地中海の街・マルセイユで「海水タラソテラピー」を堪能する
フランス

地中海の街マルセイユには「海水タラソテラピー(Thalassothérapie)」というものがあります。
「タラソ(Thalasso)」は、旧くはギリシャ語で「海」、「テラピー(thérapie)」は「養生」を意味するそうで、海水の効能についてはローマ時代から注目されてきたそう。
フランスの歴史は、最初にギリシャ人が、続いてローマ人が、ここ南の玄関口・マルセイユに町を作っていったことから始まります。
だから、海水を使ったスパやプールなどが古くからあるのもアタリマエかも。

 

そして、フランス人たちが昔から親しんできたキュー・ターマル(Cure thermale)という習慣は、日本の温泉での湯治にも通じる考え方なので、海水スパは想像以上に快適・リフレッシュさせてくれます。

ここマルセイユの海岸線沿いには、さりげなく、でも凛とした佇まいのフェンスが続く一角があるんですが、そこに知る人ぞ知るビアン・エートル(Bien-être)というウエルネスのための施設、そして海水スパがあります。

マルセイユの地中海岸線のお城

マルセイユを公共交通で楽しむ記事でも出てきた、83番のバスのあの海岸線の大通りの反対側をちょっと振り返ってみると……

シャトー・ベルジェー(Château Berger )があります。

ビアン・エートル(Bien-être、”心身を健康快適に”の意味)を提案する施設の元祖のひとつで、私たちの間では通称コーニッシュ(Corniche、マルセイユの地中海岸線)のシャトー(Château、お城)で知られています。

 

タラソテラピーの施設として広い世代に知られているんですが、そこで使用されているクリームなどの基礎化粧品を開発したのはドクター。

プールだけ、外科手術後のリハビリプログラムとして利用する方もいます。(16歳~上限はなし)

向かって右側の門扉を入ると……建物がふたつ。

手前の小さなスロープの先、左側がタラソテラピーなどのウエルネス・センターの建物(映画やドラマの撮影でも時々使われています。何かで見たことありませんか?)。

 

小さく見えますが、大型車両が充分通れるゆったりした幅を持つこの門は、日中開放されたまま。

治安の悪いマルセイユなのに?と思うでしょう。でも、セキュリティセンターのモニターに繋がっているし、建物は防弾ガラス、ロックは中から解除しないと開きません。

活字にするとものものしいですけど、ここに限らず、フランスの多くのこうした施設は同様なので、安心・リラックス(のための存在なわけだし)して利用できているわけです。

入り口のガラス扉の向こう側正面が受付。ベルを鳴らすとロックを解除してくれるんですが、受付に別の顧客がいる場合に少し待つことになることも。

 

予約の時間は重ならないように、顧客同士が同じスペースでかち合うことの内容に配慮されているのは多くのビアン・エートルの特徴です。私が帰ろうとして受付で手続きしている途中に来た男性は、ドアの向こうで、少し待たされることに。

 

予約客ではなく、通りがかりにギフトカードを購入しに寄ったそう。

特に不満な表情もなく、私がせかされることもなくて、エレベーターが下りてくるのを待っていた人みたいに、扉が開くと、まず私を通してからゆったりした足取りで入っていきました。

 

お祝い事やプレゼントに現金を包む習慣はないフランスなんですが、どこかのお店やレストラン、そして、こうした施設で利用できるギフトカードを贈るのは、とてもポピュラーなんです。

 

有名人でなくたって”お忍び”で利用したいはず

基本的には個室での施術を受けるプログラムになっていて、あくまでも顧客のプライバシーにこだわって、予約の時点で、時間をずらしてあります。

そのおかげで部屋の移動に廊下へ出るときも、他の顧客と顔をあわせることにはなりません。

 

フロントでも、名の通ったホテルのサービスのように、顧客を名前で呼んだり挨拶するようなことはありません。

それは、施術の担当者とも同じことで、あいさつに来る瞬間から終了まで、改めて気付いてみたら、名前が口に出されることは全くありませんでした。

 

 

太陽の恵みをふんだんに受けた、地中海の水に包まれる快適さ

さて、外から見えてた多角形の部分はプール。

無人状態では水面はピクリともしていませんが、仕掛けが色々。海水を利用したもので、水温は新陳代謝を促すのに理想的とされる32℃に保たれています。

 

ジェット水流のシャワーが吹き出てくるのを背中や腰に受けて20分ほど過ごすプログラムや、ジャグジーのようになっている箇所も。

水流によって、血行を促進して、海水に含まれているミネラルを吸収しやすくするのと同時に、マッサージを受けたようなリラックス効果もあるそうです。

 

