人類最後のフロンティアに触れる。特別展「深海2017」を冒険してきた
日本

サメ

世紀のスクープ映像といわれた生きたダイオウイカの映像と共に、全長約5メートルの巨大ダイオウイカの展示が話題を呼び、動員数約60万人を記録した2013年の国立科学博物館の夏の特別展「深海」。

あれから4年。更にディープに面白く”深化”した「深海」が特別展「深海2017」とタイトルを変えて同館に戻ってきました。地球上に残された最後のフロンティアといわれている深海。

近年は謎に包まれた深海のユニークな姿が少しづつ解明されてはきたものの、私たちが知る深海は、その全貌のわずか数%にすぎないといわれています。

生命の課題や地球のしくみを理解するために今や必要不可欠となった深海研究。そのミステリアスな世界に想いを馳せながら、”最深研究”で迫った深海の”いま”に触れてきました。

第1章「深海とは」

深海展広告
私が特別展「深海2017」の広告を見つけたのは、1ヶ月以上前のこと。それからずっと待ち遠しかったので、ワクワクドキドキしながら中へ。
展示解説
なるほど。深海について深く掘り下げるなら、まずは深海のキホンから学ばなければなりませんよね。

本来は人間が足を踏み込むことのできない領域、深海。ここでは人間にとって深海が、いかに過酷で高い壁であるかを示しています。
深海堆積物
こちらは世界の深海底泥や砂などの堆積物。色や粒の大きさが場所によってこんなにも違うなんて、海はつながっているのに不思議ですね。
水圧
水圧
深海にはどれほどの圧力がかかるのかを分かりやすく表現したのがこちら、水圧でつぶれたカップ麺の容器です。深海は冷たく暗いだけでなく、高圧な世界でもあるのです。

私にとって深海は、例えどんなに危険が隣り合わせだとしても、宇宙と同じぐらいに魅力的で、どうしても行ってみたい場所。

光の届かない暗黒の世界に、実は沢山の生命が繁栄しているという事実が、あまりにも衝撃的でロマンに溢れているとは思いませんか?

第2章「深海と生物」

「発光生物」がいっぱい

「生物発光シアター」では、発光する深海生物がなんのために光るのか、どのように光るのか、最新映像と多数の標本を用いて紹介しています。

「発光生物」はなぜ光るのか?
生物が化学反応によって放つ光を「生物発光」と呼ぶ。生物発光をする生物は(陸上から海の中まで)数万種にも及ぶが、とりわけ深海の生物においては、90%以上の種が生物発光をするといわれる。深海生物でも、ホタルのように発光を利用して雌雄が出会う例は知られているが、それ以外の役割も数々の仮設として提唱されている。発光によって攻める・逃げる・隠れることで生き延びてきた生物がいる一方で、姿を隠した生物を見破るものまでいる。
-特別展「深海2017」展示解説より-

チョウチンアンコウ
一際存在感を放っていた「チョウチンアンコウ」は、発光で獲物に忍び寄る・おびき寄せるタイプ。
チョウチンアンコウ
光り方は予想通りです。
クロカムリクラゲ
「クロカムリクラゲ」は発光で逃げるタイプ。
クロカムリクラゲ
すごい! 全身が光るんですね。さらに体の下の方から発光する発光物質は体から少し離れたところで光るため、光がおとりになるのだとか。
デメニキス
見た目も生態もユニークな「デメニギス」。
デメ二ギス
生物発光を見るデメニギスの眼は筒状で、先端に緑色のレンズがあります。

この緑色のレンズが捕食者に見つからないようにカウンターイルミネーションで姿をくらましている生物が発した光と自然光を見分けるのに大きな役目を果たしていると考えられています。

「カウンターイルミネーション」(逆照射)とは?
青色の光だけがかすかに届くトワイライトゾーン(薄明帯)にすむ生物たちは体の腹面に発光器をもつものが多い。ここでは、身を隠す場所がないうえ、下から見上げると体の影が浮かび上がる。そこで、腹側の発光器の光をわずかに届く太陽光に同調させることにより、その影を消すことができる。
-特別展「深海2017」展示解説より-

フジクジラ
ホタルイカ
他にも発光(カウンターイルミネーション)で姿を隠すフジクジラやホタルイカ。
ムラサキカムリクラゲ
特殊な発光で捕食者の捕食者を呼ぶ「ムラサキカムリクラゲ」などがいました。

ちなみに発光生物の光り方は2種類。ホタルのように体内の化学物質を反応させる方法と、他の生物の発光を利用する方法があるようです。それにしても発光生物というのは、どうしてこうも神秘的なのでしょうか?

