• 南仏では2月2日に、ナヴェットというお菓子が10万本飛ぶように売れます。 | TRIP'S(トリップス)

    南仏では2月2日に、ナヴェットというお菓子が10万本飛ぶように売れます。
    フランス

    フランス人は意外と迷信好き。よく知られるところでは、パンを裏返しにおいてはいけないとか、ワインの最後の1杯になるのを避けるとか……。そして、シャンドゥルールに金貨を握り締めてクレープをひっくり返して願い事をしたり。
    (※編集部注:シャンドゥルール=「聖燭祭の日」。クリスマスから40日後にあたる2月2日。)

    そう、シャンドゥルールといえば、フランスではクレープを食べる習慣があって、その元になっているのは、やはり、カトリックの教え。ガレット・デ・ロワが1月中、宗教に関係なく愉しまれているようになっているのと同じように、クレープを囲む習慣は、そこここで見かけます。

    自分で生地から作ったりしなくても、スーパーマーケットのパン売り場でも並んでいるし、先月から日本にも本格的に進出し始めた冷凍食品専門チェーンのピカールでも(フランスでは)定番商品で手軽な価格なので、学生や独身同士でも、気軽に出来るから。

    そして、北と南フランスでは、食や習慣が異なることがあって別の国みたいと以前も書いた通り、このシャンドゥルールでも、マルセイユでは独特の伝統があるんです。ご紹介しますね。

    南仏の素敵な習慣 : シャンドゥルールには、サン・ヴィクトール修道院の向かいにある店のナヴェットを12本(単位で)。

    南仏プロヴァンスの素敵な習慣としていくつか綴った中で、13デセールは南仏独特のものでしたが、ガトーは(ガレット・デ・ロワが北フランスではアーモンドクリームのパイなのに対して)プロヴァンサルスタイルのブリオッシュ生地でしたよね。

    シャンドゥルールも、ここ(南仏)マルセイユでは、クレープではなくてNevettes(ナヴェット:オレンジの花のエッセンスの香り豊かな粉菓子)をいただきます。舟を模した独特の(細長い棒状の)もので、ある老舗が代々作っているもの。

    普段の日も買えるんですが、2月2日のシャンドゥルールには12本単位で用意されているものが飛ぶように売れていきます。袋入りのもの、缶入りのものとあるんですが、ひと月毎、1年かけていただく想定での12本。

    戸棚の1番上の奥にしまっておいて、毎月1本ずつ、家族で分けて(もしくは1人1本ずつ)温め直して、ちぎって。なにしろ、防腐剤なしで1年保存できてしまうものなので、とてもとても固いんです。
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    どうして1年?というのは、いろんな説があるんですが、そうしておくと、1年間の幸福をもたらしてくれるというこの習慣、ちょっと神棚をまつるのとも共通していますよね。

    感謝と忍耐を忘れないためとも聞いたし、高いところに置いて祈り戸棚の高いところに入れておくことで湿気を吸い取ってくれるのと同時にナヴェット自体も干からびないから、非常食にもなることもあって、とも聞いています。

    その節目としての2月2日のシャンドゥルールの日。黒いマリア像が午前5時に港に船で到着して運ばれてくるのが、丘の上のL’abbaye Saint-Victor de Marseille(サン・ヴィクトール修道院)。その向かいにあるのが、FOUR DES NAVETTES(フー・デ・ナヴェット:ナヴェットの石窯)という名のこの店。
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    これは、我が家の今年のシャンドゥルールのためにとってある分。といっても、自分達で買いに行ったわけではなくて、近所の敬虔なカトリックの年配マダムが昔から行く習慣だからと、大混雑の中を並んで幾つも買うものから届けてくれるもので、この習慣も彼女から教わったもの。

    そして、我が家では、ブルターニュスタイル(夫の母方はブルターニュにもルーツがあるので)でクレープを山ほど焼くので、お裾分けしています。マルセイユに限らず、パリでもニースでも、こんな風にご近所付き合いは割とポピュラーなので、一度地縁の輪の中に入ると、どんどん世界が広がっていきます。

    さて、そんな2月2日のシャンドゥルールの日に、何万人もの人が買いに行くというお店が、こちら。お店の人に訊いたところ、毎年この日は10万本以上は売れているそう。ものすごい勢いで売れていく様子が、ニュースでも取り上げられるのが恒例です。市長さんが、必ずスケジュールを空けて、この日この伝統に駆けつけるのも。

