「千と千尋の神隠し」油屋の下半分のモデル地を探してみた
日本

何度見ても飽きることの無い「千と千尋の神隠し」。舞台となっている油屋のモデル地について、ジブリマニアが深く突っ込んで調べてみました。

油屋の外観の違和感?

「千と千尋の神隠し」の舞台となっている油屋。和風旅館を思わせるこの外観は、愛知県の清洲城や愛媛県の道後温泉本館、長野県の渋温泉金具屋、群馬県の四万温泉積善館本館、江戸東京たてもの園にある銭湯の子宝湯などがモデルだと言われることがあります。

一般的には、日光東照宮、目黒雅叙園、江戸東京たてもの園にある武居三省堂や高橋是清邸など、日本全国にあるパーツを組み合わせたというのが通説です。

しかし、DVDを観ているうちに、ふと気がついたことがあります。上半分は豪華絢爛なのに、

下半分はまるでお城のように無機質なコンクリート製といったところ。どうして「上半分と下半分」がここまで違うのでしょうか?

この油屋の下半分にフォーカスしてみたところ、面白い発見がありました。さらに、「千と千尋の神隠し」の背景から、ジブリファンですら誰も気づいていないかもしれない油屋モデルと思しきスポットを発見したので、ご紹介します。

油屋のモデル地までの道のり


実はここ、穴場の紅葉狩りスポット探しをしている時に、偶然見つけました。場所は、東京都心から西へ約60km、東京最西端の駅「JR奥多摩駅」の近くにあります。

奥多摩駅前から奥多摩町役場横のパーキングを通り過ぎて進みます。(写真の分岐点を左へ。右は工場の敷地なので進入禁止)

日原(にっぱら)川にかかる北氷川橋を渡ります。

橋を渡り終えたら、突き当りを右に進みます。そこは「本仁田山」へ向かう遊歩道になっています。「本仁田山」の案内板を過ぎたら、右にある渓谷を流れる日原川を見ながら歩きます。

渓谷沿いを歩きながら、木々の間から対岸に見えてきたのが、廃墟工場……か?

廃墟ではなかった!


耳を澄ますと工場の稼働音が聞こえるので、廃墟ではありません。奥多摩工業株式会社の、石灰石を採掘している工場です。外階段やコンベヤー、小屋のようなモノが壁一面にくっついていて、まるで油屋の下半分に描かれている外観にそっくりです。

灰色で無機質な外観は、まるで要塞のようです。工場が巨大過ぎてカメラに全体像を収めることができません。

油屋と見比べてみると


油屋の下半分は、灰色のコンクリート製の壁に、ハシゴや階段、たくさんのパイプや小屋が張り付いた状態になっています。

釜爺のいるボイラー室からの煙は、油屋西側の煙突から吐き出されていますが、この工場の煙突も西側に設備されています。

見ているうちに、千(セン)が階段を駆け下りていくシーンや、油屋で大暴れしたカオナシがセンに導かれてパイプの上から海に飛び込むシーンなどが、自然に思い浮かべられるスポットです。

ジブリマニアが油屋モデルだと確信した3つのポイント


1つめのポイントは、油屋が建っている場所です。作中、先輩のリンが雨上がりに部屋でくつろいでいる時に「あたりまえじゃん、雨が降りゃ海くらいできるよ。」と言っているシーンがあります。

実は工場の横を流れる日原川は、ダムなどの治水対策がされていません。大雨などの異常気象時には交通規制が行われるそうです。雨による増水で危険なエリアになることが、容易に想像できます。リンのセリフと通ずるものを感じました。

余談ですが、写真を撮った場所が「女夫橋(めおとばし)」というのも、湯女が働く油屋のストーリーとの強い関係性を感じる場所でもあります。

2つめのポイントは、線路です。奥多摩駅から先には駅が無いため、電車は走っていません。しかし、女夫橋から日原川の上流に、今でも使えそうな廃線跡の日原川橋梁(きょうりょう)を望むことができます。

別の機会に「廃線をたどる旅」でご紹介したいと思いますが、廃線で走っていないんじゃ、油屋モデルとしての確信が得られなくなります。ここで諦めるしかないのか……。

いいえ、ココまで来て引き下がれません。先ほど、煙突の後ろの木々の間から何か見えたので、諦めずに調べ上げました。すると、工場から奥多摩工業曳鉄(えいてつ)鉄道線というトロッコ電車が現在でも走っていることがわかりました。

残念ながら生きた人間が乗れる電車では無く、採掘場から石灰石を運んでくるトロッコ電車です。でも、片道しか荷物を運んでいないことからは、千と千尋の神隠しで描かれている片道切符の「海原電鉄」を連想させますね……無理やりっぽいですが。

ちなみに奥多摩工業曳鉄(えいてつ)線は、工場から採石場までトンネルばかり通っているので、なかなかトロッコ電車を見ることができません。

日原街道をさらに山奥(採石場)へ進んだところ(日原トンネルの手前)で、日原川を越える「川乗橋梁」(頭上を走る橋)でトロッコ電車を見ることができました。相当な山奥まで行った甲斐があります。

3つめのポイントは、千と千尋の神隠しのストーリー全体から感じることにあります。トロッコ電車の終点の先には「日原鍾乳洞」があるのですが、この洞内は「生と死を感じさせる」スポットです。

「千と千尋の神隠し」の油屋モデルとの関係性を強く感じさせられた点でもあります。日原鍾乳洞はとても興味深いスポットなので、別の機会に詳しく紹介したいと思います。

「油屋モデル」かも知れない、廃墟のような工場。「千と千尋の神隠し」のモデル地だと確信できるまで、7ヶ月を要してしまいました。ジブリファンが誰も気づいていないであろうマニアックな場所ですが、「ピン!」ときたスポットです。

奥多摩工業(株)
東京都西多摩郡奥多摩町氷川243−2

この記事を書いた人

MAKIJI

MAKIJI

秋田生まれ東京育ち。中年デビューのスピリチュアル系フリーライターとして、都市伝説でウワサされる神秘的なエリアをotaku感覚で追いかけます。日本人が忘れかけている魅力的なスポットの隠された謎を一緒に紐解きしませんか?五感をフル活用した情報であなたの背中をそっと後押したいと思います。

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