「大英自然史博物館展」から読み解く、生命の起源とこれから。
日本

マダコ

世界で最も優れた博物学標本のコレクションを所蔵しているひとつであり、その建物自体も価値ある文化財である「大英自然史博物館」。

大英博物館の分館として1881年に開館したこの博物館は、ロンドンのサウスケンジントンに位置しています。収蔵標本数8000万点という壮大なスケールを誇るこの博物館ですが、科学者が地球の歴史を探求するのに大きな役割を果たしてきたとのこと。

今回の「大英自然史博物館展」では、「大英自然史博物館」の膨大なコレクションの中から選りすぐりの自然史に関する貴重な標本や資料を見ることができるということで、早速足を運んできました。

実際に展示を見てつくづく感じたのは、”生命は神秘的”だということ。自然の成り立ちや生命の起源などに深い興味を持っている私にとって、今回の展示が驚きの連続であったことは、言うまでもありません。地球上の生命はどこから来てどこへ向かうのか? 展示を通して知られざる生命の歴史に迫ります。

序章「自然界の至宝~博物館への招待~」

大映自然史博物館
それでは早速行ってきま~す!
大映博物館
大映博物館
入口入ってすぐの大英自然史博物館紹介動画を見ながら、遥か遠くにある博物館に思いを馳せます。同時に、これからこの博物館内にワープできると思うと、胸が高鳴ってきました。
大映博物館
こちらはもう少し詳しい博物館の紹介動画。おっと、壁紙が本物の博物館のようです。
アゲハ
credit 【下】アレクサンドラトリバネアゲハ(メス)、【上】アレクサンドラトリバネアゲハ(オス)

こちらの蝶は茶色いほうがメス、体は小さいけれど鮮やかなブルーのほうがオスということで、なんだか意外。残念ながら絶滅の危機に瀕している種類で、現在はパプアニューギニア島北部の森林でのみ生息が確認されているとのこと。
アメジスト
credit 呪われたアメジスト

いわくつきなタイトルがつけられたこちらのアメジストですが、その真相とは?

所有者はこのアメジストが呪われていると信じ、7重の箱に入れて保管していた。運河に投げ捨てたが、再び戻ってきたという逸話がある。後に「これは呪われており、血と、かつての所有者たちの不名誉で染まっている」という手紙とともに大英自然史博物館に寄贈された。―「大英自然史博物館展」展示解説より―

うーんなんだか恐いですね。やはり美しすぎるものには裏があるということなんでしょうか? まるで「ロード・オブ・ザ・リング」の指輪みたいですね。
三葉虫
credit 三葉虫

こちらは集団で交尾したまま窒息死したと思われる三葉虫。しかも数億年前のもの。まさかこんな瞬間が後世に語り継がれることになってしまうとは、彼らも想像していなかったでしょう。
キリンンの頭
credit キリンの頭

そして衝撃的だったのがこちら。タイトル通りで説明不要なこちらの標本の前には、沢山の人だかりができていました。
マダコ
credit ブラシュカ父子 タコのガラス模型

この精巧なマダコのガラス模型は、生物が生きているときの色彩を保存するという科学的な価値を持っている貴重な作品。

1章「大英自然史博物館の設立」

「ハンス・スローン」と大英博物館

ハンス・スローン
credit ハンス・スローンの肖像画の模作 画家、ステファン・スローターによる

写真はイギリスきっての偉大なコレクター、「ハンス・スローン」。大英博物館は彼のコレクションをもとにして創設されたのだとか。大英博物館の自然史部門の分館(現在の大英自然史博物館)が誕生したのは、そのあとのこと。

※彼は生前、自宅に膨大なコレクションを並べ、研究していたようです。
ハンス・スローンの言葉
こちらが「ハンス・スローン」の言葉。ふと自分の幼い頃の記憶が甦りました。私も母に嫌がられながらも、玄関中を虫かごで埋め尽くしたものでした。当時の私は植物や生物の研究が面白すぎて、自分の手で触れない生物など1つもありませんでした。
水牛ツノ
credit アジアスイギュウのツノ
カメの甲羅
credit カメの甲羅の化石