喰うために、そして喰われないために進化してきた深海生物

深海は皆さんが想像する通り、生物が生き延びるのが大変困難な領域です。

ただでさえ食べ物が少ない上に、暗闇で少ない獲物を探す難しさ、いつどこから襲ってくるか分からない敵、深海での暮らしはきっと、私たちの想像を絶するほど厳しいものです。

そんな中で深海生物は、はるか昔から、喰うために、喰われないために、さまざまな工夫や努力をしてきました。その積み重ねが今の深海生物を作り上げたのです。
シダアンコウ
上下逆さまに泳ぐ「シダアンコウ」は、頭の近くから長く伸びた突起を、海底付近にたらして獲物を誘っているといわれています。泳いでいる姿はかなり滑稽。
オ二ボウズギス
自分より大きな魚でも丸飲みしてしまう「オ二ボウズギス」。大きな獲物にありついた後は腹部が大きく変形します。なんとも便利な胃。
ミツクリザメ
ミツクリザメの英名は「ゴブリン・シャーク」=小鬼・小悪魔のサメ。獲物を襲う瞬間、あごが大きく前方に飛び出る映像は、何度見ても衝撃的で面白いです。
ムラサキヌタウナギ
敵に襲われると瞬時に体表から多量の粘液を放出する「ムラサキヌタウナギ」。敵が逃げていくほどの強烈な粘液、触ってみたいです。
ユメザメ
「ユメザメ」
ムラサキギンザメ
「ムラサキギンザメ」

深海のトップ・プレデターたちの登場で、すっかりヒートアップしてしまった私。

巨大生物

深海には、私たちの想像を超える巨大な生物が生息しています。巨大化の謎を貴重な展示と共に紹介している、大変興味深いブースです。
オデンザメ
オデンザメ
そして登場した巨大深海ザメを代表する種のひとつ、「オンデンザメ」。迫力満点です。巨大海洋生物が大好きな私にとってはたまらない標本です。
スルメイカ
ダイオウイカ
スルメイカとダイオウイカのサイズ差がすごすぎて、つい笑ってしまいました。同じイカとは思えません。
ダイオウホウズキイカ
ダイオウホウズキイカ
こちらは「ダイオウイカ」より重量において大きいとされる巨大生物、「ダイオウホウズキイカ」の写真と腕の一部。

これまで成体の全身標本は3個体しか知られておらず、博物館に保管されている標本数も少ない幻のイカは、極地の深海に生息しているとのこと。極地の深海世界には、沢山の謎が眠っていそうです。

※第2章では他にも超深海(深海の中でも6,000mより深いところ)や日本周辺の深海生物相とその成り立ちなどについて学ぶことができます。沢山の標本がずらりと並ぶ深海ごとの深海生物図鑑もお見逃しなく。

第3章「深海と巨大災害」

さて、ここからは着眼点がガラリと変わります。深海生物からは離れて、地震断層にせまります。東北地方太平洋沖地震「3.11」のメカニズムを考察すると共に、巨大地震の謎解きに挑んでみましょう。
しんかい6500
深海調査には必要不可欠な存在、有人潜水調査船「しんかい6500」。
地震亀裂
こちらは「しんかい6500」が見た「3.11」の大地震で生じた深海底の巨大な亀裂。ゾッとしてしまう光景です。
津波
津波
あの日津波はどのようにして起こったのか? この「東北地方太平洋沖地震における津波発生模型」のスタートボタンを押せば、一目瞭然です。
ちきゅう
ちきゅう
地震断層を調べる東北地方太平洋沖地震調査掘削プロジェクト(JFAST=Japan Trench Fast Drilling Project)は、地球深部探査船「ちきゅう」を用いて行なわれました。
水深700m
掘削目標は、水深7,000m。
地震断層
採取されたコア試料「東北地方太平洋沖地震の地震断層(レプリカ)」がこちら。うろこ状に地層が変形しており、地震のすべりによる力を受けたことがわかります。

レプリカだけでなく、コア試料の実物も世界で初めて公開されています。
温度ロガー
実は掘削孔内に温度計測装置(ロープで数珠つなぎにした温度ロガー)を設置して、地震によって動いた断層の摩擦熱を計測することが、「JFAST」に課せられた最大のミッションでした。ところがこの作業はかなり困難を極めたとのこと。

