日本でも、ずいぶん知られるようになったLa galette des rois(ガレット・デ・ロワ)。フランスでは、もともとカトリックの行事のひとつ、1月6日の公現祭(L’Epiphanie:レピファニー)のお菓子として広まりました。
本来は、ミサのあとなどに家族でいただいたものなので、日にちもキッチリしていたんですが、だんだん、1月いっぱい店頭で見かけるようになり、信じる宗教や信仰心に関係なく、寄ると集まると、このお菓子を愉しむように。
忘年会・新年会というくくりこそないものの、フランスでも、年の終わりと初めには、職場で同僚達と乾杯する習慣を持つところが多いんですが、1月はこのガレット・デ・ロワがあちこちで活躍するわけです。
そう、フェーヴ(中に隠し仕込まれた陶製の小さなお人形)を引き当てたら、王様の冠をかぶせてもらえて、1年間、幸運が待っているといわれているから。
切り分け方は?誰から先に選べるの?
切り分けるのは誰でも構わないんですが、キッチンではなくて、テーブルの上で。ただ、選ぶのは別の人……たとえば、家族ぐるみでなら一番小さい子どもが、友達同士でなら一番誕生日の遅いものが、目隠しをして(手で覆うだけで十分)、テーブルの下に入ります。そうして、上でひとつ切り分けられるごとに、「これは、誰の分?」と訊かれるのに「それは、○○の!」と、その場にいる1人ずつの名前を挙げていくのが役目。
だから、この時期、ちょっと大勢でお茶でも、とか、子ども達を一緒におやつに、もしくは、食事に招かれたときの手土産に、と寄ると集まるとこのお菓子で賑わうことになるわけです。
伝統的なお伴の飲み物は、シードル! 写真は、パン屋さんで買ったガレット・デ・ロワと、おまけにつけてくれたシードル。昔ながらのパン屋さんでは、よくこのおまけの習慣を守ってくれています。ひとつ買うと1本。
さて、上の2枚の写真だけは数年前のもので、切り分けてくれているのは夫の父。ちょうど寒い1月のパリを離れた彼ら(義理の両親)が、私達の暮らすマルセイユから車で40分ほどのサナリー・シュル・メールという小さな港町でひと月過ごしにきたときのもの。テーブルの下には、まだ小さかった息子が、しゃがんで答えてます。
当時はまだ食物アレルギーがあったので、市販のものは食べられないので、こちらは大人用ということにして、別に手作りしていたものを用意していました。中のアーモンドクリームは、卵黄とお砂糖とナッツのパウダーだけなので、外のパイ皮だけ小麦アレルギー対応のグルテンフリーのものにすれば、三大アレルギーがあっても、楽しめるんです。この頃はグルテンフリーが世界規模で普及しているので、日本でもだんだんポピュラーになるにつれて、グルテンフリーのガレットがでてくれそうですよね。
南仏プロヴァンスの伝統では、王様のブリオッシュ:通称Gâteau(ガトー)。
ところで、南仏では、もうひとつ違う素材での”王様のケーキ”が存在するんです。桜餅が関東と関西でつくりが異なって、名前も道明寺と呼ばれるみたいに……それぞれが違う魅力、異なる美味しさです。
フランスの場合は東西ではなく、北と南で食や習慣が違うことがいくつもあるんですが、これも、そう。日本で見かけるようになっているパイ生地にレリーフを施した外観にナッツペーストベースの練りクリームを挟み込んでいるのがガレット・デ・ロワ。もともとは北フランスで親しまれてきたもので、南仏プロヴァンスでは、ブリオッシュ生地ベースに名産物のFruits confits(フルーツ・コンフィ:果物の砂糖漬け)が宝石をちりばめるように載せられています。
レシピとして探すなら、ブリオッシュ・デ・ロワ、または、ガレット・デ・ロワ・ブリオッシェーと表記されているんですが、パン屋さんの店頭で「ガレットください」と言うと訊かれるのは、「ガレット? それとも、ブリオッシュ?」
だから、長いこと、南仏スタイルの場合は、ブリオッシュ・デ・ロワというのかと思っていたんですが、この頃は、テレビ番組で有名なパリ在住のシェフが、Gâteau des Rois(ガトー・デ・ロワ)という名前でレシピを出したりしているので、マルセイユの老舗トレーター(店内で食事も出来るし、ケータリングもしているし、テイクアウトでオードブルからメイン、チーズ、デザートまで揃う店)MARROUで、改めて訊いてみたら、南仏伝統スタイルの方(写真向かって左側の2つ)は、ただ”Gâteauガトー”というそう。
伝統スタイルといえば、年配の人が好みそうですよね。でも、実際には、この写真のお店の彼女のご両親は、ガレットの方が甘さ控えめでいいというそう。昔ながらの甘い甘いフルーツの砂糖漬けタイプは、むしろ、彼女のお子さん達が喜ぶそうです。面白いですよね。
パン屋さんの多くでは、ブリオッシュタイプには、陶器の人形は危ないから入れないというところが多いようなものの、この店では、フェーヴ(本物のソラマメ)もスジェ(陶器の人形をそう呼ぶ)も入れています。
モチロン、ガレット・デ・ロワにも両方……そこが、北と南で、もうひとつ違うところ。
南仏のガレット・デ・ロワは、たいていがそう(2つ入っている)だけれど、パリでは陶器の人形をフェーヴと呼んで、それひとつだけ。本物のソラマメが入っていることは、まず、ないんです。
ところで、公現祭(L’Epiphanie:レピファニー)って?
公現祭よりエピファニーという言葉の方が、聞き覚えがありませんか?
信仰にかかわらず、キリスト生誕については、神話か昔話のように耳にする機会があるせいか、東方の三博士(とか、3人の賢者)が、星に導かれてこの赤ちゃんに会えたのが、(誕生した)クリスマスから12日目だったといわれていて、1月6日がその日。ただ、クリスマスを基点に、何週後の日曜日がそれぞれその年の祝祭日として計算するフランスでは、毎年、日付が変わります。
今年は、だから、フランスでは1月8日の日曜日がその日。ミサに出掛けて、そのあとで、家族親族でこのお菓子をいただくという敬虔なカトリック家庭も。一方で、信仰にかかわりなく、1月いっぱいは、たいていどこでも毎日、売られています。
ちなみに、下の写真は、先日ご紹介したサントン人形のマルシェに並んでいたもの。左が3人の賢者、ヨゼフ、キリスト、聖母マリア、です。クレッシュを飾るときには決まりごとがあって、クリスマスを迎えるまでは厩舎にはヨゼフとマリアだけ。キリストはしまっておきます(まだ生まれていませんから)。3人の賢者達も、まだまだ遠くにいます。
そうして、だんだん少しずつ近づけて、1月6日にようやく、厩舎の前に3人を置き直して、ご対面……というわけです。
クレッシュは、2月2日のシャンドゥルールまで飾っておきます。こちらの美味しい習慣については、追ってまた。粉と卵とお砂糖と、コインを用意しておいてくださいね!