箱根には、険しい山々に囲まれた芦ノ湖をはじめとして、日本を代表する風光明媚な観光地が広がります。なかでも、苔庭に紅葉が映える箱根美術館は、外国からの旅行者をも魅了する、京都と並んで日本の代表する紅葉狩りスポットです。
強羅公園と箱根美術館の日本庭園で、紅葉狩りをせっかくなのでジブリマニア目線で楽しんでみましょう。
洋風と和風の庭園で強羅の紅葉狩り
箱根旅の魅力の1つが、乗り物。山々の斜面を幾度もスイッチバックする箱根登山鉄道や、色とりどりの花や木々の間を走り抜ける箱根登山ケーブルカーなどは、日本有数の山岳鉄道として見逃せません。
いろんな乗り物に乗っているだけで、パッチワークのように広がる紅葉狩りが楽しめます。
箱根登山鉄道と箱根登山ケーブルカーの乗り継ぎ駅でもある「強羅駅」。早雲山の急峻な斜面にあることもあり、歩いて旅をしている人をほとんど見かけません。
ですが、今回歩いてみました。和のイメージが強い温泉地としての箱根ですが、意外に洋風文化が混在していることわかります。
例えば、スイスのレーティッシュ鉄道と姉妹提携を結んでいる「箱根登山鉄道」の強羅駅舎は、スイスをイメージしたデザインになっています。
実は、自然豊かな強羅に魅せられて、これまでに何人もの海外の文化人たちが暮らしていたという歴史があります。そんな強羅の和洋折衷の文化に触れながら、紅葉狩りをする散策コースをご紹介します。
箱根登山ケーブルカーが昇る急勾配の実感
せっかくなので、強羅駅から早雲山へ真っ直ぐ延びる、箱根登山ケーブルカーの軌道沿いの小道を歩いてみます。
ケーブルカーは、スイスで製造された車両が使われています。想像していたよりも坂がキツいです。ケーブルカーに乗れば、真っ赤に染まるモミジが車窓を流れるように見えるんでしょうね。
日本初のフランス式整型庭園の強羅公園
標高約541mの強羅駅から登り坂を進むこと約10分、標高約574m「強羅公園」の正門から入ります。レトロ感たっぷりの強羅公園の石板銘が目印になります。
強羅公園は早雲山の北西斜面にあるため階段状になっており、正門は斜面下段にあります。園内マップを見てわかるように、正門から西門に至る階段を中心にして約37mの標高差があるものの、上下・左右ともシンメトリーが施されています。
紅葉狩りの穴場スポットと「千と千尋の神隠し」の謎
正門から3つ又路の右側にあるスロープを進みます。ベンチのある広場には正門から一番近いモミジがありますが、園内マップには記載されていない穴場スポットです。
ベンチに座って真っ赤に染まったモミジを見上げてみましょう。「緑・黄色・赤」の3色に彩られたモミジがとても綺麗です。こうして下から眺めるように紅葉狩りするのが大好きです。
紅葉狩りは、視点を変えることで見えかたが違ってきます。視点を変えるという点で言うと、「千と千尋の神隠し」で疑問を持ち続けていることがあり、強羅公園で確かめたいことがあります。
バラエティに富んだ花が咲く強羅公園の、階段や通路の両側に咲いている花を想像しながら……、湯屋と家畜小屋の間にある「花の小道」を千尋が通り抜けているシーンを思い出してみます。
ここの背景にずっと違和感をもっていました。赤い大灯篭の横にある小庭には、5月に咲くツツジと6月に咲くアジサイが描かれています。「関東地方の開花時期を考えるとギリギリセーフなのかも……」と思っていました。
しかし、弁天橋の横にある湯屋の庭で、3月に咲く梅とツバキに並んで、6月に咲くアジサイが描かれているシーンを見た時に、「おやおや?」と違和感を覚えました。
こんなふうに開花時期の違う花が咲き揃うものなのでしょうか? 強羅公園を訪れた理由は、紅葉狩りスポット見つけることに加えて、「千と千尋の神隠し」の謎について視点を変えて、「やっぱり……季節感がバラバラの花がいっぺんに咲いているなんて変だよね」という、答えを出すためでした。
強羅公園の2つのシンボル
