果物王国・山梨県。その魅力を「ぶどうや桃をはじめとした、原石がたくさん埋まっているところですね。」と農産物を宝石に例えて話す、「葡萄屋kofu」の渡邉さん。
彼女が務める葡萄屋kofu(株式会社プロヴィンチア/山梨県甲府市拠点)は、「山梨を知る、食べる、飲む、持ち帰る」を掲げ、山梨県産のぶどうのみを使用して地域との共生を目指す会社です。
カフェ事業やスイーツの販売を行いながら、地域の価値を見出し続けている渡邉さん。お話を伺うと、山梨の魅力と、向き合うべき課題も見えてきました。
県内で自給自足生活ができるほど。魅力あふれる山梨県
ーまずは、渡邉さんが考える山梨県の魅力を伺えますか?
ぶどうや桃をはじめ、多くの宝石の原石が埋まっているところですね。

果物をはじめ、いろいろなものが美味しかったり、空気が良かったり。行こうと思えば東京も近くで住みやすいとか、いろいろありますね。
「自給自足ができる県」なんて言われているんですよ。高原野菜や果物、畜産物があって、お米も水もおいしい。川があるので魚も食べられる。海がないので、海への憧れはありますけどね。その憧れからか、山梨県民みんな、マグロが大好きなんです(笑)。
ーたしかに、見事にすべてそろっていますね。
山梨って、県の真ん中あたりにある御坂峠を挟んで、西と東でエリアが分かれていて。西は富士山がある郡内エリア、東は甲府市がある国中エリアと呼ばれています。
郡内エリアは富士山や湖がある観光地で、標高が高いので果樹が育たないんです。その代わり、お米や野菜や畜農、そういったものが盛んです。
一方、ここ甲府がある国中エリアは、“果物王国”と呼ばれています。桃、ぶどう、スモモなど、生産量が日本一のフルーツがたくさんあるんですよ。
郡内エリアの人は、ぶどうや桃の生産が、山梨県が日本一だとあまり実感がない人が多いです。例えば、ぶどうの花がいつごろ咲くのか分からない、なんて人も多いですね。
ー県内の方でも、住むエリアによって感覚が大きく異なるのは驚きです。
そうなんです。だから、私たちは山梨の魅力を県外の人だけではなく、県内の人にも正しく伝えたいんです。
「山梨ってすごいんだよ」ということを知ってほしいし、それぞれが山梨の好きなところを探せるような環境があればいいなと思っていて。そこで、私たちは「食」を通して、そんな環境づくりを目指しています。

本気の六次産業で、豊かで価値ある地域を作り出す
ー食を通じて山梨の魅力を伝える場作り、素敵ですね! 数年前に社名を変えられたと伺いましたが、その時点で何か会社の方針変更などがあったのでしょうか?
弊社は今、「株式会社プロヴィンチア」という名前なのですが、昔は「株式会社FT山梨」という名前でした(FT=「ファームツーリズム※詳細後述」に由来)。代表が家族と始めた、小さな会社です。
山梨に他県からお客様がいらっしゃるのって、やっぱりぶどうや果物の旬の時期なんですが、それ以外の時期に、何か山梨に対してできることはないかなと思っていました。
例えば、ぶどうの旬ではない時期に、良質なぶどうの加工品があれば、年間を通してその魅力が生きてきますよね。さらに、その商品がお客様にヒットして、「加工してこんなにおいしいなら、生のぶどうはもっとおいしいはず!」と、旬の時期にまたお客様が山梨に戻ってきてくれる。この良循環が、当時の考え方で、「ファームツーリズム」と呼んでいました。

筆者も以前、観光客として購入した葡萄屋kofuのジュースがおいしくて、何度も山梨を訪れるようになりました
その後、県内で同じ志を持つ農家の方々や流通組合と協力し、本気で六次産業に取り組もうと、現在の会社、株式会社プロヴィンチアを作り上げてきました。
| ※六次産業 加工の二次産業と、流通・販売の三次産業を掛け合わせたもの。生産物の付加価値を高める取り組みを指す。 |
そんな弊社の経営理念は、「豊かで価値ある地域を作る」です。
イタリア語で「地域」を指す「プロヴィンチャ」。さらに、甲府のJリーグチームが掲げていた「プロヴィンチア魂」という言葉をかけて、この社名を選びました。
ー素敵な経営理念ですね。では、実際にどのようにして、地域の価値を高める活動をされているのでしょうか?
私たちが農家とパティシエをつないで、山梨の農産物に新たな価値を見出しています。
山梨には、「宝石の原石みたい」とお伝えしたほどいろいろな名産物がありますが、それらをちゃんと磨いたり、掘り起こしてあげるのが私たちの仕事だと思っていて。そういったことを、弊社のメイン事業である加工や販売事業を通じて行っています。
例えば、農家は「うちの桃は生で食べるのが一番うまいんだよ!」と仰るんです。それは間違いないと思いますが、国内で他にどういった果物があって、それと比べた時に自分の桃はどうなのかとか、相対的な価値って分からないんですよ。
そこで、弊社が農家と、パティシエを繋ぐんです。有名なパティシエが、山梨の農家の桃を使って作ったスイーツが、東京で大人気になったとします。
そうすると、その桃を作る農家はすごく誇りに思いますし、「東京で人気のケーキに使われるうちの桃って、やっぱりおいしいんだ!」と、相対的な価値も分かるようになりますよね。畑のご近所さんも「地元の桃が有名パティシエのスイーツに使われていて、都会で大ブームらしい」と聞いたら嬉しいし、自分の住んでいる地域に誇りを持つきっかけになると思うんです。
パティシエも良質な桃が欲しいので、win-winな関係が築けます。そして毎年お付き合いが継続していくわけです。そういう風に継続して、両者にとって新たな価値を見出すお手伝いをしています。
幸せなお菓子作りで、作り手減少の課題解決を目指す
ー農家とパティシエをつなぐことで、山梨の農産物に相対的な価値を見出しているのですね。そういえば最近、山梨県の耕作放棄地の課題を耳にします。この課題について、御社で何かお取り組みはありますか?
仰る通り、耕作放棄地の増加は近年の山梨県の課題だと思っています。山梨のぶどうの生産量はたしかに日本一ですが、これでも昔よりだいぶ減ってしまったんです。廃棄が多くて作り手が減ってしまったり、後を継ぐ人がいなかったり。そうして耕作放棄地が増えてしまっています。
そこで、私たちは、廃棄を減らすことに着目しました。生産されるぶどうのうち、市場に並ぶことができるのは、ほんのわずかなのでもったいなくて。自分の家で食べたりもしますが、消費しきれないものが多いんです。
ーなるほど…。廃棄が多いせいで、農家の方がぶどう作りをやめてしまうのはもったいないですね。そしてぶどう作りをやめてしまうことで、そこが耕作放棄地となってしまう…。
そうなんです。でも、そんな廃棄になってしまうぶどうも、見た目が少し劣ったりするだけで、味は十分おいしいんです。
だから、県産のぶどうを加工してレーズンをたくさん作り、現在流通している多くの海外産レーズンを県内産にすることができれば、県産のぶどうの廃棄が減って、農家もぶどうを作り続けられる。良い循環が生まれるんです。
弊社は、おいしいレーズンの証である「レアドライ」という商標を取得していますが、レーズン作りの市場を独占してはいけないなと思っています。
私たちの会社だけで伸びていくのではなく、市場全体で発展していくために、積極的に技術提供をしています。多くの人においしいレーズンの生産ノウハウを伝えて、みんなで課題解決する努力をしていかないと、廃棄の削減には及びませんからね。

