あなたは、「平成の琳派」「ロックな壁画絵師」と称される「Ki-Yan」をご存知でしょうか。
聞いたことがないという人でも、京都に何度も足を運んでいれば、知らず知らずのうちにKi-Yanの作品を目にしているかもしれません。
京都は、異色のキャリアをもつ絵師Ki-Yanの壁画にあちこちで出会える街。その躍動感に富んだダイナミックな筆致は、一度見ると忘れられないほどの印象を残します。
おまけに、Ki-Yan作品が見られるのは、知る人ぞ知る京都の人気観光スポットであったり、評判の良いグルメスポットであったりと、行く先々でアート以外の魅力も待っています。
さぁ、Ki-Yanのアートとともに楽しむ京都の旅へと出かけましょう。
「Ki-Yan」ってどんな人?
「平成の琳派」「ロックな壁画絵師」の異名をとる「Ki-Yan」こと木村英輝氏は、1942年大阪府生まれ。京都堀川高校から京都市立芸術大学図案科へと進み、卒業後は同大学の講師を務めました。
1960年代後半、学生とともに日本初のロックフェスティバル「TOO MUCH」をプロデュースしたのを機に、日本のロック黎明期に数々のロックイベントのプロデュースを手がけるように。
その後もコンセプチュアルデザイナーやイベントの仕掛け人として活躍していましたが、還暦を前にして絵への思いが湧き上がり、再び絵筆をとります。
異色のキャリアは、「すべて成り行き」。
「自分にしか描けない絵」を追い求めた結果、「絵は理屈じゃない、切れ味と勢いで挑めばいい」と気づき、一度見たら忘れられないインパクトを残す独自のスタイルが生まれました。
鮮烈で躍動感あふれるKi-Yan作品の原点は、子どもの落書き。
「アートを万人に楽しんでほしい」「ライブな街に絵を描きたい」という思いから、「壁」を創作の場として生み出された作品の数は、国内外で180以上にのぼります。
依頼主との対話を大切にし、立地や業態、その場所の雰囲気などに合わせて描かれる作品は、どれも個性豊かで遊び心たっぷり。
なかでも京都は、寺院や飲食店、クリニック、サロンなど、街のあちこちでKi-Yan作品に出会える「Ki-Yanファンの聖地」なのです。
青蓮院門跡
祇園からほど近い、代々皇族や貴族が住職を務めてきた由緒ある門跡寺院が「青蓮院門跡(しょうれんいんもんぜき)」。
以前から春と秋に行われる庭園のライトアップが有名で、知る人ぞ知るお寺でしたが、Ki-Yan作品との化学反応により、幻想的な世界観が花開きました。
青蓮院門跡の大広間「華頂殿」に足を踏み入れると、六十面にわたる襖絵「Lotus」が目に飛び込んできます。
Ki-Yanが門主と対話を重ね、選んだ主題は「蓮」。三室からなる空間は、「青の幻想」「生命賛歌」「極楽浄土」という3つのパートに分かれています。
この作品自体は2005年に描かれたものですが、フォトスポットとして改めて注目を集めていて、最近発売されたガイドブックの表紙にも使われているほど。まさに今「旬」のスポットなのです。
本金、岩絵具、膠に漆といった襖絵の伝統画材ではなく、アクリル・ガッシュとネオカラーという現代の画材を使って描かれたこの作品は、まさに「平成の襖絵」。
静謐でありながら躍動感に富んでいて、蓮のそばに描かれたカエルやカニなどの生き物からは、湧き上がるような生命のエネルギーが伝わってきます。
気品漂う和の雰囲気も残しながらも、従来の襖絵の概念を覆す大胆な構図や色使いは、現代の私たちが襖絵に目を向けるきっかけを作ってくれました。
京都市動物園
平安神宮のある岡崎エリアに位置する「京都市動物園」は、1903年開設の日本で2番目に古い動物園。
「近くて楽しい動物園」をコンセプトに、2015年にリニューアルが完了。コンパクトな敷地ながら、動物が近くで見られるよう工夫を凝らした展示で子どもから大人まで楽しめます。
そんな京都市動物園でKi-Yan作品に出会える場所が、「類人猿舎」。そのなかに、実物より大きなゴリラが生き生きと描かれた「Gorilla’s daily life」があります。
制作にあたりKi-Yanは、ゴリラの生態を飼育員から教わったり、本物のゴリラをスケッチしたりしながら絵のイメージを膨らませたといいます。