こちらがハンス・スローンのコレクションの一部です。

心奪われる標本の数々

ヘビ皮
credit インドコブラの皮

「インド産ヘビ研究の父」と呼ばれたパトリック・ラッセルがインドからイギリスへ帰還する際に持ち帰ったヘビ皮標本がこちら。触り心地が気になるところです。
ゾウムシ
credit ゾウムシの指輪

博物館のお土産屋さんなどで虫が封入された飴やキーホルダーは良く見かけますが、指輪は見かけたことがないかも? この小さなゾウムシを近くでよーく見てみると……なんとも美しい宝石のような発色構造をしています。個人的には高いダイヤモンドを身に着けるぐらいなら、こっちのほうがオリジナリティがあって価値がある気がします。
ガラスケースのハチドリ
credit ガラスケースのハチドリ

「大英自然史博物館」開館当時の目玉展示だったハチドリの展示ケースは、芸術性に優れた一品。完成度が高く、この展示からハチドリの野生での姿や住みかを想像することができます。
ネコのミイラ
credit 古代エジプトのネコのミイラ

生まれて始めてネコのミイラを見ました。良く考えたら博物館で人間のミイラを見る機会はたびたびあったけれど、動物のミイラを見る機会というのは全くと言っていいほどありませんでした。「大英自然史博物館」には250体以上の動物のミイラのコレクションが所蔵されているということで、とても興味深いです。

リチャード・オーウェン
credit リチャード・オーウェンの肖像画 画家、ヘンリー・ピッカースギルによる

やがてリチャード・オーウェンが大英博物館自然史部門の責任者となると、自然史の存在感と注目度が変わっていきました。

2章「自然史博物館を貫く精神」

比較解剖学の父「リチャード・オーウェン」

サメの歯
credit (左から)オーウェンが同定したケサイの上顎大臼歯化石/オーウェンが同定したサメの歯化石/サメの歯化石

ハリモグラ
credit オーウェンが解剖したハリモグラ

ダーウィンの進化論を声高に批判したリチャード・オーウェンは、比較解剖学という学問分野を60年近く牽引し、何百種もの動物の命名と詳細な記述を行った偉大な人物です。そんな彼の遺した標本の一部をじっくりと見つめていると、好奇心がくすぐられます。
モア
credit モア全身骨格

絶滅した巨大な鳥、モアが空を飛べなかったことを見抜いたのもオーウェンらしいです。
※最新のコンピューター技術で復元されたモアの映像あり。

化石から生命の歴史を読み解く

アンモナイト
credit ケラウェイズ・ストーンの化石
ヒトデ
credit (左から)メアリー・アニングが収集したクモヒトデ類の化石/メアリー・アニングが発見したサメの歯化石
コケムシ
credti コケムシ化石

化石や地層には、生命の起源を探るための様々なヒントが隠されています。気が遠くなるほど昔に繁栄した生物が今もこうやって語り継がれていることに、大きな感動を覚えずにはいられません。科学者たちは一体どうやってこの化石からその生物の実体を想像してきたのでしょうか?
魚竜
credit メアリー・アニングが発見した魚竜

イルカと同じ流線形の体を持っていた魚竜の化石はダイナミックで見応えがありました。
※最新のコンピューター技術で復元された魚竜の映像あり。

「チャールズ・ダーウィン」の進化論

カメ
credit アルダブラゾウガメ

ダーウィンが世界一周の航海のために乗船したビーグル号の航海中に見たこのゾウガメは、およそ200歳で死んだとみられています。また、ダーウィンはこのゾウガメを賞賛していたとのこと。
ダーウィンのペット
credit ダーウィンのペットだった若いガラパゴスゾウガメ

ダーウィンはカメが好きだったのでしょうか? ちなみに私も子供の頃はカメが大好きでしたが、飼っていたカメが共食いをして以来、すっかりカメのイメージが変わってしまいました。
カメノテ
credit チャールズ・ダーウィンが研究したカメノテ

久しぶりにカメノテを見ました。見た目がかなりグロテスクですが……まさかダーウィンの専門だったとは。
ダーウィン
1859年に自然選択による進化という急進的な理論、「種の起源」を発表したダーウィンの言葉がこちら。ダーウィンは生存や繁殖に有利な生物学的特徴を持つ個体ほど生き延びやすく子孫を残しやすいという、説得力のある説を提示しました。
種の起源
credit チャールズ・ダーウィン『種の起源』手稿 本能についての章の1ページ