優れた甲府ブランド「甲府之証」として、市から認定されています。(甲府市ホームページより引用)
ー市場全体を盛り上げて、山梨への貢献を目指す姿勢に感動しました。実際に、レーズンやレーズンサンドの製造過程を公式サイトで拝見したのですが、かなり手間をかけていらっしゃいますよね。
そうですね。手間はものすごくかかっていると思います。レーズンサンド作りの過程で機械でやっているのは、粉を混ぜたり、生地をオーブンで焼くくらいで他は全て人力で行っています。

生地を伸ばすのもカットするのも手作業、レーズンサンドに挟むクリームも、手で混ぜて、手で絞っています。クリームの量は目分量だと不公平なので、さすがにグラム数を量りますけどね(笑)。
ー何かと効率が問われるこの時代、正直「そこは機械の方がよいのでは…?」と思ってしまうことは、ないのですか?
手作業の方が、想いが乗せられると思っていて。製造過程に機械が入るほど、厨房も店舗も、会話が減ると思うんです。うちの職場は、朝から晩まで笑いが絶えず、かなり雰囲気の良い職場だと思います。そうやって和気あいあいとした楽しい雰囲気の中で、幸せな人が作ったお菓子って、食べる人を幸せにするんですよ。
私も仕事上、いろいろなパティシエのお菓子をいただくんですが、幸せな厨房で作られたお菓子を食べると、すごく幸せな気持ちになります。やっぱりこれが大事だな、と常々思うわけです。
葡萄屋kofuが目指す、山梨のこれから
ーあえて手間をかけるのには、想いをのせるためだったのですね。そんな葡萄屋kofuさんが目指す、今後の目標はありますか?
はい。弊社には夢があるんですが、将来的には、県内の小中学校の給食のレーズンパンの中身を、全部山梨県産のぶどうにしたいんです。
もしも、山梨生まれの子たちが大人になって、別の地域でレーズンパンを食べたら、その中身はおそらく海外産のレーズンだと思うんです。
だから、「昔、地元の給食で食べたレーズンパンの方がずっとおいしかったな」と感じてくれたら、山梨のすごさに気づくきっかけになると思っていて。子供の頃に食べた給食の味って妙に心に残るじゃないですか。
そうやって、山梨出身の人たちが地域の魅力に気づいていくことで、山梨をもっと、価値ある地域にしていきたいと思っています。
ー渡邉さん個人としても、今後目指す姿があれば教えてください。
私はストアマネージャーで、実際に店舗に立って接客もしています。
なので、訪れるお客様に一番近い立場として、できるだけ分かりやすく、商品や山梨の魅力をお伝えすることを意識しています。
あとは、こうやって表現者として、語り続けていくことでしょうか。表現者っていうと、なんかかっこよすぎますかね(笑)。
ずっと山梨に住んでいますが、いまだに新しい発見が毎年あります。「こんな魅力があるんだ!」って。新たな発見にアンテナを張りながら、今日みたいにこうやってお話をする機会で、たくさんの人に伝えていきたいです。
編集後記
「豊かで価値ある地域を作る」という素敵な理念を掲げる、葡萄屋kofu。製造の過程は手作業が多く手間がかかっていますが、経営理念に忠実に、価値の創造を目指す姿が印象的でした。
株式会社プロヴィンチアが素敵な会社であるとともに、それだけの情熱を注ぐ対象となる山梨県のゆたかな恵みを感じるインタビューとなりました。
みなさんも、次の旅行はぜひ山梨へ、宝石の原石探しの旅に出てみてはいかがでしょうか?
山梨県甲府市丸の内1-1-25 甲州夢小路




