ブルックリンの人気の場所の1つにパークスロープという場所がある。プロスペクトパークのそばだ。7Stという駅を降りてすぐ、そのバーは存在していた。レトロな店内は歴史を感じさせる。そんなバーで過ごしたひとときをお伝えする。
パークスロープのバー「Old Carriage Inn」へ
私が行ったのは昼3時。平日のこんな時間から酒を飲んでるなんて……とことんダメな匂いがする。さて置き、そのバーに入る。何だかんだ言っても結局入るのである。
3時だ。中にはおじいちゃんが4名ほど。皆知り合いのようだ。くぐもった声で「ヘイ、ボブ調子はどうだい?」「ヘイ、ダニーまあまあだな」等と会話を交わしている。
何っ? おじいちゃん?
確かに時間は3時だ。一般社会人の皆様は仕事をしている時間だ。こんな時間から酒をバーで飲むやつなんてそうそういない。当たり前と言えば当たり前だが……。にしても……多い。
ポツン、ポツンと1人入り、1人去り。テレビをゆっくり見ながら、ビールを飲んでいるそんな悠久の時間をこのバーは感じさせてくれる。
ぶっきらぼうな、おばあちゃんバーテンダー
薄暗いそのバーの中には、リンダというバーテンダーが居た。もう凄いおばあちゃんなのだ。だが、ブロンドのマリリンヘアーに真っ赤な唇。Vネックのセーターにジーンズ。
セクシー? それは見る人の好みによるだろう。いや、おばあちゃんとしてはセクシー……
店にはアイリッシュパブの印(アイリッシュバーは大抵クローバーのサインがある)もあることだ。うまいビールを期待しよう。
私がカウンターに腰かけると、カツカツカツとリンダが歩いてきて言う。
「年齢見せな」
随分ぶっきらぼうだな。「ハーイハウワーユー」と、にっこりと笑ってくれるおねえさんバーテンダーとはえらい違いだ。リンダ婆は私のパスポートをちら見し鼻でふんっと笑い、
「何飲むんだい?」
と聞いてきた。そうだな。雰囲気に合わせ、苦みが効いているIPA(インディアンペールエール)にしよう。
「IPAお願いします。」
彼女が私にビールを出す。NYの他のバーであれば、こういった暇な時間は大抵「エンジョイ」などと笑いかけてくれる事が多いのだが、リンダは何も言わずにさっさと常連のおじいちゃん群の居るところへ戻り、テレビを見ながら談笑を始めた。
ごくり。いや、IPAは裏切らない。苦みが効いていて、ドライテイストが好きな人には本当におすすめだ。
常連客のおじいちゃんと雑談
ビールの旨みに浸っていると、カツンカツンと言う音がする。
何を? と思い横を見ると、杖をついたおじいちゃんが横に来たのである。
「ハイ! リンダはいつもあれだから気にしないでいいんだよ。ワシは、ジョージだ。よろしくな。」
挨拶を交わす。すると話が始まった。
「この店にかかっているあの野球のTシャツが見えるだろう。あれはワシの甥っ子のものなんだよ。甥っ子はプロの選手だったんだが、このストリートで死んでしまったんだよ。」
「え? それは大変でしたね。なんでですか? いつの事ですか?」
「さて……40-50年前かのう?、まだブルックリンの治安が悪かった時、この通りで喧嘩をしてな。ワシも一緒に喧嘩をしてな。ほら、これがこの傷だ。でも、この通り、杖もついているし、病気で左手がマヒしちゃったから、人を殴ることはできないんだけど、ワシも強かったんだよ。」
なるほど。店だけでなく彼が体験したリアルの歴史である。というか、道で殺されるってどれだけ治安が悪いんだ。
「それで、おねえさんは何かい? なんでこんなところに来たのかい? さてはライターだろう? ワシも書いてるからな、雰囲気で何となくわかるんだよな。」
年の功である。
話が進むにつれ、ビールが空になる。するとジョージは「リンダ!」と彼女を呼びつけ、なんと同じビールを一杯おごってくれた。
粋なおじいちゃんである。さて、このバーだけではないのだが、バーでおじいちゃんに会うと大抵、ビールにウィスキーのショットを飲んでいる。ビールはチェイサーであろうか?
また来る日まで
私が帰る頃にはほろ酔いのジョージのほかに6人程のおじいちゃんが座っていた。彼らに別れを告げて店を出る。
312 7th Ave Brooklyn, NY 11215
12:00 pm – 3:00 am