※「JFAST」で得られた成果や課題が、地震研究を急激に進歩させたといっても過言ではないでしょう。ちなみに第3章では他に海底地すべりが引き起こす巨大津波や海底火山のメカニズムについて詳しく解説されており、人間が太刀打ちできない自然の驚異を感じました。

第4章「深海と資源」

深海底を調査することで見えてきたエネルギー資源や鉱物資源の現状と展望について考えてみましょう。
資源
三次元物理探査船「資源」。
白嶺
海洋資源調査船「白嶺」。
石油
石炭
メタンハイドレート
私たちの生活を支えるエネルギー資源たち。深海をどんどん掘り下げていくと、こんなところにまで行き着くんですね。

ところで皆さんは、エネルギー資源として有望なメタンハイドレートが、日本近海に広く分布しているのをご存知でしたか? 普段普通に暮らしていて、資源について考える機会なんて滅多にないので、地味に大切な展示だと思いました。
チムニー
こちらは鉱物資源、巨大な「チムニー」の一部。

第5章「深海と地球環境」

地球温暖化や海洋酸性化により地球環境が急速に変わりつつある今、深海では何が起きているのでしょうか?
DeepNINJA
海面から水深4,000mまでの深海の水温と塩分を観測できる小型の自律海洋観測ロボット、「Deep NINJA」がその答えを導き出すヒントを与えてくれています。

第6章「深海を調査する機器」

日本の深海研究の現場で活躍する船舶や探査機を紹介している展示ブースがこちらです。
かいめい
海底広域研究船「かいめい」。
深海挑戦
深海挑戦
深海挑戦
深海挑戦
深海挑戦への歴史を垣間見ることができました。なんだかとても感慨深いです。

今でこそ当たり前のように深海の世界に触れることができる私たちですが、その背景には研究者たちの血の滲むような努力があったに違いありません。

長い月日を経て、深海をここまで近い存在に感じられるようになった”いま”を生きる私たちは、とても幸せです。
しんかい内部
最後にこの展示ブースの一番の目玉をご紹介して、特別展「深海2017」の筆者目線の見どころ解説を終了させていただこうと思います。

有人潜水調査船「しんかい6500」の耐圧殻内部(実物の1.5倍のサイズ)を見ていると、夢が膨らみます。この中に乗って深海を旅している自分を想像するだけで、世界が違って見えるような気がしました。

見どころが満載すぎる、特別展「深海2017」

特別展「深海2017」にて、膨大な標本数と想像を超える内容の濃さにすっかり圧倒されてしまった筆者ですが、一言で感想を言うなら”最高”でした。

前回の特別展「深海」のときは、恐る恐る深海の世界に足を踏み入れるような気持ちで展示を見ていた記憶があるのですが、今回はかなりディープに深海世界に入り込めた気がします。

お恥ずかしながら、暗黒の深海世界で、面白いのは深海生物だけだと思っていた私。魅力的なのは深海生物だけではなくて、深海世界そのものでした。

これでもかといわんばかりに深海を掘り下げた今回の展示。正直お子様には少々難しいテーマもあります。それでもこれからの地球を考えるために、重要なテーマばかりです。

深海を知ることは地球を知ることにも繋がります。この夏は是非親子でカップルで、または友人と深海のミステリーを解き明かしに出かけませんか?

「国立科学博物館」
アドレス 〒110-8718 東京都台東区上野公園7−20
アクセス •JR「上野」駅(公園口)から徒歩5分
•東京メトロ銀座線・日比谷線「上野」駅(7番出口)から徒歩10分
•京成線「京成上野」駅(正面口)から徒歩10分
•館内に駐車場および駐輪場はございません
特別展「深海2017」公式HPはこちら

この記事を書いた人

Makiko Suga

Makiko Suga海洋生物の素人スペシャリスト/動物&自然オタク/世界中の秘境地&穴場スポットマニア

幼少期に有名なイルカの研究家と運命的な出会いを果たす。以来海洋哺乳類に魅せられ、海洋生物学者への道を志すが挫折。その後は海洋生物とは無縁の生活を送っていたが、2015年に海洋生物の宝庫であるカナダに留学。あるクジラとの出会いが自分の人生を変える。子供の頃の夢を追い続けながら世界に目を向けている永遠の旅人。得意分野は自然、動物関連だけにとどまらず、多岐にわたる。

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