「マルセイユ石鹸博物館」で、天然成分100%の受け継がれる伝統を学ぶ。
フランス

マルセイユ石鹸博物館

マルセイユに来たら、ぜひ味わってほしい、素敵な風景・美味しいものも尽きないけれど、見て知って(文字通り)肌で感じていただきたいのが、石鹸!
有名無名様々な作り手がいて、その数は90にも上ると言われています。人によっては、贔屓のメーカーがあったりもするようですが、マルセイユ石鹸と名のついている(きちんと軒を構えた店)なら、天然成分へのこだわりは同じ。日本には輸出されていないままで知られていない店はずいぶんあるので、少しずつご紹介していきますね。

まず1番手は、老舗LICORNE(リコーン社)。
市内にいくつか店舗を構えるうち、工場併設の本店では、平日に製造過程を無料見学させてくれていることでも知られていますが、さらに、こちらのLe Musée du Savon(石鹸博物館)(25, Quai de Rive Neuve, 13007 Marseille)を、今年6月にオープンさせました。

 

Savon de Marseille(マルセイユ石鹸)といえば、肌に優しい天然素材として世界中に知られている通り。古くはローマ人達の時代に遡るそうで、この町で石鹸作りの基本の形が始まったのは12世紀。ルイ14世の時代に王室御用達になった折に、原材料の品質や成分比率を厳しく管理されるようになったと言われます。そして、リコーン社の説明によると、1789年に、Nicolas Leblanc(ニコラ・ルブラン氏)が、高品質の苛性ソーダ生成技術に成功したのをきっかけに、マルセイユの石鹸が世界でも特に優れたものとして知られるようになっていきました。
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ヴュー・ポー港の新名所、Le Musée du Savon(マルセイユ石鹸博物館)。

マルセイユの港は、コの字形をしていて、ここからマルセイユの、そして、フランスの歴史が始まりました。(こちらは、いずれ、マルセイユ歴史博物館をご紹介するときに)。
コの字の上の横線の真ん中辺りに当たる場所に市役所、その後ろの階段を上ると、今もオテル・ド・デューという昔ながらの呼び名で親しまれているインター・コンチネンタルホテルがそびえ、その後ろの坂道広がる辺りが旧市街パニエ地区。映画やTVでも、よく知られる区域です。
その市庁舎の正面からFerry boatフェリーボートという名の小さな船が運んでくれる対岸は、古くは商人の倉庫、そして、対戦中は武器庫としても重宝された地区で、19世紀の建物が今もそのまま、店や住居、そして、オフィスや美術館として使われています。ハードロックカフェや劇場にも改装されているものも。
この石鹸博物館があるのもそんな一角、写真の対岸右側の方です。
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受け継がれる伝統は、技術だけでなく、想い、も。

写真は、その落成レセプションの時のもの。向かって左、紺のスーツに同色のネクタイ姿の男性が、リコーン社の3代目オーナー(右のお二人は来賓)。
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自ら製造開発に携わり経営するのは、代々受け継がれてきたこと。そうしなければいけないと育ったわけではないけれど、望んでその道を進みたいと目指すのも、代々受け継がれてきた同じ想いのよう。高校生の息子さんは、すでに、そのために必要な専門知識を得られる理系の大学に進学するためのリセを選んでいるそうで、とても大人びて見えました。
フランスの子ども達は、小学校でもすでに、将来はどうしたいのかと訊かれ答える機会はとても多くて、もちろんそうでない子もいるけれど、自分がどの道に進みたいか、何をしたいか、そのためにはどんな努力が必要かを踏まえている子が少なくなくて、とてもしっかりと自分を持っています。
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フランス人は個人主義といういうイメージが強いのは、子どもの頃からのこうしたスタンスの影響も大きいかもしれませんね。
話は戻って、そんな博物館のオープニングには、国会議員や地方議員の方達も駆けつけながらも、仕事だから来たわけではなくて、近しい友人知己としてという雰囲気溢れるとても温かいもの。そして、このプロジェクトの発案者であり、影の功労者は夫人。でも、とても控えめな方で、気配り豊かで、素敵でした。

ところで、マルセイユ石鹸の定義って?

