サッカー・酒井宏樹選手がフランスで愛される理由とは?インタビューの裏側をお伝えします
フランス

今回、念願かなってフランス伝統サッカーチームのひとつ、OM(オランピック・ド・マルセイユ)で活躍する酒井宏樹選手へのインタビューが実現しました。その様子をお伝えします。

日仏のサッカーの違い


スペインリーグのバルセロナにいたネイマール選手が、フランスリーグのパリPSGに移籍するのに290億円というニュースを見ていたら、14歳の息子が、「ちなみに、僕いくらか知ってる?」「え?」

そう、フランスでは、どんなスポーツも公式戦に参加していく資格を得るためには、7歳からは、どこかのクラブか団体を通じてリソンスとよばれる選手登録をしなければいけなくて、U15のアマチュアとはいえ、FFF(フランスサッカー協会)に選手登録をしています。

だから、そんな彼らにも価格表が存在しているそうですが、今まで知りませんでした。

日仏のサッカーは全く別のスポーツみたいな存在で、スタイルもスタジアムの雰囲気もファンの反応も違います。欧州、南米もそれぞれ違うのは、2016年にヒットした映画『ペレ伝説の誕生』でもよく描かれていたので、ご存知の方も少なくないかも。

世界のどこで暮らしていても……

この夏、例年通り日本でひと月過ごして、いつも通り、息子は公立の中学3年生に編入させてもらい(小学校以来9年になるので)、以前からの友達・新しい友達、そして私も新旧ママ友と接してきて、(どちらがいい悪いではなく)、日仏の子ども・親子・先生と、社会と、の感覚の違いを、いつものように、感じて来ました。

ジャンルにかかわらず、よく、フランス礼賛だったり、日本礼賛だったり……比べて、評価されて紹介されることが多々ありますが、『違い』を知って『いいとこ取り』出来るのに越したことありませんよね。

だから、今回は、酒井選手へのインタビューでの肌感覚がお伝えできたらと思ってます。

「口に出していれば、きっと叶う」と言うけど、おまじないじゃない。

縁あって、フランス伝統サッカーチームのひとつ、OMオランピック・ド・マルセイユの広報責任者に紹介していただき、とんとんと話が進み、酒井宏樹選手に取材できる運びになって、すでに、サッカーキングでは、5月23日にインタビュー記事を掲載していただいたんですが、トリップスではそのバックステージ部分をお伝えしたいと思います。

取材の提案をしたのは5月2週目。その翌週には目の前で酒井宏樹選手の声が聞けていたんです。ビックリ!でしょう?

スポーツジャーナリストでもない私が、どうして酒井宏樹選手の記事にしたいのか? そして、どうして、自分自身でなく、14才の少年にインタビュアーをさせるのか?などなど、ちょっと疑問に感じられるはずだし、そう簡単に決まるとは思っていませんでした。

ところが、主旨に賛同してもらえて快諾の返事が来たのは2日後の朝。日本の媒体名や具体的な企画書をと言われて……

急ぎ、息子の日本に一時帰国のたびに参加させてもらっているクラブのコーチにSMSで相談して、すぐに繋いでいただけたのがサッカーキングで、数時間後には掲載予定OKをいただき、(フランス時間の)夕方には、書面に出来る運びになったんです。

場所は、OMのプレスセンターで。練習グランドもクラブハウスも含む広大な敷地内。市の中心地からは少し離れた丘陵地帯にあります。

向かって右側が警備室。左側の塀沿いには、練習を終えて出てくる選手達の車が通るのを待つファン達。

コミュニケーションはとても大切。

ところで、きっかけは、仕事仕事のつながりでというわけではなくて、それ以前に、アペリティフ(午後や夜、着席の食事ではないけれど、フィンガーフードなどや軽食を共にする)や食事の機会などに友人たちとサッカーの話になると、いつも(よくOMの話になると、酒井宏樹選手⇒日本人⇒付き合いある?、となっていたんですけど)、

「一度、是非、インタビューしたいわ。こんなに愛され活躍評価されているのに、日本にはそれほど届いていないのよ」と言っていたところ、ある日、友人から、「今日、OMの人と会ったときに君の話をしておいたから、ここに連絡して」と。

!!!!!!!

