南フランスのクリスマスには、13種類のデザートを楽しむ習慣「13デセール」がある!
フランス

クリスマスの民族大移動が始まりました。カトリックを信仰する家庭の多いフランスなので、Noël(ノエル)クリスマスは特別なもの。24日のイヴの夜や25日のお昼には、家族や親族・近しい人が集まって、伝統スタイルの食卓を囲みます。たとえば、パリの夫の実家ではこんな感じ。いつもと違うテーブルクロス、普段はしまってある食器が用意されます。

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© Kimiko Botti. / TRIP’S

クリスマスは家族で過ごす日

祝祭日なのは25日のクリスマス当日だけ。それでも、学校はすでに12月半ばから2週間の年末休み(通称・クリスマス休暇)だし、この時期に数日有給休暇を取って実家に戻るという人はとても多くて、飛行機やTGVや特急列車の値段は跳ね上がる上に早々に満席、高速道路は渋滞にという風景は、日本の年末年始と同じ。
逆に新年は、ひと晩友人たちと集まったりして賑やか迎え、2日からはいつも通りの日常に戻ります。クリスマスと新年への親しみ方は、日本と真逆なんです。

だから、子ども達が楽しみにしているのも、お年玉ではなく、サンタクロースからのプレゼント。
これは、宗教に係わらずたいていの家庭で共通していて、ツリーは年末のデコレーションとして飾るという人も。
ただし、食事はカトリックの信仰をもとにした意味合いを持つものが並ぶので、そうでない家庭では、いつも通りの食卓だそうですが、せっかくの祝祭日なので一緒に過ごすという人は多いようです。

賛否両論のフォアグラですが、伝統メニューはそのまま。

さて、日本のお雑煮やおせちの御重の中身が、地方ごと・家庭ごとにそれぞれ少しずつ異なるように、フランスのNoël(ノエル)クリスマスのご馳走メニューもそれぞれ。毎年、同じ得意料理や代々伝わるレシピでという家庭もあれば、すっかり替えるのを楽しみにしている家庭も。オードブルだけ変えたり、メインだけ変えたり……。
なにしろ、クリスマスの定番と謳われるものは、前菜なら生牡蛎を始め様々な生の海の幸、フォアグラのテリーヌ、キャビア、エスカルゴ……などなど、メインなら、シャポンという去勢した雄鶏のロースト(そのまま丸焼きにしてソースを用意したり、詰め物をしたり)や鶉や鴨や七面鳥、オマール海老やホタテの貝柱や蟹などの料理……。

でも、まずその前に数時間歓談するアペリティフの間にも、アミューズブーシュがどんどん並ぶので、胃袋トライアスロンと呼びたいぐらい、自分なりのペース配分をして臨まないと、デザートのビュッシュ・ド・ノエル(木の切り株型のクリスマスのケーキ)まで辿り付けません。

パリの夫の実家では、いつも、夕方から親族が集まり始め、メインの後のチーズ盛り合わせまで数時間。そして、少しまた歓談して過ごし、午前0時を迎えてビズ(両頬へのキスの挨拶)を交し合ってから、再びシャンパンを抜いてケーキを切り分けます。カトリックの多いフランスですが、毎年ミサに出掛けるという家庭はそう聞きません。

大地の恵み溢れる南仏ならではの美味しい習慣「13デセール」

一方、私達の住まいのある南仏では、よりカトリック信仰の習慣が強い印象があります。
クレッシュのマルシェの記事にも書いたように、宗教弾圧のあった時代にも、新たな方法を見出して祈り続けてきたし、そうして、再び親しめることになった教会と人々の心の距離感は近いのかも、とよく感じます。町自体が小さいことも、代々暮らす人が多いこともあるのかも。

そうして、大切にされてきたのが『南仏の13デセール(13Dessert:13種類のクリスマスデザート)』。これは、パリなどの北フランスにはない習慣です。

といっても、この13種類も町ごと・家庭ごとに違う組み合わせになっていたりもするのが特徴で、訊く人によってリストが異なるんですが、メインとなる10種類ほどのものは同じ。異なるいくつかといっても、果物やナッツであることにはかわりなかったり、(つきつめてみれば)材料自体はほぼ同じな卵とオレンジの花のエッセンスを使った粉菓子だったりします。

そう、13種類のデセールというとケーキが続々と、というイメージですけど、南仏ならではのお菓子や大地の恵みの盛り合わせ、なんです。

デセールのあとの13デセール? 本来は、クリスマスミサから戻ってからのものでした。

本来は、食卓とは別のテーブルに、白いテーブルクロスをかけて、大皿にどーんと盛り付けた13種類のお菓子や新鮮な、または干した果物、ナッツ類、そして、ポンプ・ア・ルイルという南仏名物のフーガスを甘くしたタイプの丸いパンなどなどを、24日のクリスマスイヴの教会ミサから戻ってきてから皆で囲むもので、それから3日間はそのまま出しておき、思い思いに口に出来るものとして、20世紀になってから定着してきたものだそう。

