北朝鮮との軍事境界線には、日帰りで行ける。ソウルから鉄原ツアーに参加してみた
韓国

日本から簡単にアクセスできる外国「韓国」。弾丸ツアーや格安ツアーも豊富な韓国は、気候風土が日本に似ているし時差もないということで、国内旅行感覚で来られます。

しかし、日本にはないアレが体験できるんです。それは、周りを海に囲まれている日本ではピンと来ない「国境」。今日はその国境を扱いたいと思います。

三方は海だけど北側は軍事境界線

国境と言っても、ただの国境ではありません。今となっては世界で唯一の分断国家。そう、緊張した国境を抱えている国家です。

そんな緊張状態にある韓国、および韓国の国境…のはずなのですが……。朝鮮戦争が休戦してから60年以上。現在では国境は観光資源となっているんです。首都・ソウルからだと「板門店」と「鉄原」の2か所なら日帰りで行って来られるお手軽さ。

ここ最近の北朝鮮の動向は少し気になりますが、せっかく韓国に来てみたのなら、日本では味わえない「国境ツアー」なんていかがでしょうか。

出発はソウル駅から

南北首脳会談などでおなじみの「板門店」は事前予約がいりますが、「板門店(パンムンジョム)」以外なら、ふらっと行くことができるんです。

でも、よほどの剛の者でもない限り、見知らぬ国でローカルな鉄道を乗り継いで、緊迫した国境……なんて無理ですよね。そこでお勧めしたいのが、「KORAIL(コレイル:韓国の国鉄)」がやっている「安保ツアー」。

韓国語では「안보관광(アンポクァングァン:安保観光)」というパッケージツアーです。ソウル駅など主要駅で購入できるほか、観光案内所などで日本語で予約をとる手伝いをしてもらえるかと思います。月・火を除く週5日催行しています。

今回は、3つある安保観光ツアーの中から、「鉄原安保観光」のツアーに参加してみました。出発はソウル駅で、9時27分出発。宿からソウル駅までのアクセスを考えたら、早すぎもせず遅すぎもせずのいい感じの時間設定です。

ソウル駅の広いコンコース。電光掲示板がそれぞれの列車の出発ホームを案内しています。下から2つ目。緑の文字でDMZと書いてあるのが見えるでしょうか。

DMZとは非武装地帯。つまり、国境のことです。国境行き特別列車4885号は14番ホームからの出発のようです。時間に間に合うようにホームに降ります。

韓国の列車、ここに出ているような長距離列車には改札がありません。事前にチケットや切符を購入してあれば、そのまま改札を通らずにホームに入ることができます。
ホームに着くと……。いました。DMZと書かれた特別列車が。3両編成なのでほかの長距離戦に比べるとだいぶ小さい気がします。

実はこの列車、このツアーのための特別列車なのです(プサンに行ったりする普通の高速鉄道はこの列車とは外見も内装も全然違いますよ)。今から、すでに旅行気分です。

内装はこんな感じ。正直度肝を抜かれました。

いや、この花柄&クローバーはやりすぎでしょう。いちおう「平和列車」という名前がついているからなのでしょう。しかし、観光列車とはいえ、ずいぶん ひどい いえ、華やかだこと。指定された席について待ちます。

いよいよ、9時27分。列車は国境に向けて出発します。

列車の中を探検


終点「白馬高地」駅まで約2時間。この列車の中でくつろぎます。列車は3両編成ですが、もちろんトイレや洗面台は完備。そして、真ん中の車両には小さいながらも売店があり、お菓子や飲み物を購入することができます。

売店の売り子さんはガイドも兼ねていて、道中車内放送で行先にまつわるあれこれを案内してくれていました。ただし、観光気分で朝からテンションのいい韓国の人々の声でほとんど聞こえませんでしたけどね。
この売店。はしのほうに絵葉書が置いてありました。自由に持って帰っていいそうです。そして隣にはスタンプが。記念はがきを送ることができるようです。

列車は途中までソウル市内を走る「京義中央線」の線路を使用し、途中からは「地下鉄1号線」を使います。この「京義中央線」。「京義線」と「中央線」が延伸の関係でつながってできた呼び名です。