クリーム色の壁面に描かれた18頭のゴリラは、いまにも壁から飛び出してきそうなほどの迫力。
木に登って遊ぶ子どものゴリラや、両手で胸をたたくゴリラの姿からは、あふれんばかりのゴリラたちのエネルギーが伝わってきます。
この絵を本物のゴリラが見たらどう思うのか、気になるところですね。
イクスカフェ嵐山本店
京都でも屈指の観光エリア、嵐山。天龍寺から徒歩すぐという絶好の立地に店を構える人気和カフェが、「イクスカフェ嵐山本店」です。
一見すると高級料亭か高級旅館かと見まごうほどの、立派な門構えの純日本家屋。よく見ると、「京都本格珈琲純喫茶」の看板があります。
そう、この建物こそがイクスカフェ京都本店。
重厚な門をくぐると、Ki-Yan作品「Black Peony」が描かれた外壁と対面。
気高さと躍動感を兼ね備えたシャクヤクの花には、「これぞKi-Yanワールド」とでもいうべき圧倒的な存在感があります。
広い店内には畳席とテーブル席があり、畳の間にはKi-Yanの襖絵「White Lions」が。
勇ましい親ライオンの上に子ライオンが2匹乗っかったかわいらしい姿に、自然と笑みがこぼれます。
イクスカフェの名物スイーツが「京黒ロールくろまる」。
その名の通り黒い生地が特徴のロールケーキで、アート作品のように美しい盛り付けも目を引く一品です。
この色のわけは、ロール生地に練りこまれた竹炭。見た目のインパクトだけでなく、かすかにシャリッとした、ほかにはないユニークな食感にも一役買っています。
なかでも一番のおすすめが、老舗「播磨園」の高級オーガニック抹茶を使用した「京黒ロール播磨園抹茶」。
通常の「京黒ロールくろまる抹茶」のクリームに比べ抹茶が濃く、ほろ苦の上品な味わいは、抹茶好きも納得の逸品です。
フルーツパーラーヤオイソ
フルーツパーラーヤオイソは、京都でも屈指の知名度と人気を誇るフルーツパーラー。
創業1869年の老舗果物店「ヤオイソ」が営むフルーツパーラーで、一番の食べごろを見計らって出されるフルーツスイーツは、地元っ子と旅行者に絶大な支持を得ています。
清潔感あふれる店内には、Ki-Yanの壁画「Walzing Fruits」。ワルツを踊るように弾むフルーツの姿からは、旬の果物のみずみずしさが伝わってきます。
フルーツパーラーヤオイソの看板メニューが、フルーツサンド。
「京都でフルーツサンドといえばヤオイソ」といわれるくらい有名な一品です。
ふんわりとしたパンに、大きくカットされたメロン、パイナップル、パパイヤ、イチゴ、キウイがサンドされていて、見た目も色鮮やか。
通常のフルーツサンドでもじゅうぶん満足感が得られますが、さらに大ぶりのフルーツを使ったスペシャルフルーツサンドもあります。
果物屋さんならではの、フルーツが主役の贅沢なサンドイッチをお試しあれ。
峯嵐堂平安神宮店
峯嵐堂(ほうらんどう)は、嵐山を本店とする和菓子店。
もともとは乾物の専門店としてはじまりましたが、現在はわらびもちや豆菓子でも有名です。
きな粉に並々ならぬこだわりをもっていた創業者が、さまざなに加工・ブレンドを試みた結果、最高のきな粉が出来上がり、きな粉をおいしく食べてもらうために、わらびもちの提供を始めたといいます。
京都市内にある複数店舗のうち、Ki-Yan作品に出会えるお店のひとつが、峯嵐堂平安神宮店 。
店内のオレンジ色の壁面では、Ki-Yanの手による「Heian Shisin&Beans」がその存在を主張しています。
「平安四神」とは、平安の時代より京の都を守ってきたという四柱の神 玄武(亀)、朱雀(孔雀)、青龍(登龍門の鯉)、白虎(黄紋の虎)のこと。
平安京を再現した平安神宮のそばにあるお店には、ぴったりのモチーフというわけです。
そして、四神の周囲に描かれているのは豆! 豆菓子にきな粉と、峯嵐堂にとってなくてはならない豆もともに描かれているところに、Ki-Yanの遊び心を感じます。
平安神宮店にはカフェスペースがあり、イートイン限定の「作りたてとろけるわらびもち」がおすすめ。
店頭で販売されているわらびもちは、一晩寝かせたものですが、こちらは文字通り作りたてのとろ~り食感。
テイクアウトとはまた違ったわらびもちのおいしさに出会えます。
ゼスト御池
地下鉄京都市役所前駅に直結する地下ショッピングモール「ゼスト御池」。
