ジブリアニメのなかでも人気の高い、「千と千尋の神隠し」。「江戸東京たてもの園」には、その背景のモデルになったモノがたくさん展示されていると言われています。中には、ジブリ公認のモデルも。そこで今回は、ストーリーを思い浮かべながら園内を回り、背景になったパーツをご紹介します。もしかすると、新しい発見ができるかもしれません。
モデルになったパーツを探すには東ゾーンへ
※タッチで拡大できます
小金井公園の一角にある江戸東京たてもの園までは、JR中央線「武蔵小金井駅」北口、西武新宿線「花小金井駅」南口より、バスでそれぞれ約5分。「江戸東京たてもの園前」、もしくは「小金井公園西口」で下車します。
広い園内で「千と千尋の神隠し」のストーリーに沿ってモデルになったパーツを探すなら、センターゾーンから東ゾーンにかけて、目を皿のようにして巡ってみましょう。
夜の闇に包まれてゆく!食堂ばかり並ぶ不思議な街並み
丸二商店(荒物屋)は、千代田区神田神保町にあった昭和初期の建物です。建物の前面が、銅版を組み合わせて模様の看板建築で、屋根の形が特徴的です。
夕方になると、特徴的な屋根の影が隣の建物に写ります。夜の闇にまぎれるまでの短い時間に大きさを変えていく影が、不気味さを演出しているように感じます。
荻野千尋という10歳の少女が、好奇心旺盛な父親を先頭に、閉鎖されたようなテーマパークだと思い込んで、母親にしがみついて歩いていくシーンがあります。食べもの屋ばかり並ぶ屋根や窓のデザインが、丸二商店にそっくりな建物が描かれています。
千尋の両親が豚になった食堂の雰囲気
鍵屋(居酒屋)は、台東区下谷の言問通りにあった、1856年に建てられたと言われている居酒屋です。
大きさなどの規模は違いますが、ストーリーのなかで、美味しそうな匂いにつられて入った食堂の雰囲気に似ています。よく観ると、醤油樽を利用したイスが、手作り感を盛り上げています。
古き良き時代の雰囲気が良く、こんなお店ならお酒も食も進むでしょうね。ストーリーでは、「豚丁横丁通」の食堂で千尋の両親がご飯を食べながら、豚に変わるシーンのモデルと言われています。
ハクに手を引かれながら、身を隠すために走り抜ける食品倉庫
小寺醤油店は、港区白金で営業していた醤油店です。床には、量り売り用の味噌かめが置いてあります。
古いレジスターがあり、珍しいモノがたくさんある店内は、新しい発見の予感が……。新ネタ発見か? 量り売り用の大きな醤油樽があります。
八百万(やおよろず)の神様たちが疲れを癒しにくる「お湯屋」エリアは、人間が居てはいけない場所です。千尋のカラダが消えかかっているところを、ハクに助けられます。ハクのかけた魔法で、川の船着場から油屋へ身を隠すために猛スピードで走る抜けるシーンがあります。狭い路地から、最初にドアを開けて入った場所は食品倉庫です。大きな醤油樽や味噌瓶の横をふたりが走り抜けています。子供目線で見ればとても大きな樽に見えているはずです。きっと、ココにある醤油樽が背景のモデルになったに違いありません。
釜ジイのいるボイラー室の薬草棚
武居三省堂(文具店)は、千代田区神田須田町で明治初期に創業した文具店です。
江戸東京たてもの園のなかでも1、2を争うほどの、人気スポットです。
使い込まれた傷のつき具合なんか、たまらなくイイ感じです。
床から天井まで続くたくさんの引き出しは、薬草の入っている釜じいのボイラー室のモデルになったと言われています。どこに何がはいっているのか? 覚えている釜じいはスゴいと感じさせられます。残念ながら、となりのトトロに出てくる「まっくろクロスケ」に似た「ススワタリ」が出入りしていた穴や、湯屋の廊下から出入りできる扉は、見つけることができませんでした。
千の仕事場になった油屋
子宝湯は、足立区千住元町にあった銭湯です。神社仏閣を思わせる大型の唐破風(からはふ)や、玄関上の七福神の彫刻などもあり、手を合わせて拝む人がいたほどだと言われています。「油屋」のモデルとして参考にしたとして、ジブリが公式に認めている建物です。油屋の一番上と、中段にある屋根の形がそっくりです。