雑談で話題にしていたのは半年以上もの間のことで、日本から通さないといけないとばかり思っていたので、次の一時帰国での課題にしようかと思っていたぐらい。

でも、考えてみたら、私の経歴はフランス語で検索できるので、こちらでの方が話が早いんですね。それから、インタビューまで、10日もかかりませんでした。

コミュニケーション、意思をできる限り伝え受け取ることはとても大切なこと。フランスでは、良くも悪くも思ったことをすぐに口にする傾向があるんですが、酒井宏樹選手も、ふだんのチームメイトとの会話は英語も使うけれど、ピッチではフランス語に徹しているそうです。

14歳という年齢への感じ方・捉え方、日仏の違い

翌日には、その2日後の練習後にインタビュー可能だと言う返事を貰い、なんと45分!という時間をいただけました。

14歳の少年というのは、日仏ハーフの息子のことですが、私は、彼が自分の子どもだからという視点ではなくて、アルゼンチン生まれの日仏バイリンガルのサッカー少年というのは、年齢や職業立場ではなく、言葉や習慣の違いを肌感覚で知っているからこその、いい面も辛い面も捉えている部分があると思いました。

日仏の習慣の違い、サッカーの違い、言葉や表現の違い。それを、日々どう向き合って、どう感じているのか。大変だとか努力が必要とか、そうした言葉ではなく、軽やかに自然体で日本に伝えられたら……

それには、専門家ではなく、モチロン、私のような部外漢でもなく、魂が共感するといったら大げさですけど、3つの大陸の空気を吸っている、ボールを愛する次世代の声が1番近いと思いました。そして、OM側は、それを理解してくれたのが、心から嬉しかったです。

専門外と言われてしまえばそれまでですが、『伝える』というのが私の生業です。私の薄っぺらい知識やコメントは一切いれず、聞かせて貰った通り届けること、をコンセプトに提案したんです。

でも、それをどこまで日本のメディアが信頼してくれるのか? ……14歳は、日本では、服や塾までお母さんが決めてきてしまう家庭も少なくない、子どもの印象の方が強いですから。

それで、息子を7歳の時から知ってくれている日本のコーチに紹介していただけないかとSOSお願いしたわけです。日本へは年に1(ごく稀に2)度とはいえ、両方の空気に触れながら成長している少年の様子、日本の子どもより大人びていると言われることなのについて知っていただけているのと、コーチ自身プロ経験も海外経験もある方でしたから。

ところで、フランスでは、11歳までは子どもなのでひとりにしてはいけないと法律で決められているほどで、家で留守番をさせるのにも誰かひとを頼まないといけないんですが、逆に、その年を越えたら、ベビーシッターも十分信頼されてできてしまうわけです。つまり、14歳という年齢の捉え方、感じ方も違っています。

この夏、高校受験に直面する年になって、より感じた日仏の子どもの意識の違い、親子の距離感や視点の違いで、より感じたのはこの部分。日本では、2分の1成人式というのがポピュラーになりつつあるようですが、半分を超えても、そう大人扱いでもないままですし、11歳も15歳も特に大きな分岐点もないですよね。

反抗期はモチロンあるんですが、親が頭ごなしに押さえつけることも、子どもが親の話を聞かないというパターンではなく、きちんと話し合う家庭は少なくないのは、18歳が成人年齢の欧州だからかもしれないと思ったりもしました。ちなみに、南米では、15歳で盛大なお祝いをする国が多いです。

インタビュー

ブラジル留学経験のある酒井宏樹選手。ドイツで、そして、ここマルセイユに移って欧州は5年。そして、遡ること、日本での柏レイソルでのユース時代、厳しさに立ち向かう経験は、すでに11歳には始まっていたわけで、インタビューを始めるにあたっても、「U-15、14歳といえば一人前ですね」と、大人扱いで真摯に、同時に、先輩が後輩に語るように、ひとつひとつ丁寧に答えてくれました。

質問は、事前にチェックはしましたが、全て14歳が自分で用意したもの。私なら思いつかないような視点もあったし、実際にインタビューが始まると、枝葉は広がっていきました。独特の空気、今も強く印象に残っています。

