10月10日、バルセロナにあるスペインのカタルーニャ州議会で、カルラス・プッチダモン首相が行ったスピーチに人々はかたずをのんだ。独立宣言が行われるということになっていたからだ。
大混乱に陥るカタルーニャ
カルラス・プッチダモン首相は「カタルーニャは、共和政の国家としてスペインから独立しなければならない。」そう語ったが、当初の予定の様に、直ちに独立国家として振る舞うのではなく、宣言を保留し「その手続きに向け話し合いを行いたい。」と含みを持たせた。
スペイン中央政府は、憲法に定められた州の自治権停止と強制的な選挙による自治州政府解体と地元メディア掌握も視野に入れている。カタルーニャ州政府はお国取り潰しを回避すべく、寸止めで綱渡りの駆け引きを続けている。
中央政府が求める独立方針の撤回には応じておらず、その間にも、議会高官が次々に逮捕され、プッチダモン首相は、交渉用の相手として泳がせて逮捕していないだけだとも思える。時すでに遅しか。
独立派が議会で多数を占めた前回の選挙後、独立シナリオは見えていたことだが、スペイン中央政府が予想以上の弾圧を加えていることで同州は大混乱に陥っている。「明日の朝起きたら、ここはスペインなのか、カタルーニャ共和国なのか。」そう思いながら市民は暮らしている。
複数の主要銀行や大手企業が日を追うごとに、次々と州外の地域に本店を移す。まるで紛争地域から逃れていくかのようだ。銀行の支店には有事に備えて、現金を引き出す住民の長蛇の列が絶えない。
中央政府が違憲だとした独立の是非を問う投票を州議会が強行した際には、カタルーニャ州自治政府名義の銀行口座が凍結され、投票実施に加担したものを逮捕すると威圧したため、従来の市町村の投票施設が使えず学校や病院で実施される異常な事態となった。
まともに取り合わないスペイン中央政府
そこには、丸腰の女性や子供を含む市民に銃口を向けゴム弾を発砲するわ、飛び蹴りするわ、階段から突き落とすわなど、同じ国の国民への仕打ちとは到底思えないような警察の強硬な姿勢があった。
内政不干渉を決め込む国際社会も暴力には目をとがらせた。結果は市民900人以上が負傷という大惨事になったが、中央政府のマリアーノ・ラホイ首相は、警察の行動を称えた。
ここで興味深いのは、暴力を働いたのは中央政府の指示系統にある警察官で、カタルーニャ州警察は中央政府の指示に背き「現場に行くよう言われたから行った。」という言う分で、何ら住民投票を阻止する行動をとらなかったことだ。
そればかりではなく、州外部の警官隊をわんさか乗せた船のバルセロナ入港を拒否するなど際どい行動を行い、州警察責任者が一時身柄を拘束された。スペイン中央政府は、自治州取り潰し後に州警察も直属化しようとしている。
バルセロナ港を見下ろすムンジュイックの丘。中世から近代にかけて、その要塞に置かれた大砲で港の守りは固められていた。カタルーニャは新大陸を発見したコロンブスを支援するなど裕福な独立国だったが、スペインの武力に屈し併合された。
近年カタルーニャが大きく独立に向けて振れたのは、スペインの大不況や中央政府の自治州に対する粗雑な扱いが一因だとされる。そもそも言語も異なり、独自の民族意識が根強い。
しかしスペイン中央政府はカタルーニャの独立運動を子供のいたずらぐらいにしか思わず、まともな対応をせず力で抑圧するのみだ。英国がスコットランド議会に独立投票をすんなり認めたのとは対照的だ。
スペイン中央政府が強気な理由には、カタルーニャ州政府にはない、スペイン軍と言うカードを持っていることが1つにはある。
しかし、ヨーロッパは武力や威圧で物事を解決するのは、第2次世界大戦を最後にもう懲りたのではなかったのだろうか。話し合いで解決するのが欧州連合(EU)の理念ではないのだろうか。これでは、中世に逆戻りだ。
カタルーニャの街の様子
こちらはバルセロナ市議会。スペイン、カタルーニャ、バルセロナの旗がそれぞれ風になびいている。
その道の向かいには、州議会がある。まだスペインとカタルーニャの旗が立っている。
市議会と州議会の間にはTVクルーが陣取り、いつ何が起きても報道できるように待機している。
正面入り口沿いには、平時はない鉄柵。群衆が押し寄せた際にも、要人が出入りできるように設置した、言わば城壁。
バルセロナの港近くにある無敵艦隊の系譜を受け継ぐスペイン海軍の施設。こちらにも、以前はなかった鉄柵で、不満を募らせる市民を遠ざけ、有事に備えている。
州議会の隣の建物には、こんな旗が掲げられている。赤と黄色のストライプが正式なカタルーニャの旗。三角と星印の入ったものは、州独立運動のシンボルだ。まるで、新大陸系新興国家のようだ。独立した場合、どちらが正式な旗になるかも注目だ。
本当に独立できるのか?
ここで気になるのは、本当に独立できるかどうか、分からない点だ。州政府が独立したと言い張っても、スペイン中央政府が取り合わず、頼みの綱であるEUも傍観を決め込んでおり「独立した場合は、カタルーニャはEUの一部ではなくなる。」とまで言っている。
カタルーニャは孤軍奮闘しているが、別の言い方をすると孤立無援状態でもある。仮にカタルーニャ自治州が取り潰されたら、独立運動は地下にもぐり、半ばレジスタンスのような活動になっていくのではと、妄想も膨らむ。
カタルーニャ独立派がここまで貫いている、非暴力主義は評価できる。非暴力不服従のインドのガンジーのようだ。しかし毎日のように抗議デモに多数の市民が参加し何かの拍子で暴動になりかねない状況でもある。
仮にカタルーニャが独立を達成した際は、独自の言語と文化を持つバスク地方も独立に動くことを明言している。ピカソの作品「ゲルニカ」が後世に伝えるように、フランコ時代にカタルーニャと同じく中央政府の弾圧を受けた地域だ。
先のバルセロナテロ事件直後は、住民投票の直前でもあったため、中央政府ラホイ首相とスペイン国王フェリペ6世がバルセロナに赴き、「スペインとカタルーニャが対テロで一丸」というキャンペーンを実施したが、テロを政治利用したと感じた市民からは罵声が浴びせられた。
バルセロナに来なければ来ないで「中央政府は冷たい」と言われるだろうに。自分の代でこんなに金づるの領土を失ったら末代までコケにされるだろうし、つらい立場だ。
そのわずか数週間後に、スペイン政府側は事態収拾に向け「カタルーニャは死人を見たいようだ。」とレッドラインな脅しも使った。一丸とはまるで正反対なんですけど……。
美しく魅力的なカタルーニャ
何年も前に初めてカタルーニャにいった時、観光案内所で地図を手渡す係員から聞いた言葉に衝撃を受けたことが今も忘れられない。「カタルーニャは誇りある独立国家なんだ。」この紛争の結果がどうあれ、独立派の心の中の真実は変わらないだろう。
これだけ人々が血相を変えて争い奪い合う、カタルーニャというのは、何とも美しく魅力的な場所ということもまた、まぎれもなき事実だ。