脱衣所の折上格天井など、贅(ぜい)をつくした造りとなっています。ロッカーなど無かった時代には、こんな竹で編んだ籠に脱いだ服などを入れていましたね。脱衣所の横には、ガラス戸に仕切られた縁側があり、庭園を観ながら涼むことができます。
脱衣所横のガラス戸と、庭園風の庭に注目です! 雨が降っているなかで、ココに立っていたカオナシをお客さんだと思い込み、千の好意で開けたままにしておいたガラス戸から、カオナシがスーッと油屋に入り込んでしまうシーンの場所ではないか! カオナシは、庭園を囲む壁が雨に濡れてできた「染み」からイメージした、キャラクターと言われています。
銭湯で思い出したマニアックな情報ですが、別の場所の展示物で、花市生花店にある黒電話は、千とリンが大湯の掃除担当になったシーンに描かれています。千が番台に薬湯の札をもらいに行った時に、湯婆婆からの連絡に、番頭が使っていた黒電話です。
千やリンの湯女が寝泊まりする建物のデザイン
壁の少ないガラス張りの高橋是清邸は、センターゾーンにあります。湯婆婆のもとで働く契約ができた千が、仕事以外の時間を過ごす場所で、一面のガラス張りがそっくりに描かれています。
千がリンから仕事着をもらう際に、描かれている場所です。実際の建物のガラスは、明治時代のガラスが使われていて、ガラス越しに観る景色が、少し歪んで観えます。独特の四角い木枠で、組み合わされたデザインが素敵な窓ですね。
木枠のデザインは異なりますが、下部の手すりの構造などは、そっくりに観えます。千が、月夜に足の投げ出しながら夜食をつまみ食いしているシーンや、白龍の姿になったハクが空から飛び込んでくるシーンなど、映像が目に浮かぶような場所です。
ハクを助けるために勇気を振り絞って乗り込んだ海原電鉄
東ゾーンの下町中通り入口に展示されている、都電7,500形です。今では考えられませんが、クルマの通行量が増えるまでは、実際に渋谷駅と新橋駅の間を走っていた都電です。
千と千尋の神隠しのなかで、盛り上がっていく場面から、湯屋の下を走っていた海原電鉄がはっきりとした姿を出現します。ハクを助けたい思いから、ハクの罪を許してもらうために、湯婆婆の姉・錢婆のいる「沼の底駅」へ向かいます。釜ジイにもらった古い切符で、行きっぱなしの海原電鉄に乗れば、帰れる保証がありません。
千とカオナシたち以外の乗客は、カラダが透けていて、顔もはっきり見えません。明らかに、この世の世界では無い印象を受けます。
反対に車窓風景はとても美しく観えて、千と千尋の神隠しがファンタジーであることを印象づけているように感じます。影が伸びる夕暮れと共に、いつしか周りの乗客が誰もいなくなります。
水没した線路を走り、海原を走っているかのような現実離れした光景は、幻想的なシーンを演出しているようです。
となりのトトロのモデル!?
センターゾーンの西川家別邸に、風にガタガタ音を立てそうな窓のあるお風呂場があります。サツキとメイがお父さんと一緒に入っていたお風呂のように観えます。水道の蛇口の位置や、五右衛門風呂のような丸い浴槽は、そっくりに描かれています。
こちらは今回詳しい紹介をしていない、西ゾーンの「常盤台写真場」と「三井八郎右衞門邸」との路地に展示されています。奥まった場所に展示されているせいか気がつく人が少ないようです。色は違いますが、サツキとメイのお父さんが、通勤に使っていたようなボンネットバスを見つけました。物語で描かれている、「東電鉄」のボンネットバスのモデルになっているのではないでしょうか……。
訪れるたびに新しい発見があり、トトロの好きなドングリもいっぱい落ちている、「江戸東京たてもの園」では、まだまだ知られていないジブリパーツが見つかるのかもしれませんよ。
【施設情報】
休園日:毎週月曜日(月曜日が祝翌日)、年末年始
開園時間:4月~9月:午前9時30分~午後5時30分
10月~3月:午前9時30分~午後4時30分
※入園は閉園時刻の30分前までとなっています。