そう、マルセイユ石鹸と名乗れるのには、きちんとした定義があって、もともとはルイ14世が御用達にするに際して、細々と指定した原材料・配分で、品質管理に気を配って、というものでした。

 

たとえば、よく石鹸そのものにも刻まれている数字が指す通り、72%がオリーヴオイルであること、その種類にもこだわること、初夏から夏にかけては、気温が上がってしまうので同じようには製品管理できないので避けること……などなど。近代社会になってからは、オイルも異なるものを使ったり多様化してきているようですが、基本的には100%天然素材であること、オイルの含有比率は昔と変わりないまま。
赤ちゃんや敏感肌の人の入浴にはマルセイユ石鹸、というのはフランスでは、ごくごくアタリマエに浸透している常識で、私の息子の小児科医たちは、南米ブエノスアイレスでも、パリでも、そして、ここマルセイユでも、ベビー服を洗うのにも、大人のものと分けてマルセイユ石鹸での手洗いを勧めている人たちばかりでした。皆が皆そうというわけでもないようなんですけど……。
洗濯に使う場合には、確かに漂白効果は少ないので、動き回る年齢になると汚れがなかなか落ちにくくて黄ばんでくることもありますが、その場合は、重曹などを使って……。フランスでは家電品や洗剤が旧いままで不便を感じることもしばしばなものの、こんな風に化学製品とは縁遠いままの暮らしには、ほっとさせられますね。
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さて、こちらは、型抜き行程の展示。色も形も、そして、香りもいろいろ……。
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素朴な疑問。どうして、展示物の機器は戦争中は隠していたの?

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そうして、時代を経る中で……。
第2次世界大戦中に、戦禍が激しくなるにつれ、様々な鉄鋼品を軍事機器に作り変えるために提供しなければいけなかったのはどこの国も同じで、フランスでも、各家庭の調理器具まで差し出さないといけないこともあったと聞くのに、どうして、こんな大掛かりなものが残せたんでしょう?と思いませんか。
「どこに、どうやって隠していたんですか?」と、オーナーに伺ったところ……笑顔で、「不思議でしょう? でも、そんな必要はなかったんですよ」

戦時中、石鹸は何より大切なものとして扱われたから。

殺菌作用のある石鹸は、健康を維持していくために何よりも大切なものとして捉えられていたので、ある意味では、薬品みたいな存在でした。石鹸工場だけは閉鎖にされることなく、また、だからこそ、石鹸職人達は徴兵されることもなく、作業を続けたそうです。だから、今も残るこの機器たちは、そうした時代の証人でもあるわけで……。
そう考えると、今、自分がその前に立っていることが、とてもとても不思議な感覚になりますね。
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いろんな意味で、昔のことを伝えてくれるこのマルセイユ石鹸博物館。入館料は2ユーロなんですが、観たあとにチケットを石鹸に交換してくれます。つまり、今観たものの完成品が、目の前に飛び出てくるみたいな感じ。
出てすぐ傍らにあるお店で、同じ2ユーロのスタンダードな形のものの中から、好きなパルファン(香りの素材は様々なので)を選ばせてくれます。南仏名物のミモザやラヴェンダーはモチロン、面白いところでは、名物リキュール・パスティスの香りも。
博物館といっても、小さなスペース。港近くといっても、カフェやビストロの連なる広い舗道沿いは散歩するのも気持ちいいし、この空間は、緊張なくほーっと過ごせる場所のひとつです。来マルセイユの折には、ぜひ。

Une idée cadeau マルセイユにあってパリにないもの

『パリにあってマルセイユにないもの』、ひいては、『日本にあってマルセイユにない店』というのもわりとあるこの頃なんですが、『マルセイユにあってパリにないもの』……つまり、『たぶん日本にもまだ入っていないもの』を探すのは、帰省時の家族や友人へのお土産探しがきっかけだったものの、今では、もうすっかりクセのようになっていて、意外なほど、どんどん出会うのが愉しいです。

この店や他のマルセイユ石鹸のお店は、暮し始めて間もない12年前に、日本のマーケティング会社からの依頼で調べたんですが、当時は息子が乳幼児で、親族もいない土地で、アトピーなので預けるのも不安だったので、抱っこ紐の状態で連れて歩いたんですが、却って、人柄ならぬ店柄がよくわかってよかった気がしています。このリコーンのお店では、とても温かい対応でしたから。本当の意味で、肌への問題を抱える人のことも考えているんだと感じました。

さて、香り形の種類豊富な石鹸は、喜ばれるのでちょっとしたUne idée cadeauプレゼント好適品で重宝してます。全国展開の大手メーカーとはまた違う、南仏・マルセイユの匂いを感じてもらえるからかもしれません。写真から、少しでも空気が届けば幸いです。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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