しかしそう簡単に結論が出るはずもなく。園内の話に移ります。
眩いばかりの陽射しのなかで輝く水色の噴水は、フランス式整形庭園の中心にありシンボルのひとつになっています。
パラソルからは、モクモクと煙を上げる「早雲地獄」を望むことができます。
噴水の上段にあるヒマラヤ杉は、エネルギーを感じられるパワースポットのようなシンボルになっています。
明星ヶ岳が望める大きなヒマラヤ杉の下からの景色は、「となりのトトロ」や「もののけ姫」を思い起こさせます。しばし立ち止まってしまいます。
強羅公園では、園内マップに記載されていない紅葉狩りスポットを探し出す楽しさがありますね。
インパクトの強い苔庭がある箱根美術館の日本庭園
強羅公園西門に隣接する箱根美術館の日本庭園では、200本ほどのモミジが真っ赤に染まります。
苔庭をはじめとする日本庭園は、箱根美術館創立者・岡田茂吉氏が整備した「神仙郷」と呼ばれています。
入口から入ると最初に飛び込んでくる景色に、期待が高まります。
真っ赤に染まるモミジがあるからなのか? 弁天橋は赤く塗られていません。
苔庭を前に、つい写真撮影に夢中になってしまいますが、苔には入らないでください。このような看板を初めて見ました。
苔庭に延びる石畳と、赤・オレンジ・黄色に染まるモミジが風情たっぷりです。
苔庭の端にある茶室「真和亭」ではお茶を楽しみながら過ごすことができます。観光客でいつもにぎわっています。
紅葉の京都をイメージさせるような体験が気軽のできるのが、「真和亭」の魅力なのかもしれません。暗い室内から眺める紅葉が美しいです。
比較するものを変えてみると面白い紅葉狩り
マニアックな気質のせいか、通路と逆回りの順で巡ってみたくなってきました。「真和亭」から「神仙郷」ならではの紅葉狩りをしてみようと思います。
「観山亭」は、水色の瓦が特徴のためか、沖縄で見る紅葉狩りのような感覚に触れることができます。
頭上から顔の辺りまで真っ赤なモミジに包まれ、
ゴツゴツした岩が剥き出しになっている庭園であることを忘れそうになります。
斜面の高かい場所にある「神山荘」に気づかないのか……立ち止まって見る人がいません。真っ赤に染まるモミジから、ひょっこり見える瓦葺きの屋根が、信州や飛騨にいるかのような感覚になります。
神仙郷ならではの紅葉狩り
苔庭のなかで見上げれば、赤系の迷彩色のようにモミジが広がっています。
神仙郷の苔庭は、まるでフカフカの絨毯のように苔が広がっています。かなり広い苔庭ですが、日本全国から集められた様々な苔が植えられています。余計な草などは、毎日手作業で取り除いているそうです。
苔の上にあるモミジは、とても居心地が良さそうです。神仙郷の苔庭にいると、「となりのトトロ」や「もののけ姫」を思い出し、ジブリの世界観を感じさせますね。苔庭を楽しむなら、午前中がオススメです。午後になってしまうと、日影が伸びてしまいます。
食事できる場所はどこも満席……グルメの穴場探し
9時から13時まで歩き回ったため、お腹がペコペコです。標高約541mの強羅駅から標高約622mの箱根美術館まで、歩いて紅葉狩りしたため、想像以上に筋肉の消耗が激しかったようです。
しかし、強羅のツウのみなさんも同じような動きをしているので、有名処や強羅駅側の目立つ飲食店はどこも満席です。そこで駅の地下通路を通り、穴場エリアへ突入!
それが、強羅駅から徒歩1分の高級旅館「強羅天翠」に併設しているカフェです。看板も出ていない、知る人ぞ知る本当の穴場ランチスポットです。「黒毛和牛ハッシュ・ド・ビーフ」1,800円はボリュームたっぷりでイチオシです。
「強羅天翠」エントランスを入り正面にあるバーカウンターで、足湯しながらチェックイン。お腹も満たされて……正直と言うと、これ以上歩きたくなかったわけです。
箱根七湯のひとつ木賀温泉が楽しめる個室のヒノキ露天風呂で、紅葉狩り旅の疲れを癒しながら、ジブリ感に磨きをかけたいという思いにふけってみます。