて最後のステップにフォーカスしたビジネスを展開してるんです」
つまり、通常は小売り形態のビジネス展開方法や、ダークチョコに限定した製造など、各メーカーが「どんなチョコレートを作るか」に重きを置くのに対して、Phevaは製造段階だけではなく「いかにチョコレートをパッケージし、売っていくか」という販売プロセスで独創性を発揮しているということなのです。
Phevaではお客さんが試食し、チョコレートそのものだけではなく、パッケージも自ら選ぶことができると先ほど書きましたが、まさにこのパッケージとバイキング的なショッピングスタイルこそがPhevaが持つ新しさなのです。
「このカラフルなパッケージはすごく好評なんだけど、それはアーティスト、ナム・フーンのアイディアなんですよ」
本場フランスのチョコレート製造技術とベトナム各地の素材をふんだんに使って生み出されたチョコレートが、高級感を持ちながらも決して敷居が高くないのはオーナー両人の遊び心が表現されているからなのかもしれませんね。
更にユルワは最近チョコレート業界周辺でよく聞かれる、搾取や児童労働などについても質問をさせてもらいました。
「いいところを突いてくれましたね。ベトナムのカカオは小規模の家族経営の農園で栽培されているので、高額なんですよ。つまり、それはアフリカなどでよく問題になるようなことが起こらないということでもあります。
ベトナムではそういったことは法律で固く禁じられているんです。僕たちもベトナムのカカオ産業のクリーンなところがいいなって思ってます。」
つまり、Phevaのチョコレートは独創的で且つ持続可能な路線にあるということ。フェアトレードなどに関して意識を持った人でも安心して買うことができますね。
ホイアン、ハノイそしてホーチミンと全国レベルで知名度を上げてきたPhevaの勢いはとどまることを知りません。今後もチョコレートの更なる質の向上に加え新製品の開発など、まだまだ取り組みたいことがあるとヴィンセントさんの思いは熱いです。
Phevaと日本のつながり
そして気になるPhevaと日本との関係ですが、先述の通り2016年の秋、大宮そごうの地下食品街に日本1号店がオープン。そして2017年のバレンタインフェアでは関東圏の百貨店でのブース出店で大成功を収めたのです。
その時期に合わせて来日した二人は、日本の接客マナーなど学ぶことも多かったそうです。「日本のお客さんなしには今のPhevaはありません。だから心から感謝しています」
Phevaのお客さんの多くが日本人観光客や在住者であること、そして日本でのバレンタインフェアでもベトナムのことを知らない新規のお客さんにより、予想以上の好セールスを叩き明日ことができました。また、日本進出に関しても、ダナン在住の日本人の方々による尽力が大きかったのだとか。
在住時代、よく日本からのお客さんをお連れしたものですが、ヴィンセントさんに今回がっつりインタビューで教えていただいたことにより、Phevaが持つ魅力の数々が明らかになりました。
新しいオリジナリティを求めるヴィンセントさんとナム・フーンさんの情熱がチョコレートにストーリー性という付加価値を生み出しているんだな、と思いました。
Phevaの快進撃はまだまだ終わりそうにありません。月ごとに変化を遂げるダナンの町と同様、これからも楽しみですね。
239 Trần Phú, Hải Châu, Đà Nẵng, ベトナム