稚内と旭川の中間に位置する美深町。道北のこの小さな町のさらに山奥に『仁宇布』という集落があります。この漢字…『にうぷ』と読み、アイヌ語の森林を意味する言葉からきています。
さすがに普通には読めません…。でも、一度聞いたら、とても印象に残る地名ではないでしょうか。あまり知られていないようでいて、実は様々なメディアにも取り上げられている隠れた名所なのです。(つい先日もBSの旅番組で放映)
冬は驚くほどの豪雪地帯、一晩で家の1階部分が埋もれてしまったり、気温はマイナス30℃を下回ることも。けれど新緑が美しい季節になると、そんな大変さを全てかき消してしまうくらいに魅力的な光景が広がります。森林という地名が表しているように、周りを多くの木々で囲まれた山の中に位置する仁宇布。何もないようで、だからこそ探究心をくすぐられるといった場所が広がっています。
ハルキストの聖地とも
村上春樹の『羊をめぐる冒険』をご存知ですか。そこに登場する「十二滝町」。仁宇布には「十六滝」という観光スポットがあり、そのイメージが小説の内容にピッタリで、モデルになった町なのでは?と言われています。
▲春先には子羊が見られる仁宇布 松山農場
建物や周辺の風景などの接点についても細かく検証され、ファンの間ではブームのよう…。その中に「ファーム イン トント」という一軒宿があります。広がる草原と白樺林が印象的な素敵な宿の、そのテラスからの眺めは、まさに小説の世界。ハルキストが集まる「草原朗読会」なるものも毎年開かれます。
photo by KOTARO BOOKS 北海道美深町仁宇布 羊の書店
十六滝は点在しているので、かなり山道を行かなければ辿り着けない所もありますが、比較的簡単に見られるのが「激流の滝」や「雨霧の滝」。迫力があって見応えあり、森林浴しながらボーっと過ごすのは最高。
▲激流の滝
▲雨霧の滝
白樺の恵みを受けて
若葉の頃の白樺は緑と白のコントラストが美しく、見ているだけで癒されます。でも、ここでは白樺は森に生えているだけではなく、生活に取り入れられ、色々と活用されているのです。
春の雪解けの頃になると、木の幹に管を刺し、その樹液を採取。飲料や化粧品として利用されています。毎年4月に「白樺樹液まつり」が開催され、自分で採取体験ができて、樹液で淹れたコーヒーなどのサービスもあります。無味無臭なのに、不思議とほんのり甘く感じるような…気が。
▲樹液まつりにて
初夏にさしかかる時期には、倒木となった白樺の樹皮を剥いで、カゴやマットなどの樹皮細工を作っています。出来あがった作品は色も形も一つ一つ味わいがあり、本当に素敵。愛好家の間でも北海道の白樺は、北欧のものに負けず劣らずの人気のようで、注目を浴びているのです。
季節限定の「トロッコ王国」
GWから10月後半まで、雪のない時期だけオープンしている「トロッコ王国」。ここはかつて日本一の赤字路線と呼ばれた美幸線の廃線を再利用した体験型の施設です。決して規模は大きくありませんが、本物の線路の上をトロッコで走ることができるスポットとして有名。
photo by 美深町観光協会
小さなエンジンを積んだトロッコを自分で運転し、木立のトンネルや鉄橋などを楽しみながら往復10kmの線路を走ります。その際には普通自動車の免許が必要。私は何度か乗っている中で、初夏の眩しいほどの鮮やかな景色が忘れられません。エゾシカやキツネなどが近くに現れることもあったり、大自然の中を、直に風を受けて進む爽快感はマニアでなくても体験してみる価値ありです。
日本最北の高層湿原「松山湿原」
道北の秘境とも呼ばれる「松山湿原」は、滝や冷水の入り口と同じゲートを通り進んでいきます。入山口にある駐車場に車をとめて、その先は歩いて登山。時おり熊が出没するような鬱蒼とした山奥です。単独だと、ちょっとした緊張感が。軽いトレッキングのような登山道を片道約1km行くと山頂に到着。広々とした湿原には木道の散策路が整備され、独特の貴重な植生を見ることができます。6月下旬から10月中旬と言った短い期間にしか登ることができない最北の高層湿原。ワタスゲが一面に咲く初夏は、とても幻想的な空間に。
photo by 美深町観光協会
北欧にも匹敵する自然の優美さがある
道北は、道内の中でも交通手段や大型観光施設、宿泊施設などが整っていないため、いわゆる観光空白地帯のように思われがちです。実際、車でなければ移動がとても不便。簡単に考えていると、驚かされるのが距離…旭川から仁宇布までは100km以上あるので、所要約2時間以上かかります。とは言え、それでも一度足を運んでみると、その魅力にハマッてしまう人がいることも確か。
個人的に道北の森は、北欧や北米などの景色と通ずるものがあると思っています。壮大な大地を通り抜けるドライブは、一瞬北海道だということを忘れてしまいそうになる光景があちらこちらで、見られるからです。
▲エゾシカはすぐ近くに普通に現れる
まだまだ開発されていない発展途上の大自然が残る道北エリア。
ぜひ自分の目で確かめる旅に出掛けてみてはいかがでしょうか。
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