小田原―お隣の箱根に人気の座を奪われがちですが、JR新幹線・東海道線・小田急線など複数の鉄道が乗り入れる交通の要所であり、小田原城に新鮮な海の幸など多くの魅力を持つ観光地であることに変わりありません。さらに小田原駅からローカル線を乗り継ぐと、天狗伝説を持つ大雄山のパワースポットへもアクセス可能なのです。
それは今を遡ること600年前、とある禅僧が黒鷲に導かれて開いた霊場・最乗寺。その広大な境内にはそこかしこと天狗の強力なエネルギーが感じられる、神秘的な森が広がっています。・・・というわけで今回は、あなたを天狗の開運パワースポットへとご案内します!
天狗伝説を持つ最乗寺とは?

小田原からほど近い南足柄市の山間に位置する最乗寺は、曹洞宗(禅宗)のお寺です。冒頭の通り、およそ600年前に、伊勢原出身の了庵慧明禅師により開山されました。この開山のきっかけにもちょっとした伝説があります。50代半ばで里帰りした了庵慧明禅師が庵で暮らしていると、ある日一羽の大鷲が禅師の袈裟をつかんで足柄の山中まで飛んで行ってしまったそうです。その袈裟を追いかけたところ「飛び大松(袈裟掛けの松)」の枝にかかっていたことから、これが啓示だと悟った禅師が建立したのが現在の最乗寺なのです。

境内と参道合計約26ヘクタールにも及ぶ敷地には、了庵慧明禅師自ら植林した杉の木々が脈々と保護され続け、今では大木の杉林に・・・そんな深い森に包まれた最乗寺は、天狗伝説とのゆかりが深いお寺として知られています。伝説の主は、了庵慧明禅師に仕えた道了大薩埵(どうりょうだいさった)なる人物で、霊力、フィジカル共に優れており土木事業も常人の何倍ものペースで進めた超人だったとか。

その、師匠である了庵慧明禅師が他界した際には「これからは山中で大雄山を護り、多くの人々に恩恵を与える」と誓いを立て天狗の姿に変身してしまい、白狐の背に立って山中へと消えていったそうです。そして天狗となった道了大薩埵は今でも最乗寺を参拝する人々を守護し続けている・・・これが最乗寺の天狗伝説です。
京都の鞍馬寺のように、深い山中には天狗が棲んでいると昔から言い伝えがありますが、この最乗寺も霊場の名にふさわしい森の中に鎮座することから、天狗の住み処と言われると妙に説得力がありますね。
●最乗寺
神奈川県南足柄市大雄町1157
霊場・最乗寺の神秘的な杉の森

最乗寺へのアクセス
小田原駅から伊豆箱根鉄道大雄山線で25分弱。終点の大雄山駅からさらにバスに揺られること10分。その間に仁王門を過ぎた辺りから深い杉林が始まります。三門手前の「道了尊」バス停で下車し、そこからはお堂へ向かって森の中を徒歩で進んでいく形になります。霊場の称号にふさわしい、霊験あらたかな山の空気に心身洗い清められる心地がするはず。
座禅石

まっすぐ参道を進む前に、早速必見スポットがあります!
三門を入ってすぐの左側にかかる橋を渡った先に、異彩を放つ大きな岩が見えるのですが、これが「座禅石」。了庵慧明禅師がこの石の上で坐禅をしていた際に、最乗寺の建立を決意したと言われる、最乗寺の起源の聖地。他の岩と放つエネルギーが異なるのは一目瞭然です。

参道へ戻り、緩やかな階段を上った先の門をくぐるとそこは本堂。ここでのお参りを済ませたら、さらに左奥へ進みましょう。
水神の浄化スポットから結界門へ

洗心の滝
本堂から左へ進み不動堂で手を合わせていると、清らかなせせらぎが耳に入ってきます。水神が祀られた「洗心の滝」の音で自ずと心が無の境地に。
・・・とはいえ最乗寺のパワースポットはまだまだ終わりません!むしろここからが濃厚なエネルギーに包まれた「本場」が始まるのです。
結界門・御真殿

一対の天狗が守りを固める「結界門」の内側こそが、最乗寺の守護天狗・道了大薩埵の領域と言われています。その右脇の77段の階段の先には、道了大薩埵を祀った御真殿が鎮座。ただし左側の迂回路を経由すれば、階段を上らずに緩やかな坂道でお堂にたどり着くので、脚がつらい方は無理せず左側を進みましょう。

お堂脇にはちょっと不思議な光景が広がっています! 巨大な天狗の高下駄が飾られ、周囲には無数の下駄が並んでいるのです。「一揃いの下駄」ということで、夫婦円満・和合の意味があるのだとか。

結界門の内側へ足を踏み入れるとわかるのですが、明らかに本堂のエリアと雰囲気が異なります。山岳信仰の神社と共通する、おごそかで神秘的なオーラに包まれているのです。それだけ純度の高いパワースポットということなのでしょう。
次はいよいよ、文字通りパワースポットの頂点とも言うべき奥の院へ進みましょう・・・
奥の院と女性必須のお願いスポット

目の前に広がる、合計354段の階段に圧倒されてしまいますが、な天狗様からの最後の試練ということでひるまず挑戦しました。(足が悪い方は無理をなさらず)

途中で一対の天狗が参拝客を鼓舞するように迎えてくれます。迫力のある天狗像ですので、休憩も兼ねて撮影タイムを取るのもオススメです。

脚に感覚がなくなってきたところでゴール! この奥の院のご本尊は十一面観音菩薩で、道了大薩埵の本地仏とされています。天狗の神様は実は十一面観音菩薩様だったのです。
奥の院へたどり着くこともちょっとした修行。その暁に目の当たりにできる奥の院のお堂は、それだけで厳かで強いご利益がありそうな印象を受けたのは私だけでしょうか・・・

奥の院の裏手から坂を下ること10分ほどで、ひっそり佇む小さなお堂「慧春尼堂(えしゅんにどう)」が視界に入ります。慧春尼は開祖・了庵禅師の妹で、絶世の美女だったそうです。しかしそれが原因で、慧明禅師に入門を願っても許されず、自ら顔をやけどさせた結果、やっと入門を許可されたという逸話の持ち主。

仏門への情熱と行動力にあふれた尼僧だったようで、その生き様については色々なエピソードが残されています。ちょうど筆者と同時にお参りしていた地元の方が、女性がお願い事をするのに良い場所だと教えてくださいました。中世を生きたパワフルな女性にあやかれるオススメのパワースポットです。
もう一つの伝説―金太郎のふるさと

広大な森の中に鎮座する最乗寺は、京都の鞍馬寺や茨城県の御岩神社に似た雰囲気を持ちながらも、知名度はさほど高くないのか人もまばらで、静かにお参りできる穴場のパワースポットと言えるでしょう。
さらにこの南足柄の地域では、日本人なら誰もが知る「金太郎」伝説発祥の地でもあります。金太郎が実在していたかについては議論があるようですが、天狗と縁のある大雄山に近いこの地域なら、そんな超人がいてもおかしくないのかもと思ってしまったり・・・
何はともあれ、この記事を通して箱根だけではなく、小田原周辺の魅力が伝われば嬉しいです!