かつてこの周辺には、鴨川へとつながる大小の池が点在していました。
神泉苑から龍が辰巳、南東の空に飛翔したという言い伝えや、「鯉が天に登り龍になる」という中国の故事「登龍門」にちなんで描かれたKi-Yan作品が、「Carp is dragon in heaven」。
ゼストの繁栄を願って、壁いっぱいに描かれた西から東へ泳ぐ108匹の鯉は、生命のエネルギーと自信にあふれているかのよう。これから天に舞い昇るからか、目つきも勇ましく感じられませんか。
壁画があるのは、寺町広場(6番入口の階段横)です。
小川珈琲京都三条店
京都は全国的にもトップクラスのコーヒーの街。
京都発のコーヒーチェーンを代表する存在が、1952年創業の「小川珈琲」です。「京都の珈琲職人」として、本物のコーヒーを求め続け、現在では京都府内外に10店舗を展開しています。
小川珈琲三条店は、京都の中心部・木屋町三条にあり、観光や買い物の合間に立ち寄るのにも便利な立地。ここにある絵は、これまでご紹介したKi-Yan作品とは、少々趣の異なる作品です。
店内の階段で2階に上ると、階段上の壁に、カラフルでエキゾチックなムード満点の壁掛け作品が。
Ki-Yanの絵といえば、「壁いっぱいに描いた壁画」というイメージが強いですが、依頼主の希望などにより、こういった小ぶりな作品を制作することもあるのです。
絵のなかの女性が「小川珈琲」と書かれたカップをもっているのがポイント。壁画に比べるとずいぶんさりげないですが、ナチュラルで落ち着いた雰囲気の店内で、見事なアクセントになっています。
同系列の「OGAWA COFFEE 京都駅中央口店」では、ジークレという特殊なインクジェットプリントを使用した壁掛けの作品も楽しめます。
Ki-Yan Stuzio祇園本店
Ki-Yan作品がデザインされたオリジナルグッズが並ぶのが、2013年にオープンした「Ki-Yan Stuzio祇園本店」。
玄関では、ヴェネツィアンガラスを使ったライオンのモザイクが迎えてくれます。
店内には、スマホケースやてぬぐい、バッグ、食器など、バラエティ豊富な雑貨が大集合。「アートを万人に楽しんでほしい」と願うKi-Yanのグッズだけあって、アートグッズとしては手ごろな値段も魅力です。
Ki-Yan Stuzioで扱うグッズは、Ki-Yanの原画を忠実に再現しつつ、商品のサイズや形などに最適なデザインとなるように調整されています。
人気商品のひとつがてぬぐい。買いやすい値段でインテリアとしても使えることから、外国人のお客さんにも好評を博しているとか。
Ki-Yanの作品には「クールジャパン」の雰囲気があるので、海外の知人を訪ねる際のお土産にしても喜ばれそうです。
好きなベルトと本体の組み合わせが選べ、自分好みにカスタマイズできる風呂敷バッグにも注目。
荷物が少ないときは軽く、かさばらないので旅行アイテムとしてもおすすめです。
Ki-Yanアートがプリントされた雑貨の数々に加え、2階には直筆の屏風や扇子といった、観るだけで価値のある商品も。
動物や植物など、「いのち」が生き生きと描かれたKi-Yanの作品たちを眺めていると、素直に「生きるっていいな」と思えてきます。
Ki-Yan Stuzioでは、ki-Yan作品めぐりのための「壁画map」持参と購入(税抜1,000円以上)で、ポストカードプレゼントの特典も実施中。Ki-Yanアートに興味があるなら、一度は足を運んでみたいお店です。
※執筆時点の情報につき、特典は終了となる場合があります。
Ki-Yanアートの楽しみ方は自由
Ki-Yan Stuzioのスタッフは、次のように語ります。
「Ki-Yanファンには、鯉や象などそれぞれお気に入りのモチーフがあります。壁画だけを楽しんでもいいし、グッズだけを楽しんでもいい。グッズは好きだけれど、壁画にはあまり興味がないというお客様もいらっしゃいますが、それでもかまいません。Ki-Yanアートの楽しみ方は自由。こうでなければならないということはありません。」
美術館に行かずとも街の風景のなかで目にすることができ、難しい理屈もルールもなし。個人が思い思いに楽しめる自由度と敷居の低さもまた、Ki-Yanアートの魅力なのです。