「中央線」はもともとは「京元線」でした。日本統治時代、「京=京城(現:ソウル)」から「元=元山(現:北朝鮮元山市)」を結ぶためにひかれた線です。

そう。つまり、もともと北朝鮮まで行ける鉄道そのままに現在も市民の足になっているんです。さて、その地下鉄の線路を北上し、地下鉄の終点を超えると、ド田舎になります。そして……。

鉄馬は走りたいのに


つきました。白馬高地駅。

この看板を見てください。隣の駅として「新炭里」はありますけど、反対側がないでしょ? そう、この「白馬高地」駅は、韓国の最北端の駅なのです。

実はここ、北緯38度よりも北。38度より北にありながら南の大韓民国の領土ということになっているんですね。ここに来たならぜひ見ていただきたいものがあります。

これ。

これです。この白いの。大きい黒い文字でこうあります。

「鉄馬は走りたがっている」

鉄馬というのは鉄道のこと。先ほども書いたように、昔はこの左の線路、このままずっと北まで続いていたんです。が、南北分断したときに、線路は破壊され、当然ですが行き来ができなくなりました。

左に見える線路。ここから50メートルくらいのところで終わっているんです。いつか、この線路がもう一度つながって列車が行き来できるようになってほしい。そんな願いが込められた標語です。

鉄馬はここで終了ですが、ツアーはいよいよ本格的に始動します。

鉄馬の代わりに待っていてくれたのは赤いバス。鉄道会社の列車ツアーなのですが、ここから先はバスで行きます。通常のバスツアーと同じくガイドさんがつきます。

では、出発します。といったものの、時刻はそろそろお昼です……。

「鉄道の旅」改め「バスの旅」

最初に連れていかれたのはやたら堅そうな建物。

なんか怖いことさせられるのかな、と思ったら、ランチでした。ドアの右側に立っているのがガイドさん。おじさんです。

ソウル出身なのだけど徴兵されていた軍人時代にこの鉄原エリアに配属されていて、その縁で今はこちらでツアーガイドをしているのだとか。
飾りっ気のない役所の食堂みたいなところで、田舎式ビュッフェというランチをいただきました。

こんな感じです。ビュッフェスタイルなので量や内容は好みに合わせられます。あ、これ、かなり辛かったです。この辺もしかしたら、寒いせいで味付けが辛めなのかもしれません。
食堂の横にはこんな地下室がありました。覗いてみたらとても広い。

これ、シェルターなのだそうです。有事の際にここの住民たちがみんな避難できるようになんですって。

外が絵に描いたように平和な田園風景だっただけに、突然現れたシェルターの存在は、ここが国境の近くだということを痛感させるものとなりました。

途中から軍人さんがバスに乗り込み、ほとんどの行程は軍人さんが一緒に回る形になりました。

食事をしたあたりは普通の村なのですが、そこから10分もしないあたりにゲートがあり、定期観光バスのツアーには毎回必ず軍人さんが同乗するのだそうです。さりげなく乗り降りする人数とかチェックされていましたよ。

朝鮮戦争の激戦地「白馬高地」。駅名になっている白馬高地のオリジナルは、鐘の向こうにみえる小高い丘なのだそうです。

あのあたりの小高い丘の地形が変わるほどの大砲の打ち合いなったのだとか。……想像するだに恐ろしいです。

軍人さんが同行するようになったあたりから、写真撮影がかなり制限されるようになります。この写真も、このあたりが限界なのです。

なぜなら、鐘の向こう側。非武装地帯だからです。あの青々とした丘は60年前は死闘が繰り広げられたものの、その後60年間、人の手が入らない貴重な生物たちの宝庫になっているところです。

ちょうど米の収穫時期だったので、米どころ鉄原(チョロン)は金色の田んぼが美しかったです。で、その金色の大地に突然現れる、それも、そこかしこに現れる軍事施設。穏やかさの中から刃から光る、そんな道中です。

途中地元の人たちの青空市に出くわしました。韓国でもっとも北にある鉄原市は9月の初めでも完全に秋。取れたての野菜や果物を並べる姿は平和そのもの。

大地の恵みを象徴するかのようなトラクターと作物たち。そして、その向こうには、朝鮮戦争の時に激しい銃撃戦の末、廃墟となった旧共産党庁舎が。豊かな大地と悲しい人々の歴史。まさにこの町を象徴するかのようでした。

