その土地ならではのスイーツを食べるのが旅の楽しみのひとつ、という人もいるのではないでしょうか。
ドイツでぜひ食べてみてほしいスイーツが、黒い森地方の名物「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(Schwarzwälder Kirschtorte)」。筆者自身、クリームたっぷりの甘そうな見た目から当初敬遠していたものの、実際に食べてみたらその美味しさにハマってしまったケーキです。
「黒い森」をイメージしたケーキ
「シュヴァルツヴァルト(Schwarzwald)」は「黒い森」、「キルシェ(Kirsche)」は「サクランボ」で、「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ」は、直訳すれば「黒い森のサクランボケーキ」という意味になります。
「黒い森」とは、ドイツ南西部・バーデン=ヴュルテンベルク州に広がる森林地帯のこと。「森」とは呼ばれるものの起伏に富んだ土地は、なだらかな山といったほうがいいかもしれません。シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、そんな黒い森を思い起こさせるケーキ。
黒い森地方の名物である「キルシュヴァッサー(Kirschwasser)」と呼ばれるサクランボの蒸留酒をしみこませたココア風味のスポンジケーキに、生クリームとサクランボのコンポートを挟み、表面は森に積もった雪に見立てた生クリームでコーティング、その上に落ち葉に見立てたチョコレートやサクランボの実を飾った手間暇のかかったケーキです。
1930年代にドイツ各地に広まり、いまや世界中で愛されているシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、ドイツケーキの代表格といえるでしょう。
甘さを抑えた大人の味わいにハマる
ドイツに移住して、まさにシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテの本場である黒い森地方に住むことになった筆者。ドイツ人の夫から「これがこの地方の名物のケーキだよ」と言われても、当初はあまり食指が動きませんでした。
その理由は、クリームたっぷりのいかにも甘そうな見た目。ドイツのチョコレートやクッキーのなかには、日本人にとっては甘すぎると感じられるものも少なくないので、クリームたっぷりのケーキもきっと甘いだろうと思っていたのです。
しかし、黒い森地方に住んでいる以上、頻繁に目にするシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ……「一度くらいは食べてみよう」と思ってトライしたところ、甘さを抑えた大人の味わいにすっかりハマってしまいました。
まろやかで甘さ控えめのクリームはふんわりと軽く、ココア風味の生地と甘酸っぱいサクランボのコラボレーションは心ときめく美味しさ……さらにキルシュヴァッサーの風味が見事なアクセントになっていて、一度食べると忘れられません。
もともとお酒を使ったお菓子は得意ではなかった筆者ですが、シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、キルシュヴァッサーとほかの材料とのバランスが絶妙で、お酒だけが強く主張するということがないのです。
ココア風味のスポンジケーキ、サクランボ、生クリーム、キルシュヴァッサー、それぞれが混然一体となって、見事な味と食感のハーモニーを造り上げています。
結婚のお祝いに登場することも
シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは黒い森地方ではとても身近なケーキゆえ、結婚や誕生日などのお祝いの場面に登場することもあります。
筆者がドイツ人の夫と結婚した際には、義母の同僚の女性がお祝いの席に手作りのシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテをプレゼントしてくれました。
日常的におやつとして食べられるだけでなく、人生における大切な場面を彩ることもあるシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは、黒い森地方にはなくてはならない存在なのです。
おいしいシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテを見つけるには
シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテはドイツ各地のカフェで食べることができますが、やはりできることならシュトゥットガルトやフライブルクなど、黒い森地方のカフェやレストランで食べてほしいもの。
というのも、黒い森地方のカフェやレストランで食べるシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテは本格的なものがほとんどですが、他の地域ではそうでない場合もあるからです。
本格的なシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテを見分ける方法のひとつが、ケーキにのっているサクランボの色を見ること。
サクランボがやけに鮮やかな(人工的な)赤色をしている場合、そのシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテはあまり本格的ではないかもしれません。本格的なシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテにのっているサクランボは、たいてい赤ワインのような深い色合いをしています。
もちろんこの法則が100パーセント当てはまるとは限りませんが、おいしいシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテを見つけるためのひとつの参考にしてみてください。