ひとりでマイペースに利用してもいいし、数人のグループで指導を受けながらも。健康維持のためだけでなく、外科手術後のリハビリ利用の人も少なくないんですが、写真にうつりこむほど大勢が1度に、というシーンは、まず見かけません。

そして扉の正面反対側には、スチーム・サウナに続くスペース。

ガラス扉の向こうは小さなスペースがあって、そのさらに向こうが湿度100パーセントの世界。扉を開けただけで、かなりの蒸気が飛び出してきます。

 

フランスの場合、温度設定が低めで湿度の高いスチーム・サウナがポピュラーで、たいていのスパはこのスタイルとプールを併設しています。

シルバーの扉の向こうが着替えのための個室とロッカー、シャワールームになっているんですが、数は限られたもので、知らない顧客同士が一緒に利用することにはならないように設計されています。

予約時間は、到着だけでなくプログラム内容にも合わせて計算されています。

 

ここを背にして、受付手前の廊下を曲がるとトレーニングルーム。

中庭を挟んで、反対側に続く廊下の先が、海水バスやシャワーベッド、海草パックなどなどの全身のケアへの個室が続いているんですが、ここでもすれ違うことはありません。

 

健康保険で利用できるキュー(Cure)って?

健康維持や愉しみだけでなく、リハビリなどの健康回復のための医療プログラムにも活用されています。それが、キュー(Cure)。

 

温泉涌水とはまた違う効能を持 つ海水ですが、皮膚を通して身体の中へと豊富なミネラルを取り込むのと同時にリラックス効果があるので、自然治癒力を引き出す目的・効能があるという点では同じ。

ただ違うのは、医療の一環として捉えられていること。

既にリタイアしている世代までは、年に1度3週間(連続が規定)の利用が健康保険でカバーされて、個人負担なしです(残念ながら、健康保険と年金に関して、年々条件が厳しく引き上げられているのはフランスでも同じで、私たち次世代には同じようにはいかなさそうですけど……)。

 

アンチ・ストレスのコースは3時間

さて、そんな風に、短時間で気軽に利用できるプールやスチーム・サウナ(回数券も)の他に、テーマごとに数時間単位でのケアのコースも豊富にあって、こちらは単発・完全予約制。

日曜休館なので、土曜日は3ヶ月先まで予約でいっぱいだったりもします。

 

人気のアンチ・ストレスのコースは、3時間。

まずは、個室のベッドに横たわって、海水を利用した縦長の体温程度の暖かさのシャワーを20分浴びます。これ以上冷たくても、熱すぎても、身体にはよくないそう。でも、湯温40℃以上の国から来た私としては、冷たいと表現したいほどの温度。

 

それから別の個室に移り、バスタブでの全身ジャグジーなんですが、こちらは、好みの温度設定を聞いてくれます(でも、最高温で37℃)。こちらも20分。

 

そして、今度は、暖かいベッドのある個室へ。ここでは、海草のジェルを(顔以外の全身に)塗ってパラフィンで覆い、20分過ごすことになります。

 

すっかり身体はポカポカに。

シャワーで洗い流した後には、少々寒気を感じるのですが、そこには80℃程度の熱すぎずぬるすぎない、絶妙なハーブティーが運ばれてきます。

 

ひと心地ついたら、また別の個室へ。

うつぶせ・あおむけで、約1時間の全身のリラックスマッサージ。続いて、顔にも同様にクリームでのマッサージか、顔のツボを指圧のように軽く押していく施術のいずれかが選べます。

 

中庭のパティオは寒い次期でも一呼吸するのには心地いい

さて、数日間や1週間単位のコースがあるのは、ここでも同じことで、その場合の滞在先は自由ですが、市内3ヶ所に提携先があります。

 

そちらについては、追って改めて。いずれも、屈指の評判をもつところで、1番近いところで徒歩数分。最も離れているところでも、車で10分程度。ヴァカンスでなくても、出張の折に利用できてしまったりもするわけです。

パートナーとや友人同士での利用なら、パティオでランチというプログラムも。

サイトやパンフレットには載っていませんが、事前予約で、ビアン・エートルなランチ(24ユーロ90)を用意しておいて貰うことも出来ます。

こんな裏メニュー的なものは、やっぱりクチコミで。フランスでの1番の広告は、人から人へのコミュニケーションだといつも感じさせられている一面です。

Centre du bien être – chateau berger
281 Corniche Président John Fitzgerald Kennedy, 13007 Marseille
9:30 – 18:30 (日曜休)
公式HPはこちら

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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