「大英自然史博物館」にはこのように、貴重なダーウィンの学術的コレクションが多数あるということで、夢が膨らみます。

幻の「始祖鳥」、ここに現る

始祖鳥
始祖鳥
credit 始祖鳥

この展覧会の目玉標本といえば初来日の始祖鳥の標本(ロンドン標本)。注目すべきは復元率の高さです。
※最新のコンピューター技術で復元された始祖鳥の映像あり。

始祖鳥は、恐竜のような歯やカギヅメ、そして長い尾を持つ一方、現在の鳥類のような翼と羽毛も持っていた。ロンドン標本から、始祖鳥の脳と三半規管が三次元で復元され、飛行に必要な視覚や平衡感覚、運動神経を持っていたらしいと考えられている。-「大英自然史博物館展」展示解説より-

始祖鳥が飛べたのか飛べなかったのか、鳥類なのか恐竜なのかまだ答えは出ていないということですが、どんなに長い歳月をかけて研究しても、最新の研究技術を駆使しても、解明されない未知の生物がいるということにロマンを感じずにはいられません。

生命や自然が神秘的なのは、理屈や技術では解き明かすことのできない深い謎を秘めているからなのです。

3章「探検がもたらした至宝」

タラガイコレクション
credit ジョゼフ・バンクスのタラガイコレクション

ジェームズ・クック率いるエンデバー号で地球一周をし、例をみないほど豊かな動植物の標本を収集した若きイギリスの博物学者、ジョゼフ・バンクスの美しい貝のコレクションは、海の世界に深い興味を示している私の心を鷲掴みにしました。
ヒメセミエビ
credit ジョゼフ・バンクスがエンデバー号の航海で収集したヒメセミエビの仲間

バンクシア
credit (左から)バンクシア・エリキフォリアの果実/ウォールム・バンクシア

世界中にはまだ見たことも聞いたこともないような動植物がいっぱい存在します。私も世界中を旅しながら動植物の標本を収集する旅に出かけたいです。きっとそれは想像を絶するほど過酷な作業で、それでも毎日が新しい発見であることは間違いありません。

あらゆる大陸や海で暮らす様々な動物たち(絶滅種含む)

コウテイペンギン
credit コウテイペンギンの雛

ヒクイドリ
credit ヒクイドリ

コマダラキーウィ
credit コマダラキーウィ

コマダラキーウィ
credit コマダラキーウィ(白羽異常)

ニホンアシカ
credit ニホンアシカ

タカアシガニ
credit タカアシガニ

人々の地球や生物に関する知識が画期的に進歩した時代、その背景には科学者たちの命がけの航海や探検があったことは言うまでもありません。

チャレンジャー号の航海(深海探索)やテラ・ノバ遠征(南極探検)は有名ですが、多くのリスクが伴っており、探検中に命を落とした隊員たちもいました。人はどうして死のリスクを背負いながらも、まだ見ぬ地球の神秘や生物を追い求めてしまうのでしょうか?

4章「私たちの周りの多様な世界」

ゾウムシ
credit ゾウムシ(Baris cuprirostris)のイラストレーション マーク・ラッセルによる

こちらのイラストは国立科学博物館がリクエストしたとのこと。それにしてもかなり緻密です。先ほども紹介したゾウムシですが、私はこの展示を通してすっかりゾウムシファンになってしまいました。

ここで説明したかったのは、自然を観察するのは科学者だけではなく芸術家も同様で、自然史の標本に科学的真理を見つけるのも、芸術的なインスピレーションを受け取るのも人間だということです。両者は現在にいたるまで分かちがたく結びついており、このラッセルの絵はリンネの時代から続く伝統に則ったものなのです。-「大英自然史博物館展」展示解説より-

