この迫力、この規模感のお祭り。なのに日本ではあまり知られていない、というのは、この情報化社会ではもうほとんどないかもしれません。
今回、タイ国政府観光庁さんが年1回のこのお祭りの時期に取材ツアーを組んでくださったので、どっぷりと地元の方に混じって参加することができました。
それが、タイ東北部・イサーン地方のウボンラーチャターニー県で行われた「ウボンラーチャターニー・キャンドル・フェスティバル」。今年でなんと116回目で、陰暦8月の十六夜である入安居(いりあんご/カオ・パンサー)の時期に行われます。
本格的な雨季に入るので、この日を境に僧侶は、雨で芽生える新しい命を踏み殺さないよう寺院に籠もって修行に励むとのこと。そしてこのお祭りには、土地が痩せていて作物が採れにくいイサーン地方にとっての「雨乞い」の意味も込めているのだそう。
私、旅行メディアの編集長という仕事柄、いろんなお祭りについて見聞きすることが多いのですが、まだまだ勉強不足だったようです。
こんなタイの熱気に満ちた迫力満点すぎるお祭り、どうか日本の皆様にも届けさせてほしいと今必死にキーボードを叩いております。
キャンドル・パレード。まずはとにかく、見ていただきたい
2017年は7月8日~9日で開催されました。開催日は旧暦に応じて毎年変わるので、旅行計画を立てる場合は事前のチェックが必要です。
というわけで、タイの7月、想像どおり暑いです。暑いというより、太陽が近い。でも日焼け止めを必死に塗った効果があったようで、こんな抜けるような青空だったのにそこまで日焼けはしないで済みました。
という前置きはこのあたりにして、さっそく見ていただきたいのは、巨大かつ青空に映える橙色がまぶしいキャンドルの数々。
これがなんと真っ赤な塗装のトラクターに牽引されて、ゆっくりと行進するというんですから、それはもう圧巻のひとことです。
パレードの先頭がゆっくりゆっくり近づいてきました。キャンドルは遠くに少し見えます。
青空の青がとにかく濃い。そしてその光を防ごうと開くパラソルのカラフルな絨毯も、景観を引き立てる要素になっています。
なお、このパラソルは売り子さんが立てにきます。売り子といえば、うちわはともかく、座って観覧するための敷物やヤードムまで売ってました。最悪何も持っていかなくても売り子をハシゴすればなんとかなるんじゃないか。
そしてついに来ました、オーソドックスな赤トラクター&橙色キャンドル!
でかい! でかいのに繊細。
お顔の輪郭の柔らかさのおかげで、こんなに超ビック巨像なのに優しさを感じます。
馬! 馬だこれは! 躍動感、溢れすぎ! かっこいい! 関節の筋肉なんか、本当に生きてるみたい。
この輝き、どうやって出しているのか。てっきりキャンドル自体がテカテカしているのかなあと思っていたら……
水をかけているんですね。暑すぎてろうが溶け出さないようにという意味もあるのかもしれません。
また、今年はタイにとって特別な年。
白黒のキャンドルです。プミポン前国王の服喪期間のため、弔意を表すための配色なのだそう。
こんな巨大なキャンドルが、何体も何体も行進していく。日本のねぶた祭りにちょっと似ているかもしれませんが、なんというか、彩度が違う。
強烈に脳裏に焼き付けてくる、わかりやすいダイレクトな印象をどんどんと残していきます。
それでいて、仕事が繊細なんですよね。その対比に心惹かれるものがあります。
動画も撮りました。
音楽もまた賑やかで、生演奏しながら進んでいく山車は個性豊か。私はタイの伝統音楽の生演奏、この旅で初めて聞いたのですが、個人的に打楽器系が私の好みにドンピシャでした。
特にいわゆるシンバルを担う楽器が、もう大変良い音。調べたところ楽器の名前は「チン」と「チャープ」と呼ぶそうです。いつか触ってみたいなあ。
ああ、これがタイのお祭りなのか
屋台も出ているので、日本で言うところの縁日のような賑わい。まさか異国の地の縁日を練り歩けるなんて。
それにしてもけっこう暑いです。温度計など持っていなかったので実際に何度だったのかはわかりませんが、体感では35℃くらいあったのではないかと思います。
