アートの街を思いつきで歩く幸せ。おすすめの場所は「アルル」です。
フランス

ゴッホの作品の舞台になった場所が数多いことでも知られる、アルル。南仏がベルエポックの多くの画家達を惹き付けたのは、その陽光といわれていますが、その光を求めて、次々パリからアルルへと向かったのは、ゴッホがきっかけを作ったとも。

そして、今も続く古代闘牛場から始まるその歴史ある街は、現代アートでも溢れてます。何より、駅から街はすぐ目の前に広がるので、迷うことなく、ぐるりと散策できてしまいます。世界史や美術の教科書で見覚えのあるものがごろごろ。

自分磨き(というと大げさですけど)というかアート浴というのか、充実感たっぷりのいい時間、過ごせます。

パリからだって日帰りで堪能できる、マルセイユなら思いつきでランチに出かけられる距離。


こじんまりとしたアルルの駅。でも、特急列車が止まります。しかも、街中まで徒歩数分という立地のよさが、パリから時間をかけてきても、日帰りでも十分、街を堪能していけるメリットです。

マルセイユからなら、特急で45分~1時間。セザンヌで知られるエクス・アン・プロヴァンスからならもっと近くなります。もちろん、アヴィニョンやニーム、以前紹介したカマルグのサファリツアーと組み合わせても。

アルルは闘牛でも知られる町。その歴史を紐解くと紀元前まで遡ります。

これが、闘牛場として今も使われている円形闘技場。

この他に、公衆浴場跡やさまざまな古代遺跡が残っているんですが、この街はもともと、紀元前にギリシャ人が創り、ローマ人たちが栄えさせました。

駅舎を出てすぐ目と鼻の先に広がるローヌ川は、貿易で盛んになり、アルルはその拠点として栄えていったといいます。(写真中央の白い建物の向こうが駅)

ところが19世紀に鉄道が整備されたことによって、水路の重要性はなくなり、アルルの経済的な発展は止まってしまったんです。それで、近代的な建物立ち並ぶ代わりに、旧き良きものがそのまま残る町並みや風習が残っているんだとしたら、悪いことばかりでもなかったわけですよね。

ベルエポックの画家達は光を求めて、パリを離れ、南下してきたといいます。車窓の外は、まさに、そのイメージ。


そう、その止まってしまったこと、産業から疎遠になったことで、アルルの情緒ある町並みが残って、数々の絵画を生み出したようです。

ベルエポックの画家達は、浮世絵に魅せられ、その影響を受けたといいますが、一方で、パリにはない南仏の陽光を求めて南下したことで知られます。ヴァン・ゴッホもそのひとり。彼は、アルルに魅了され、膨大な数の作品を残しました。

アルル市役所の、こんな粋な計らい。


中でもよく知られているのは、このローヌ川越しに『ローヌ川の星月夜(星降る夜に)』。

そして、『夜のカフェテラス』。

……ところで、上の2つの写真で、パネルが置かれてるの、何だと思いますか?

そう! この位置に立つと、プリントされている作品と同じアングルでの風景を眺められるんです。

アルル市役所は、こんな風に市内のあちこちで、有名な絵画作品の舞台となった場所で、作品案内しています。ゴッホも身を置いたはずの、あの作品が生まれた場所だと想像すると、3D感覚ですよね。

作品のモデルになった場所10数箇所には、その絵と解説もプリントしたパネルが立ててあるので、好きな作品は感慨ひとしお。有名な夜のカフェテラスはちょっと観光的になってしまったものの、そのまま残っているのが嬉しいですよね。

パリから南仏へ……ちょっと足を延ばしてみると、日帰りは意外と簡単。

計画的にチケット購入しておく早割の他に、思い立ったら調べてみると、直前割引の格安チケットに出会えることもしばしば。

パリからアルルなら、前日でも、3時間37分で37ユーロ30(片道)からあります。例えば、この日なら、8時37分発12時34分着。駅から市内の中心地は10数分なので、十分ゆったりランチも出来るし、列車の中でサンドウィッチなどで済ませてきてしまって、ひとしきり一気に回ってから、ほーっとお茶休憩というのも、悪くないですよね。
過ごし方いろいろ、優先事項次第、お天気次第、というところ。

ちなみに、私は自宅がマルセイユなので、平日、日中の数時間だけ出掛けたりも出来ます。片道1時間は、東京でなら通勤通学時間。そう考えると、ランチの約束も難しくないし、時間が空いたら美術展にもふらりとも行けてしまえるでしょう?

ランチのついでに、ゴッホ財団に寄ろうと思っていたら、あいにくの休館日。

ちょうど特別展示が終わった翌日で、搬出しているところでした。

さて、ランチは、フォアグラのカイエンペッパーとカマルグの塩、イチジクジャム添え。

甘しょっぱいのを好む人が多いフランスですが、どんどん辛いのも流行っているこの頃だからでしょうか。この土地ならではの特色のひとつ、スペインの影響なのかも。

そして、そんなカマルグはアルルの管轄なんですが、このビストロのお料理も、そんな土地ならではの去勢した雄牛の焼きタルタル、そして、去勢した雄牛のブロシェット。タルタルにはウスターソースとタバスコが添えられていたので使い方を聞いたら、使っても使わなくても、両方でも片方でも、だそう。(ちなみに、両方使ってみました)

ここまでで、もう、お腹いっぱい。デザートへの胃袋スペースは残念ながらなく、帰りの電車までまだ30分ほどあったので、散歩しながら腹ごなしすることに。

川沿いで、絵を描く人。眺める人。

蔦のカーテンみたいな設えのある小道。

そして、細い通り抜け道に連なる家の壁面部分には、こんな設え、も。

古いものが好きなフランス人達。

そして、マルセイユからちょっと足を延ばしただけで、空気感がガラリ違うと感じるのが、表にこんな風にだしっぱなしの店の無防備感。ブロカントなので、盗っていかれるようなものはないというものの、これ、置かれているのは店の外。車も通る道の軒先なんです。

ブロカントというと、一般的にイメージするのは路上や広場での出店。アンティークの専門業者というよりは、各家庭の骨董品や数の揃わなくなったもの、旧い、誰かにはもう必要ないけれど誰かには役に立つものが、並べられるわけです。だから、その空気感を大切にしているんでしょうか。

静かに散歩していても心弾まされる、ちゃっちゃと歩いていてもせわしなくならない、飽きない街です。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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