日本が誇る飲み物、抹茶。近年海外でも人気上昇中で、もはや「Matcha」という日本語が国際語になりつつあるのをご存じでしょうか。
なかでも抹茶ブームが目立っている都市のひとつが、世界各国からのグルメが集まる多民族都市・ロンドンです。「ロンドンでは、日本の従来の和カフェにはないユニークな抹茶ドリンクやスイーツがいただける」と聞いて、実際に体験してみました。
抹茶ブームに沸くロンドン
ここ数年、ロンドンではかつてない抹茶ブームが巻き起こっています。ひと昔前なら日系スーパーなどでしか手に入らなかった抹茶も、いまや一般スーパーや百貨店で売られるように。
抹茶を使ったドリンクを扱うカフェもあちこちで見られるようになりました。英国王室御用達の老舗高級食材店「フォートナム・アンド・メイソン」でも、2016年に抹茶の取扱いを始めたほど。
ロンドンにおける抹茶人気の秘密は、一部のロンドナーたちのあいだで、東洋の食文化を取り入れることが「クール」と考えられていることもありますが、なんといっても健康効果です。
抹茶に豊富に含まれるカテキンやビタミン、テアニンなどの成分がアンチエイジングや美肌、ダイエット、ガンや生活習慣病の予防、代謝促進といった美容面や健康面で効果を発揮するほか、ストレス解消やリラックス効果まで期待できるとか。
意外に、私たち日本人は抹茶にそんなすごい効果があるなんて知らずにいたのではないでしょうか。
ソーホーの和カフェ「Tombo Poke & Matcha Bar」
そんな抹茶人気を追い風に、抹茶や日本風のスイーツを扱う和カフェも次々にオープンしています。
そのひとつが、ロンドンきっての繁華街・ソーホーの一画にたたずむ和カフェ「Tombo Poke & Matcha Bar」。お茶好きのオーナーは8年前、おいしい日本茶がロンドンで手に入るようにと、茶葉販売会社を立ち上げました。
ヨーロッパに流通している日本茶はドイツ経由で輸入されているものが多いといいますが、Tomboでは、静岡県掛川市から良質な茶葉を直輸入しています。
店名にずばり「Matcha」を冠していることからも、ロンドンにおける抹茶の認知度の高さがうかがえますね。離れて見るとまるでセレクトショップのような外観ですが、「茶」という文字や日本的なモチーフがあしらわれた看板が、ここが和カフェであることを主張しています。
店内のショーケースには、抹茶ロールケーキや抹茶チーズケーキ、どら焼きや抹茶ドーナツなど和洋折衷の抹茶スイーツが並び、まさに抹茶づくし。ロンドンでこれほど抹茶が市民権を得ているなんて、日本人としてはなんだか嬉しくなります。
ソーホーらしいハイセンスな空間
1階にも客席がありますが、ゆったりと過ごしたいなら地下1階がおすすめです。
白を基調にナチュラルテイストの家具が配置された空間はとてもおしゃれ。しかも壁面には暖炉があり、その横には断面を見せるようにして積み上げられた丸太がディスプレイされています。
これは日本の和カフェでは見られないインテリア。「なるほど、こうすればこんなにおしゃれで斬新に見えるんだ!」と膝を打ちました。
どこで見つけてきたんだろうと思うようなレトロなJALの広告ポスターやダイヤモンド型のランプ、Tomboののれんといった和洋を融合させた懐かしくて新しいインテリアがとても新鮮です。
お客さんは場所柄20代くらいのおしゃれな若者が多く、筆者の来店時はほとんどが地元っ子とみられる人々でした。
抹茶にフルーツジュースを混ぜちゃった
ロンドンにいくつもある和カフェのなかで、Tomboの特徴といえるのがドリンクの種類が豊富であること。
なかでも一番見過ごせなかったのが「抹茶ジュース」です。冷たい抹茶にフルーツジュースを混ぜたドリンクで、ジュースの種類には、アップル&ジンジャーやマンゴー、季節限定のスイカなどがあります。
抹茶にフルーツジュースを混ぜてみようなんて思ったこと、ありますか? ……筆者はそんなこと考えもしませんでしたし、日本の和カフェでそんなメニューを見た記憶もありません。
どれも気になって迷った結果、スタッフおすすめのアップル&ジンジャーを注文しました。
抹茶とフルーツジュースのコラボレーションとは
「抹茶とフルーツジュースを混ぜたらいったいどんな味になるんだろう……」とおそるおそる口にして見たところ、これが思いのほか合うんです。
甘酸っぱくて、ほんのりと苦くて、とても飲みやすい。しょうがの風味はあまり強くありませんが、すっきりとした味わいを出すのに一役買っています。
これはまさに「抹茶の苦みやすっきりしない後味が苦手、かといってグリーンティは甘すぎる」という人にうってつけ。
抹茶とフルーツジュースを混ぜるというアイデアは、従来の日本の和カフェにはなかった斬新な発想ですが、「自分でも作ってみたい」と思うほどの見事なハーモニーに驚かずにはいられませんでした。
和と洋が出会った「ロンドンサンデー」
抹茶フルーツジュースとともに注文したのは「ロンドンサンデー」。
しっかりとした抹茶色のソフトクリームの上にはチョコレートやオレオ、抹茶ブラウニーがのっかり、その上に黒蜜がかかった、和と洋の素材をミックスしたパフェです。お味はいかに……。
まずは肝心の抹茶ソフトクリームから。本格的な抹茶の風味が感じられるものの、抹茶に不慣れなヨーロッパ人にも食べやすいようにとの工夫か、日本のお茶屋さんのソフトクリームに比べると苦みは控えめです。
抹茶ブラウニーは甘さを抑えた優しいお味。ソフトクリームの下にはグラノーラが入っていました。日本でもよくパフェにコーンフレークが入っていることがありますが、このグラノーラはコーンフレークと違ってとても香ばしくて風味豊か。
筆者はコーンフレークの入ったパフェはあまり好きではありませんが、上質なグラノーラと抹茶は思いのほか相性が良く、この組み合わせには納得。和と洋の素材をうまく調和させた、ロンドンならではの楽しい抹茶スイーツです。
「日本らしさ」にこだわりすぎないことも大切
日本の伝統文化を大切にしているTomboでは、温かい抹茶はトレーニングを受けたスタッフが一杯一杯茶せんで点てます。
その一方で、抹茶フルーツジュースやロンドンサンデーといった、従来の日本らしさの枠にとらわれない新しいメニューも提案しています。メニューづくりの根底にあるのは、「日本の良さをわかってもらえるように」との思い。
日本の良さを伝えたいと思いつつ、抹茶とフルーツジュースを混ぜるのは矛盾しているように思えるかもしれませんが、日本の良さや抹茶の魅力をわかってもらうためには、まずは知って、触れてもらうことから。
いくら本格的な抹茶を出したところで、日本で飲まれる抹茶と同じものをはじめからおいしいと感じるロンドナーがどれだけいるでしょうか。緑の飲み物や緑のスイーツというだけでも抵抗感を覚えるヨーロッパ人が少なくないのに、おまけに苦いときたら……。
それを考えると、従来の日本らしさにこだわりすぎず、まずはとっつきやすいメニューから抹茶に親しんでもらうことが大切なのでしょう。
海外に日本の文化を紹介する際には、「正統」だけに固執するのではなく、現地で受け入れられやすいようにアレンジを加える柔軟性も必要なのだと教えられました。