そういう理由でなのか、ただのチャレンジャーなのかは不明ですが、試してみました、謎の飲み物。
若干騙されかけましたが、コーラではございません。
これはラムヤイ(龍眼・ロンガン)ジュースという名前だそうです。龍の目みたいな果物らしいです。帰ってから調べましたが、その姿はどちらかと言うと龍というより目玉のおやじを想起するフォルムでした。
お味のほうはというと、タイ感あふれる独特の甘さが若干加わって、案外イケる。ライチに近いです。
鳴いていたころの形状が想起しやすい形で焼かれているのは、鶏肉。「ガイヤーン」と呼びます。別日の昼食でいただきましたが、炭火でしっかり香ばしく焼き込まれていて、美味い。
屋台ひとつとっても、当然ですが日本とはかなり違いがあって、そのひとつひとつが面白くっていろんなお店を覗いて歩きました。
ココナッツ、興味あったけど先を急ぐお兄さんを止める勇気がなかった。
夜のライトアップはより優雅なキャンドル達になってました
実は、前夜にはこのキャンドル達がライトアップを施され、展示されます。それがまた美しいんです。もうほんと、シャッター何枚切ったことか。
ライトの位置がたぶん抜群にセンスがいいと思います。ふわっと後光がさすような、優しい光が内側から溢れる、そんなライトアップの山車に釘付け。
こんなかんじで、道の奥の奥までずらりと巨像達が並んでいるという圧巻の景色を夜も楽しめます。
この日の夜は雨が降っていました。人々の祈りが天に届いたかのような恵みの雨。
そして、この雨がキャンドルに輝きをもたらして一層神秘的に魅せてくれていると気づきました。なんて幸運なんだろう。
夜の部でも、屋台などが出店していました。雨降ったけどこれは大丈夫なのかやや心配ですが、値札を見るからに10バーツ(約33円)からの商品のようなので、あまり心配しすぎなくても良いような気がしてきました。
キャンドルはこうして作られる
ところで、キャンドルの山車について話を戻しますと。
こんなでかいもの、いったいどうやって作ってるの、と疑問を感じてくださったなら、これまでの写真で精巧さと巨大さが伝えられたんじゃないかとちょっと嬉しいのですがどうでしょうか。
制作中の様子まで見学させてもらっちゃったので、紹介させてください。
細やかな飾りは、このようなろうをまず手元で整形してから、キャンドル本体に貼り付けていました。
こういった細かな作業は女性の仕事のようです。
まるでレースのような、緻密な模様が仕上がっていました。こんな状態のものをまず作ってから、本体に貼る。そういう流れなら、確かに繊細な表現も可能だなあと納得。
貼り付け。この細かな作業の積み重ね。
高いところは男性の作業。お坊さんも作業されるんですね。
プミポン前国王の肖像。周囲に木枠を打ち付ける作業を行っていました。
こうして、出展する当日ギリギリまで作業して、展示されたのがこちら。
さっきまで作業してたものをこうして改めて見ると、あの細かい作業の結果こうなった、ということに不思議な気持ちにさえなりました。
木枠も無事取り付けられ、黒く塗られています。
イサーン地方・ウボンラーチャターニーまで足を伸ばしてほしい
タイはやっぱりバンコクとその周辺。もしくはプーケットか、チェンマイか……。
その悩みにひとつ、イサーン地方を追加していただきたい、と心から思っています。バンコク周辺では味わえないであろう素朴なタイの風景、そして人々の息づく飾らない街並みに、イサーン地方に行けばこれでもかというくらい出会えます。旅してるなあ、という実感がすごいです。
できれば、7月のこのウボンラーチャターニー・キャンドル・フェスティバルの時期を狙っていただきたい。タイの現地の方の熱気に囲まれながら見るパレードは、忘れられない思い出になると断言します。
イサーン料理も本気で美味いです、もう一度食べたい。
バンコク・ドンムアン空港よりNok Air・Air Asiaが毎日運航中
7月8日夕方:キャンドル・ラーニングセンター(キャンドル制作の様子見学)
7月8日夜:キャンドル・ライトアップ
7月9日午前:キャンドル・パレード
です。ご紹介の順番は、記事のわかりやすさ優先にしました。