ドイツ在住日本人やドイツを訪れたことがある日本人のあいだでひそかに話題になっていることがあります。
それが、「何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題」。
ドイツのレストランやカフェでケーキを注文すると、ケーキにフォークが刺さった状態で出てくることがよくあり、「びっくり!」「なんで!?」と興味を引いているのです。
くだらないけれどやっぱり気になる、「何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題」を真面目に検証してみました。
ドイツ大使館の公式ツイッターアカウントまでが言及
「何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題」については、ドイツ大使館の公式ツイッターアカウントまでが言及しています。
何度か話題に上がっているドイツでケーキが運ばれてくる時のあの問題。多くは倒れて、フォークが突き刺さった状態で運ばれてきます。この記事 (t1p.de/75vo)を書いたドイツ留学中の学生さんのように、大概の日本人は初めて見たときに言葉を失ったりします。(2017年1月23日付:ドイツ大使館公式ツイッターアカウント@GermanyinJapanより引用)
それだけ、日本人にとっては衝撃が大きいということなのでしょう。SNSでは「思わず二度見しました。」「記念撮影しました。」などの報告が続々。
ツイッターでは、「何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題」というハッシュタグまで存在し、チーズケーキからフルーツケーキ、チョコレートケーキ、バウムクーヘン、パウンドケーキ、ティラミスにいたるまで、多種多様なケーキにフォークが刺さって出てきた様子が投稿されています。
フォーク横刺しケーキはもはや隠れたドイツ名物。ドイツを訪れた日本人旅行者からは「実物が見られて嬉しい!」と喜びの声も上がっているほどです。
しかし、どのレストランやカフェでもケーキにフォークが刺さって出てくるわけではなく、店によってバラバラ。
そこで、実際にどのくらいの頻度で「ケーキにフォーク横刺し」に遭遇するのか、独自にリサーチしてみました。
フランクフルト「カフェ・モーツァルト(Café Mozart)」
1915年にオープンしたフランクフルトの有名老舗カフェが「カフェ・モーツァルト(Café Mozart)」。
タイムスリップしたような気分になれる店内でいただいたリンゴのチーズケーキは、ごく普通にフォークが添えられての登場です。
シュトゥットガルト「カフェ・ナスト(Cafe Nast)」
ドイツ南西部、バーデン=ヴュルテンベルク州の州都シュトゥットガルト。1902年創業の伝統的なドイツのスイーツショップ&カフェが「カフェ・ナスト(Cafe Nast)」です。
ほろ苦いコーヒーの風味が漂うモカケーキは、潔くフォークが刺さった状態でお目見え。
バーデン・バーデン「カフェ・ケーニヒ(Café König)」
ドイツ南西部の高級保養地、バーデン・バーデンのお上品なスイーツショップ&カフェ「カフェ・ケーニヒ(Café König)」。
さすがにホテルのように高級感ある内装で、フランス風のスイーツも充実しているお店だけあって、ケーキにフォークは刺さっていませんでした。
フライブルク周辺「カイザース・グーテ・バックシュトゥーべ(Kaisers Gute Backstube)」
ドイツ南西部の都市フライブルク周辺に展開するローカルベーカリーチェーン「カイザース・グーテ・バックシュトゥーべ(Kaisers Gute Backstube)」。
カフェ併設の店舗では、イートインも可能です。
スパイス香るニンジンケーキは、フォークが刺さって力強い印象に。
ヴェルニゲローデ「カフエ・ウィーン(Cafe Wien)」
「ラプンツェルが過ごした城」と呼ばれるヴェルニゲローデ城で有名なハルツ地方の木組みの町、ヴェルニゲローデ。
1529年建造の木組みの建物で営む老舗カフェ「カフェ・ウィーン(Cafe Wien)」の店内は、外の喧騒を忘れる優雅な雰囲気が漂っています。
しかし、ここで注文したリンゴケーキにもバッチリとフォークが刺さっていました。
ライプツィヒ「カフェ・カンドラー(Café Kandler)」
ドイツのなかでも伝統的なコーヒー文化を受け継ぐことで知られる東ドイツの都市、ライプツィヒ。
数ある老舗カフェのなかで、ライプツィヒの名物菓子「バッハ・ターラー」を考案したのが「カフェ・カンドラー(Café Kandler)」です。
レトロな雰囲気漂うティールームでいただいたのは、タルトに近い素朴な雰囲気のサクランボケーキ。なんとも微妙なのですが、ケーキの下部にフォークが控えめに刺さって出てきました。
ケーキにフォーク横刺しの出現率はいかに?
