巨大な国際都市、ロンドン。世界経済を牛耳る金融街、シティはわずか1平方マイルの地区で人口は1万人ちょっとだが、英国のGNPの2.5%をたたき出している。
一方で、この地区には全く対極にある光景が。イーストエンドのホワイトチャペルで、ロンドンの東に広がる巨大なスラム街がシティに接している地点だ。夜、歩いてみた。
このところ何かと世の中を騒がせているイギリス
政治、暴力、そして大火。英国民も諸外国も、「イギリスは一体どうなってしまうのか?」と気を揉んでいる。
現在と同じかそれ以上にロンドンを恐怖に陥れた事件が過去にあった。1888年、犯行予告を送り次々に娼婦を殺害した「切り裂きジャック」だ。
犯人は謎のままで精肉業者、精神患者、医師、王室まで疑惑が及んだが未だに犯人は分かっていない。劇場型犯罪の元祖とされ「シャーロック・ホームズ」等の作品で知られるミステリー作家コナン・ドイルにも影響を与えた。
金融街シティのもう1つの顔
この巨大な国際都市ロンドンの街の原型となった地区がある。シティは世界経済を牛耳る金融街で、わずか1平方マイルの地区の人口は1万人ちょっとだが、ロンドン証券取引所やイングランド銀行があり、昼間は30万人以上にも膨れ上がる。
豪華な巨大建造物が軒を連ねるが、夜間の通りはもぬけの殻。超先進的ゴーストタウンに迷い込んだようなSFさながらの錯覚をおぼえる。
この地区を右往左往していると、思わず「うわーっ」と言ってしまう、全く対極にある光景が突然開ける。イーストエンドのホワイトチャペルで、ロンドンの東に広がる巨大なスラム街がシティに接している地点だ。
古くから皮なめし工場や食肉処理場などの悪臭を放つような産業が集積してきた。おそらく働き手の所得もシティとは桁が違うだろう。近年では移民も多く、過激思想の温床になっているともいわれる。
実際に昼間に行った際は、拡声器をもって怒鳴り声で勝手に演説している人も通りで見かけた。このアンダーグラウンドな世界が心地よいのか、最近は多くの若手アーティストも住み着いている。
ロンドンのシンボルの1つで、ピクルスのキュウリを意味する「ザ・ガーキン」の愛称で親しまれるモダン建築「30セント・メリー・アクス」はプリツカー賞の建築家、ノーマン・フォスターも参画し有名だが、シティ側とイーストエンド側では、観たときの街並みはまったくの別世界だ。
「切り裂きジャック」の舞台になった街で夜、シャッターを切る
そこはまるで寒流と暖流が摩擦を起こすような不思議なスポットで、まさにここが「切り裂きジャック」の舞台になった。
夜の街でシャッターを切り続けていると、似たような雰囲気の女性たちが暇そうに通りに立ち尽くしている。「こんな時間に、何してるんだろうこの人たち。」最初はそう思った。
しばらくしたら嬉しそうに男性が話しかけてきて、一緒に歩きながら通りの先に消えていった。「あー、そういうことか。」
場所を移していい絵を見つけたので再びシャッターを切っていると、1人の女性が眉毛の筋肉を使いながらじーっと見ている。こちらの興味を引こうとしているようだ。「勘弁してくれ、こっちは写真で忙しいんだ。」
娼婦連続バラバラ殺人のあった舞台でずいぶんと勇敢な人たちだ。背に腹は代えられないということなのだろうか。
そんなことが頭をよぎりながら、ひたすらカメラを覗いていると、しばらくして今度は、ものすごい剣幕で怒鳴られた。彼女たちの縄張りのど真ん中で滞留し続け、商売の邪魔になっているのが気に食わなかったようだ。
あまり過ぎるとこっちが切り裂かれてしまいそうだ。写真も十分撮れたし帰るとしよう。自分の歩く足音だけが薄暗い赤レンガの街に不気味に響いた。日の出までは、まだもう少し時間があった。
St. Mary Axe, City of London, United Kingdom