    フランス革命の前からある店 : FOUR DES NAVETTES(フー・デ・ナヴェット)

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    さて、写真がそのお店、FOUR DES NAVETTES(フー・デ・ナヴェット)。クレッシュとサントン人形については、フランス革命後の恐怖政治の時代に生まれたものですが、このお店は、創業1781年。なんとフランス革命の8年前から、港から坂道を上った先の高台にあるサン・ヴィクトール修道院の向かいに存在しています。

    これだとちょっと大きさがわかりにくいですね。それでは、サン・ヴィクトール修道院の傍らから。

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    写真左側の街灯の向こう、数件並ぶ1番右側の白い建物。緑色の横書き看板があるんですけど、これだと読めませんね。
     
    それでは、近づいてみましょう……脇に来ると、こんな感じです。港を見下ろす高台なの、おわかりいただけましたか? 気持ちのいい眺めでしょう? 左側に地中海が広がっていて、岩窟王(モンテ・クリスト伯の舞台設定)として有名なイフ島も見えます。船で30分ほどの距離なので。

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    話は戻って、お店の中へ。迎えてくれるのは、こんな笑顔!

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    「うちでは……」という表現をする彼女達は、このメゾンの親族でもなんでもなくて、ただただこの店を愛し育ったひと達。このナヴェットの伝統と習慣をとても誇りに思っていること、心から大切にしている様子は、その場にいるだけで空気が伝わってきます。

    そして、ムダのないテキパキとした動き。でも、顧客ひとりひとりへの対応はとても丁寧で、並んでいても、待ち時間はほとんどありません。

     

    それもそうですよね。1日で10万本売る日もあるんですから……

     

    ナヴェットと呼ばれる粉菓子は、南仏名産で、そこここで見かけます。一般的には、小麦をかたどった、とがった楕円型。賞味期限は、どこもそんなに長くありません。味はだいたい同じとはいえ、街ごと、村ごと、人それぞれ、贔屓の店があるようです。ただ、伝統の習慣で愛されるこの店のナヴェットは、まったく別物。

    存在自体が違うスタンスなので、どこかと比べたりの対象にはなりえません。歴史と伝統を重んじるフランスならでは、ですね。
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    さて、正面、中ほどに今も置かれているのは、初代からの石釜。特別に中を開けて、写真を撮らせてくれました。
    左右・奥行きも広くて、人が寝られるほど広いんですよ。
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    この袋詰めが12本単位。シャンドゥルールに向けて、着々と準備が進んでいます。
    写真には写っていませんが、レジの方に立つと見える入り口の上の壁には、12の倍数での本数と値段が書いてある表が貼ってあって、最高は432本!まで。

    36ダース?と驚いて聞いたら、会社で買いに来る人たちもいるそうで、国や宗教は違っても、日本の熊手や梅が枝餅といった習慣とちょっと似通っている気がして、とても楽しくなります。大混雑でも、というのは初詣感覚かも。

    それにしても、1年、本当にちゃんと美味しくもつものなんです。オレンジの花のエッセンスの香りもそのままに。先人達の知恵ってすごいですね。幸せを運んでくれるお菓子、というのは、本当です。感謝の気持ち、それが、自分自身を心満たしてくれますから……。

    Petit Bonheur 笑顔はひとをシアワセにする

    『Petit Bonheur 笑顔はひとをシアワセにする』というタイトルで、もう何年も前からブログに綴ったり、フェイスブックなどに写真を載せています。

    "直訳すると" 『小さなシアワセ』になってしまうんですけど、実は、フランス語の口語では、とてもひんぱんにPetit(e)プティ(ットゥ)というひと言を加えることが多くて、たとえば、役所の窓口や難しい書類にサインが必要な時でも、「ここにPetitサインをください」と言ってきたり……つまり、Petitがついていてもいなくても意味は同じなんですけど、これがついてると、ちょっと親しみを感じるというか、温かい響きになります。

    だから、Petit Bonheurは小さなシアワセというよりは、むしろ、"ちょっとした"シアワセ。ずしりと感じた者勝ち!ですね。そして、私の記事はMon petit article、私の愛すべき記事ってところでしょうか。毎回、空気を一緒に切り取って載せているつもりなんですが、感じていただけたら幸いです。

    この記事を書いた人

    ボッティ喜美子

    ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

    フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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