なかなか深いですね。私はこの解説を読んでなんだかじーんときてしまいました。さすがは私の愛する国立科学博物館。

絶滅した動物たち

サーベルタイガー
credit サーベルタイガー

オオナマケモノ
credit オオナマケモノ

ドードー
credit ドードーの模型

※この3種に関しては全て最新のコンピューター技術で復元された映像あり。

ナマケモノは私の中ではかなりお気に入りの動物ですが、かつてこんなに大きなナマケモノが存在していたとは知りませんでした。多くの動植物を絶滅に追いやった人間という存在。そんな私たち人間は第6回目の大絶滅を経験中とされています。既に絶滅してしまった動物もいれば、ギリギリのところで人間が手を施し、野生復帰した動物たちもいます。

地球環境を汚染し、生態系を破壊し続けてきた人間ですが、地球の未来を救うことができるのもまた私たちしかいません。どうやったら生物の多様性を守ることができるのか? 過去にこの世から姿を消した生物たちが、そのヒントを得る手掛かりをくれるかもしれません。

5章「これからの自然史博物館」

ピルトダウン人
credit ピルトダウン人の頭骨片と下顎骨

「ピルトダウン人」を捏造した興味深い標本を見つけました。一体どういうこと?と思ったそこのあなた。「ピルトダウン人」は人類の祖先なのか祖先じゃないのか、答えは「大英自然史博物館展」で確かめてみてください。
イッカク
credit イッカクの頭骨

「大英自然史博物館」では1913年以来、イギリス国内で座礁したクジラとイルカの全記録を残し、座礁の原因解明等に取り組んでいるようです。

「大英自然史博物館」への旅を終えて

生命の神秘や知られざる歴史を探る「大英自然史博物館」への旅はいかがでしたか?「大英自然史博物館」のコレクションが人類にとってどれだけ貴重な財産かお分かりしていただけましたでしょうか?

今を生きる私たちはちっぽけな存在で、過去に起きた地球や生物の壮大なストーリーを知ったところで過去に思いを馳せることしかできません。それでも時には命をかけてでも、地球の神秘を解明しようと大海原に出た人々がいることを忘れてはいけません。そして彼らの想いや血の滲むような努力を無駄にしてはいけません。

今私たちにできることは地球や生命の歴史を知ることと、後世に伝えていくことです。この展示を目を輝かせて見ていた子供たちが沢山いたことに、地球の未来への希望を感じました。みなさんも未来への扉を開く鍵を見つけに、「大英自然史博物館展」に足を運んでみてはいかがでしょうか。

「国立科学博物館」
アドレス 〒110-8718 東京都台東区上野公園7−20
アクセス •JR「上野」駅(公園口)から徒歩5分
•東京メトロ銀座線・日比谷線「上野」駅(7番出口)から徒歩10分
•京成線「京成上野」駅(正面口)から徒歩10分
•館内に駐車場および駐輪場はございません
「大英自然史博物館展」公式HPはこちら

この世の全ての生命に愛を捧ぐ

文中で"人はどうして死のリスクを背負いながらも、まだ見ぬ地球の神秘や生物を追い求めてしまうのでしょうか? "と書きましたが、実は私もそういうタイプの人間なので、当時の科学者たちの気持ちが良く分かります。

地球の神秘や自然がどうしてここまで私の心を魅了してしまうのか、ずっと考えていました。それは宇宙飛行士の感覚なんかと近いのかなと思います。私はそんな大した人間じゃありませんが、いい意味で少女の心を持った大人でい続けたいと思います。

この星に住む全ての生物や美しい自然に敬意を払い、できる限りその魅力を後世に伝えていければいいなというのが、私の切なる願いです。それにはまだまだ勉強が必要ですが........。

この記事を書いた人

Makiko Suga

Makiko Suga海洋生物の素人スペシャリスト/動物&自然オタク/世界中の秘境地&穴場スポットマニア

幼少期に有名なイルカの研究家と運命的な出会いを果たす。以来海洋哺乳類に魅せられ、海洋生物学者への道を志すが挫折。その後は海洋生物とは無縁の生活を送っていたが、2015年に海洋生物の宝庫であるカナダに留学。あるクジラとの出会いが自分の人生を変える。子供の頃の夢を追い続けながら世界に目を向けている永遠の旅人。得意分野は自然、動物関連だけにとどまらず、多岐にわたる。

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