さて、バスはさらに進みます。管轄する軍の部隊は3つあるそうですが、白馬高地エリアを管轄していた部隊と別の、さらに国境に近い部隊が管理するエリアに入ります。もう、バスの車内からも写真撮れない場所だらけなんですよ。

急な坂を上った先にあるここ。このツアーの目玉でもあります。八角形の建物は360度の大パノラマで国境の非武装地帯が見られます。

が、残念ながら、室内では分厚いカーテンを閉めているとき以外撮影禁止。なので、この素晴らしい景色を見たい方は直接行くしかないんです。

おばあちゃんがのんびり歩いている風景。南の境界線がよーくよーく見ると写りこんでいます。

本当はこの角度も写真撮らないでねといわれていたので、アップにはできません。そのくらい、1つ1つの場所が緊張していたのです。「板門店」でもここまでの緊張感は感じなかったかなというくらい、写真を撮るのに神経を使う場所でした。

言葉がよくわからなくても、バスで連れて行ってくれるし、映像などでも説明を見れるし、何より、言葉ではないもので伝わってきます。

こちら、車内からのみになりますが、韓国最北端の「ウォルジョンリ」駅です。

「白馬高地」駅は営業している最北端ですが、戦争によって使いものにならなくなったため廃止されたものの、国境に一番近かった駅としてここも観光コースになっています。朽ちた列車が生々しかったです。

こんなバリケードを1つ越えるごとに、開放感が増してきます。そして再び「白馬高地」駅へ。

お土産物屋さんや免税店に無理やり連れていかれることもありません。何しろ途中にあるものは、軍事施設と田園風景ばかり。そして、写真に収められない大戦の傷跡か、圧倒的な自然の景色。

自力で行くにはあまりにもディープな場所ですが、列車ツアーで行けば安全管理をしてくれたうえ、個人ではなかなかいけないところまで連れて行ってくれます。多少言葉がわからなくても、百聞は一見に如かず!

お土産は強要されないけれど……

電車が出発するまでの時間、駅で少し待ちます。駅の周りは何もないので、駅舎かホームかその周辺で待つことになります。

お土産を買え買え言われないので気が楽ですが、買いたい人には駅舎にお土産物の売店がありますのでご利用ください。おすすめお土産はこちら。

1.鉄原米


日本人観光客が旅行のついでによるツアーのお土産には重すぎます。そうじゃなくても重すぎますが、米です。鉄原は米の産地として有名な場所。道中もずっと金色の田んぼが両側に広がっていましたからね。

2.鉄原マッコリ


米がおいしいということはです。米から作るマッコリもおいしいということです。地酒ならぬ地マッコリは韓国地方旅行の醍醐味です。

できるだけ新しいものをお選びください。生マッコリなので①横に倒さない、②開封するときに振らない、この2点は必ずお守りくださいね。

3.野戦食


「陸・海・空 野戦食糧」ゴリゴリの軍隊食です。密封チャックもついているので小分けにして食べられます。こんなの、日本の観光はもとより、ソウル観光でも見つけられませんよ。

帰りはテレビ画面を見ながらソウルまで


行きと同じ観光列車で帰ります。車内にはテレビモニターもついていて、列車からだとみにくい正面の景色を中継してくれます。

テレビ画面を通して単線ローカル旅気分を味わうもよし。

車内に貼られた写真を見ながら、今日のツアーコースを復習するもよし。

景色を見ながら休むもよし。

そして午後6時半過ぎ。ソウル駅に到着します。

たっぷり1日。人であふれるソウルを抜け出し、韓国のローカルツアーに参加してみるというのも新しい韓国の一面を知るという意味ではいいのではないかなと思います。

非武装地帯の美しすぎる自然、その周辺のあまりにも痛々しい戦争の記憶、風に揺れる田畑、そこで生きる素朴な人々。あっけらかんと楽しかったというにはあまりにもたくさんの学びをもらえる、そんな旅でした。

白馬高地駅
DMZトレイン公式HPはこちら

この記事を書いた人

エナ

エナライター / エナツアー主催

横浜出身のソウルっ子。2000年から2002年、ワーホリ滞在。その後横浜での10年間を経て2011年、再度渡韓。本業は日本語教師。ソウルの町歩きが大好きなネイリスト。ソウルの博物館、市場が主な生息地。普通の町を普通じゃなく感じさせるエナツアーなるものを企画していました。最近は日本家屋の残る町にはまり気味。

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