今回筆者が独自に「何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題」の発生率を調査してみたところ、ケーキにフォークが刺さった状態で出てきたのは6店舗中4店舗という結果になりました。
地域に偏りがあるのは否めませんし、統計として十分なサンプル数であるともいえませんが、おおまかに「ドイツでは半々ぐらいの確率(地域によってはそれ以上の頻度)でケーキにフォークが刺さって出てくる」と考えてよいのではないかと思います。
もちろん、出現率はお店のスタイルによっても異なり、サードウェーブ系のヒップなカフェや、高級志向のお上品なカフェでは、ケーキにフォーク横刺しの出現率は低いといわれています。
その一方、「スターバックスのパウンドケーキにフォークが刺さって出てきた」という報告もあるので、ドイツではいつ「ケーキにフォーク横刺し」に遭遇するかわからないというのが実情なのです。
「倒れやすいものははじめから倒す」が鉄則
ドイツ大使館の公式アカウントでも「多くは倒れて、フォークが突き刺さった状態で運ばれてきます。」と説明されている通り、ドイツのレストランやカフェでケーキを頼むと最初から倒れた状態で運ばれてくることが少なくありません。
これは特にシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテのように、生地が柔らかく高さのあるケーキに顕著な現象。「食べるときにはどうせ倒すのだから、それならはじめから倒しておいたほうが運びやすい」という、ドイツらしい合理的な考え方の表れのようです。
加えて、「ケーキが運ぶときに倒れると、やっかいな義母と出会う」という迷信があるそうで、その名残もあるのかもしれません。
筆者の調査でケーキにフォークが刺さっていなかったバーデン・バーデンの「カフェ・ケーニヒ(Café König)」でもこの法則は健在でした。
なぜフォークをケーキに刺して提供するのか
ここで、そもそもの疑問「なぜフォークをケーキに刺して提供するのか」という疑問の答えに迫りたいと思います。
筆者や知り合いのドイツ在住者がレストランやカフェのスタッフにヒアリングした限りでは、「ケーキを運ぶときにフォークを落とさないようにするため」という説が有力です。
日本と比べて、ドイツではレストランやカフェで料理などを運ぶための「トレイ」を使うことが少ないのも影響しているのかもしれません。
ただ、ケーキにフォークを刺すお店のスタッフが「持ち運ぶときに安定するように、フォークを刺すぞ!」と意識的にやっているかというとそうでもなく、フォークが刺さっていることを指摘されてはじめて「そういえば.……」という反応をする人も少なくありません。
ドイツでは「ケーキにフォークを刺して出す」ということが一般的であるがゆえに、単なる習慣としてなかば無意識のうちに行われていることも多いのが実態です。
筆者の個人的見解ではありますが、フォークをケーキに刺して提供する背景には、ドイツにはパンの延長のような素朴なケーキが多いことも関係しているように思います。
見た目の美しさにも気を配ったカラフルで繊細なフランス菓子なら「せっかくの美しいお菓子が台無しになる」と文句が出るところでしょうが、ドイツのケーキは見た目がシンプルでサイズが大きいものが多いので、ケーキにフォークが刺さっていてもあまり気にならないのです。
ドイツのケーキの特性と、合理的思考が生み出した「何故ドイツではケーキにフォークを横刺しにするのか問題」。
これを知ったうえでドイツを旅すれば、ドイツのカフェやレストランでケーキを食べるのがもっと楽しみになること間違いありません。
筆者はまだ未体験ですが、真上から縦にフォークが刺さって出てくることもあるよう。もし遭遇したら「これこれ!」とほくそ笑んでしまいそうですね。