先日、金沢に行った際に「ハントンライス」を食べた。オムライスにマグロやエビフライがのった、いわゆる「B級グルメ」として話題になっているというワンプレート料理だ。
ふしぎなことに、ハントンライスだけでなく、このような「ご当地洋食」は全国津々浦々に存在している(気がする)。長崎の「トルコライス」なども、この類縁にあたるのではないか。似て非なる「ご当地洋食」好きとしては、出かけた先にこの手のものがあると、味が想像できたとしても、つい試してみたくなってしまう。
▲金沢のハントンライス
ハントンライスを食べながら、なにか、なつかしいものを感じた。洋食屋という場所が醸し出す雰囲気だけではないような既視感だった。そうだ、そういえば、学生時代を過ごした地元北海道の街に、こんな料理があったのだった。
北のご当地洋食「エスカロップ」
ハントンライスを食べながら思い出していたのは「エスカロップ」。北海道の東端、根室市の「ご当地洋食」だ。
基本的には、バターライスに筍をまぜたものの上にトンカツがのせられており、さらにデミグラスソースがかかっているものをいう。
ライスがケチャップライスであったり、トンカツの代わりにエビフライがのせられていたり、付け合せのサラダやスパゲティなど、店によってさまざまな味付けや工夫がなされているのも楽しい。
根室市観光協会のHPにあるように、市内の喫茶店・食堂・洋食店では必ずといっていいほど供されているエスカロップ。発祥は現在の「ニューモンブラン」の前身の「モンブラン」というレストランと言われており、当初は働く若い女性に向けたお洒落な洋食、という狙いがあった。ひと皿でもしっかりした満足感を得られるこのメニューは次第に若者や漁師たちのあいだにも広まり、街に根付いた食文化になったというわけだ。
かくいう私も学生時代、部活のあとにたびたび市内の喫茶店で「エスカ(通称)」を頼んでいた。時代を経たいまもたしかに「お洒落な洋食」ではあるのだが、何度でも食べたくなる親しみやすさのある味なのだ。
「エスカ」をさがして
無性に食べたくなり、根室市内でしか食べたことがなかったエスカロップを、なんとか札幌市内で食べることができないかと探してみた。
できれば喫茶店か、まちの洋食屋で食べたい……! という願いがかなったのがここ、「キッチン館(やかた)」。
創業47年のこの店は地元の人に愛され続けている、まさしく「まちの洋食屋」。
現在のオーナーは3代目なのだという。
Aランチ、Bランチ、Kランチ(白身魚のフライ・ハンバーグ、焼き肉、グリルチキンなどのメインにどれもライスとポタージュスープ、コーヒーがついてくる)……と魅惑的なランチメニューにも心を惹かれつつ、さっそくエスカロップを注文した。
▲レトロなショーケース。階段を上がるとお店の入口があります
▲看板のフォントとドアの装飾がかわいい
▲店内入口
日・祝が休業ですが、オーナーの気分で昼間営業することもあるそうです。
「キッチン館」特製エスカ
創業の当初から存在しているメニューであるエスカロップ。
「うちの(エスカ)は独自の解釈をしている」とオーナーの言う「館」のエスカロップがこちら。
カツのうえにかかるデミグラスソース、付け合せが添えられていてワンプレート……とまでは王道のエスカロップなのだが、なんとチーズがトッピングされている。
そして特筆すべきなのがカツの厚さ! 一番厚い部分で1.5センチほどもある、ボリューム満点のトンカツだった。
また、ライスが別になっているのも、「館」のエスカロップの特長だろう。
そもそもエスカロップの生まれは前述したようにレストランだ。改良が重ねられたうえで今のスタイルになれど、当初は横浜のイタリア料理店のシェフが考案した本格的な洋食だったという。別々に盛り付けられた姿をあらためて見てみると、普段のライス合体型に比べて「洋食らしさ」が増している気が。
デミグラスソースは自家製ならではの深い味わいで、カツのころもに染みこんでいておいしい。甘すぎず、チーズによく合う。肉はしっかり味付けされていて、やわらかい。バターライスやケチャップライスもいいが、白いゴハンもぴったりだ。
実は「館」、ランチのほか夜は居酒屋としても営業しており、お酒と一緒に頼んでシェアする人も多いこともあって、ライスが別になっているのだとか。
たしかに何人かで分けてもしっかり満足できそうな食べごたえだ。ライスが別になってみてはじめて気づいたが、そういえばどうしてこの濃厚な味、肴にしても食が進まないわけがない。
総評
さて、根室市には、今回取り上げた「エスカロップ」のほか、スタミナライス(これは白いごはんの上に野菜炒めを敷いてカツを乗せ、目玉焼きか生卵をトッピングしたもの)やオリエンタルライス(ドライカレーの上に牛ハラミを乗せ、ソースをかけたもの)がある。
エスカロップとの共通点としては、ライス、揚げ物、そしてなんらかのソース(餡)がかけられているというその構成要素があげられる。ちなみにこれは先に挙げた「ハントンライス」「トルコライス」とも共通しており、またどれもがワンプレートの洋食であることも同じだ。ひとまずここで、この構成要素(炭水化物+揚げ物+ソースのワンプレート)を「ご当地洋食」の定義としたいと思う。
エスカロップのライスに筍が混ぜ込まれているのは、当初使われていたマッシュルームが、昔の物流ではなかなか手に入りにくかったため、代用として使いはじめたものが定着したのだという。地域性を取り込み人々の好みに合う形に変遷する「ご当地洋食」はもはや文化のひとつといってもいい。
今、これを読んでいるあなたにも、同じような故郷の、地元の「ご当地洋食」の心当たりがあるのではないだろうか。旅に出たら、その土地に住んでいる友人に尋ねて洋食店・喫茶店めぐりをする(・案内してあげる)のは楽しいのでぜひおすすめしたい。
時計台から歩いて東へ5分ほど歩けばエスカロップが食べられる。付近の「大通バスセンター」から長距離バスが出ているので、かなりの距離があるが、このまま根室市へエスカ「はしご」をすることも不可能ではない(こちらは無理にはおすすめしない)。
地下鉄東西線バスセンター駅前、3番出口を上がるとすぐ。水協ビル2階です。