11歳ですでに、『楽しい場面もあるけど、プラスして苦しさも。苦しさ、悔しさっていうのが入ってきて。もう、楽してサッカーできるっていう年齢ではなくなったって思いました。もう周りは、もう、うまいひとたちだらけで。こんな上手い人たちがいるんだなって、毎日毎日思ってた』と言います。

『何度もやめたいと思ったこともあるけど、続けてきてよかった』と。『後悔はひとつもない』ととても清々しい表情でした。

(……でも、私は傍らで聞いていただけなんですけど。私が介在しなかったことで、より深い言葉を聞けたと思っています)

キーワードは、『メンタル』

14歳が用意していた質問の大きなひとつも、メンタルへの向き合い方・鍛え方。

実は、欧州では、日本選手はその部分がそう強くないという印象が持たれているんですが、酒井宏樹選手はそうではなく強い、と評判なんです。

サッカーを愛してやまない(としか素人目には思えない)プロの選手が、実はとても細やかに努力を重ねてきていること、そして、それが、フランスでどんなに愛され評価されているかということ。

そうなんです。それが、私が、理屈ではなく……日本に発信したかったこと。

サッカーに限らず、世界のどこで暮らすことになっても、日本で、生まれた場所でずっと生きていくとしても、毎日、様々な出来事があるし、環境もいつまでも同じなわけではないですよね。

日々、思うこと感じること、人それぞれとは思うけれど、失敗しても、思ったように行かなくても、そこで、立ち止まって悩んでしまうことなく、落ち込みすぎることなく、「今度はこうするのはやめよう」とか、「こんどは、ちょっとこうしてみよう」と思いながら進んでいけたら。知らない土地、知らないことを、ムリに自分を合わせ過ぎたり、逆に、自分を押し通し過ぎたりせず、しなやかに。

インタビューをした14歳は、プロを目指しているわけではなく(10歳前後からは、それは夢だとわかり、ただ好きで続けている子が多いマルセイユです)、そして、翌日には、「何話した?」と自分の事のように喜んで訊いて来た彼の友人たちも、サッカーはしない子までもが、酒井宏樹選手が何をどう感じてマルセイユでプレーしているのか、そして、いつまでいてくれるのか、と興味津々なようで、彼らにとっては、日本人か何人かというカテゴリではなく、地元OMの大好きな選手でしかないんです。

ところで、パリPSGのネイマール選手は左のフォワード。マルセイユOMの酒井宏樹選手は右サイドバック。そう、直接対決のシーンにはこと欠きそうにありませんよね。天敵と呼ばれるパリとマルセイユ。フランス1部リーグ、今年は、ますます面白くなりそうです。

居場所や自分探しなんていらない。

フランスで暮らしていて、よく訊かれたりもする人種差別とか移民問題とか、そうしたものは、確かに世間で語られている通り存在する一方で、そう意識しないで過ごせています。

世界のどこで暮らしていても、100パーセント変わらず生きていくことってないと思うし、(たぶん、日本に居たとしても生まれ育ったところとは違う場所で暮らすことになるのと同じように)自分の居場所って持てるものだと思いませんか?

居場所、居心地のいい場所は、見つけるのではなく、自分で"こしらえる"ものだと思ってます。たとえば、大きすぎるクッションならぽんぽんって叩いてへこませて座りやすくするみたいに。

自分探し? 今日の自分は明日にはいません。良くも悪くも。

人生は、一瞬一瞬が一期一会。 どうぞ、いい1日を!
居場所や自分探しなんていらない。

この記事を書いた人

ボッティ喜美子

ボッティ喜美子仏日通訳翻訳・ジャーナリスト

フランス在住。東京で長らく広告・PR業に携わり、1998年に渡仏。パリとニースで暮らした後、2000年からパリジャンの夫の転勤で南米ブエノスアイレスへ3年、出産も現地で。パリに戻り、地中海の街マルセイユへ転勤して13年。南仏拠点で時々パリの実家へ、家庭優先で仕事しています。Framatech社主催の仏ビジネスマン対象のセミナー『日本人と仕事をするには?』講師は10年目(年2回)。英語・スペイン語も少々。

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