だんだんとミサに行く人も減り、異なる信仰を持つ人も増えてきてからは、本来は1月早々の公現節の日だけのものだったガレット・デ・ロワが今では年末から愉しまれるようになっているのと同じように、13デセールを口にする日にちも厳密でなくなりつつあります。
宗教に係わらず、この時季のお菓子として11月末にはあちこちの店頭で見かけるようになっているし、私の周りでは、子ども達の学校やオフィスでのクリスマス会やちょっと立ち寄った家庭でのお茶うけに何種類か並んでいることがよくあって、我が家でも用意する習慣に。

たとえば、こんな感じ。隣は、以前ご紹介した小麦
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そんなわけで、クリスマスイヴのディナーをする家でも、当日までにはもう白クロスのテーブルの13デセールがすでに用意されていて、到着早々、まずは口に出来る状態になっていることも目立つようになっているようです。

 

それでは、《一般的な13デセールのリスト》をご紹介しますね。

 

まずは、干しなつめ。これは、キリストが東方から来たということを示すもので、これをこのまま枝ごとアーモンドペーストでのマジパン細工の果物と並べたりもします。(ただ、干しなつめといえば、一般的に知られているのは、黄緑・白・ピンクのアーモンドペーストをそれぞれ中に詰めて、銀色のアラガンなどで飾りつけたフリュイ・デギゼ。これだけは、13デセールとは関係なく、フランスの各家庭でみかけるものです。)

 

干しぶどう。干しいちじく、干し杏、など。

 

白ぶどう

 

くるみ。もしくは、アーモンド、へーゼルナッツなどの木の実。

 

カリソン。上の写真、上段右側のキャッツアイ型で白いお砂糖コーティングされているお菓子。もともとは、エクサンプロヴァンス名物です。

 

パット・ド・コアン。カリンペーストゼリー。フルーツのペースト色々盛り合わせは量産品も。上の写真の下段左の正方形のものは、洋菓子店で量り売りしてもらったもの。切り分けます。

 

黒ヌガー白ヌガー。細長いバー状で自分で切って食べるように売られていることが多いんですが、我が家では、こんな風にひと口サイズの個別パッケージのものを。ケータリングもしている老舗から出ています。上の写真、上段左上のもの。
そして、下の写真のように、マルシェなどでは、大きな塊からの量り売りも。

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フリュイ・コンフィ。果物の砂糖漬けで色々な種類があって、量り売りしているので、お好みで少しずつ選ぶことができます。

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お店によっては、こんな風に盛り付けたお皿ごとで用意されているものも。自宅用として買って帰ればそのまま並べるだけでいいし、この時季の贈り物にしても喜ばれる一品。

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クレモンティンヌ。日本のみかんに近いサイズ味わいの種類のオレンジなんですが、コルシカ産の葉つきのものがより濃い味わい。とても美味しくて、この時季よく口にします。その他にも、洋ナシ、リンゴ、冬メロンなどを添えることも。12月になると、たいていの家庭で常備されていて、どこも皮をむいたあとのいい香りに包まれています(つまり、皆よく食べているんです)。

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オランジェット。(オレンジピールの砂糖がけそのまま、または、チョコレートコーティングしたもの)

それから、粉菓子として、家庭でも作れるオレイエットという揚げ菓子、または、マルセイユ発祥で南仏名物の焼き菓子ナヴェットなども。マルセイユの老舗は少し不便な場所だったんですが、ドックと呼ばれる港湾の新開発地区に旧い建物を改造したモールが出来ていて、そこに売店タイプの新店舗が出来て、便利になりました。この老舗については、追ってまた。カトリックの信仰心厚い人たちに愛されていて、年に1度、健康と幸せを祈る日には何万本も売れることでも知られています。

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そして、上に書いたポンプ・ア・ルイル。これも、もうすでにあちこちのパン屋さんや洋菓子店の店頭に並んでいますし、日持ちのするものなんですが、我が家では、ビュッシュのケーキと一緒に予約しておいて、イヴ当日に焼き上がったものを受け取ります。大きさもお値段も、そして、お味も店それぞれ。

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ちなみに、パリの夫の実家では、13デセールの習慣はないし、このポンプ・ア・ルイルも、私たちが持っていくまで誰も知りませんでした。代わりに迎えてくれるのは、干しなつめや杏のフリュイ・デギゼとトリュフ(チョコレート)やナッツのチョコレート。どちらも、義理の母の手作り。

一見、北と南で大きな違いがあるものの、素材に共通点がありますよね。南仏の方が大地の恵みの種類の多い分、並ぶ種類が豊富になったんでしょうか。ようく見てみると、名産農産物・栄養価の高いものがずらりと揃っています。13という数字に込められた信仰心、神への感謝の心だけでなく、3日間食べ続けるという習慣が根付いた背景には、滋養を摂って健康をという願いが込められてたのかもしれませんね。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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