お猿さんだけの動物園「日本モンキーセンター」で心がときめいてしまいました。
日本

サルが嫌い。動物は好きだけれど、サルはどうしても好きになれない。そういった人は結構います。動物が好きと自負する人でも、爬虫類とサルは好き嫌いが分かれます。著者も幼いころは好きにはなれませんでしたが、だんだんと彼らの素顔を知ると、サルの人間と似ている部分が人間を定義している部分と重なっているので、だんだんと愛おしいと思えるようになりました。
 
愛知県犬山市にある日本モンキーセンターは、おサルさんだけを展示している、世界屈指の霊長類の動物園です。その数は60種類以上、900頭と世界最多です。公益法人に伴って、運営は京都大学霊長類研究所が中心に行っています。運営元を見るとちょっと、学術チックな印象を受ける動物園でもあります。

山じゃないよ、谷にいるよ。冬はたき火で暖まります。


ギャーギャーとうるさい様子を形容した言葉に、「動物園の猿山みたい」と言われます。猿山とはニホンザルが展示している場所ですが、モンキーセンターは山ではなく、谷です。そして、ニホンザルの亜種であるヤクニホンザルがいます。このサルは猛々しい印象のあるニホンザルよりも、手足が短く胴体も丸みがあり、ずんぐりとしています。何というか、日本人体型のサルです。

冬のたき火が大好き


モンキーバレーを見下ろすと、サルたちがたき火に当たっています。動物は火が苦手と言われていますが、伊勢湾台風の時に木曽川河畔に流れ着いた流木を、園内の来客や従業員のために焚いたところ、ここにいるサルの先祖の子ザルがやってきて、暖を取り始めたのです。これが定着し、今では冬の風物詩となりました。
 
訪問した日は、日中10℃あり、比較的暖かくあまりたき火には近づいてない様子でしたが、YouTubeでは毛が焦げるほど近づいていることが確認できます。たき火が終わるとサルたちは焼き芋を食べることができ、熱いと水に着けて冷まして食べたりします。
 
人間もそうですが、新しい習慣を根付かせるのは幼い子供だったり、女性だったりします。例えば、馴染みのない料理だったり、ハロウィンといったイベントなんかです。サルも人間も幼い子供というのは、従来の規範に慣れてないせいか、新しいものをすぐに取り入れたりできるのでしょう。つまり、無鉄砲なところがあるのかもしれません。

ここの谷にいるサルは先にも書いたようにヤクニホンザルと言われる、屋久島に生息しているニホンザルの亜種です。ここにいるサルたちは全員血縁関係があり、観察していくと関係性が鮮明になっていきます。
 
今回は時間がなかったので、関係性を見出すまで観察はできませんでしたが、とある一匹のサルが塀の隙間から木の枝を出して、外の木の実か何かを取ろうと必死に手繰り寄せていました。なかなか感心できる様子を見ることができました。

私が一番好きなサルはヒヒです。

以前、NHKでマントヒヒの生態を紹介する動物特番を見ました。アフリカ北西部やアラビア半島に生息するマントヒヒは、乾燥地帯という、食べ物や水が限られた過酷な地域で生活しています。それでも生活できるのは、オスがリーダーとなって集団を率い、積極的に子育てに参加し食べ物も探すからなのです。そのような集団がたくさん集まり、天敵から身を守るといった様子を見てマントヒヒのオスがかっこいいと思うようになりました。
 
それから、ヒヒ類が好きになり、ヒヒに似ている男性を見るだけで心がときめくようになりました。

ワンと鳴くアヌビスヒヒ


「ヒヒの城」にいるのはワンと鳴くのが特徴的なアヌビスヒヒです。赤道付近に生息していおり、50頭から100頭ほどの群れを作ります。なので、ヒヒの城には約70頭ほどいるそうです。
 
モンキーセンターを見学していると、檻の容量を越えているほど、たくさんのサルが入っているのを見ました。すぐそばにいたお客さんが「入れすぎじゃない?」と言っていましたが、説明を読むと大規模な群れで行動するサルでした。サルは人間と等しく独特で高度な社会を形成するため、人間が思っているほど単純ではないようです。
 
アヌビスヒヒも見てわかるように群れを作って生活します。形態は複数の雄雌がいる集団で、順位の一番上にいるオスはアルファオスと言われます。昔はボス猿と言っていました。
 
この順位のトップになるためには、喧嘩が強いというのは当たり前。それ以外にも子供の面倒をみる、メスにやさしいというのも重要になります。そうやってアルファオスの座を勝ち取ると、ご飯が多く食べられたり、交尾の機会が多く得られます。
 
ちょっと調べてみると、弱くてトップになれない野生のアヌビスヒヒは、気になるメスの毛づくろいをしたり、子育てを手伝ったりして気を引こうとします。優しくすることによって、交尾の優先権を得るそうです。人間も優しくされると、好きになっちゃうものです。

アヌビスヒヒは地上にいることが多いような気がします。顔が黒く、体毛は緑色がかった灰色で、赤ちゃんは体毛が黒く、肌がピンク色をしていました。赤ちゃんを抱いたお母さんが2頭向き合って、何を話していたんでしょう?

間近でサルを見られるよ

従来のサルの展示は檻といった、人間と距離をとって展示されていましたが、日本モンキーセンターではもっと間近でサルを見ることができます。触れることはできませんが、仕切られたガラスや檻がないので、息苦しさも感じず、なかなか見れないしぐさを確認できます。

モンキースクランブル


雲梯はテナガザルを見て思いついた運動器具だと思います。エコドームというテナガザル類の中で最大と言われているフクロテナガザル(シャマン)が飼育されているところとに、ビックループと呼ばれる器具があります。その器具を、テナガザルと言われる由来となった長い腕を使って移動する姿は圧倒されるそう。

今回はゆったりと日向ぼっこをしている姿を見られました。お腹と大股を開いているところを写真を撮ろうとしたのですが、気づかれてしまいました。

リスザルの島

小さいものは可愛い。それは日本人の遺伝子に刻まれた認識です。「リスザルの島」には、ボリビアリスザルが自然展示されています。リスザルは水が苦手なので、島の周りには水が流れていて、外に出られないようになっています。自然を生かした飼育をしているため、ここの島では虫の声がしないといいます。

静かに観察しましょう。そうすると、あちらから近づいてくれます。

散歩道を見上げると、器用に綱渡りをするリスザルを見ることができます。小さな手は人間と変わらないことが確認できます。人間よりもすらりと指が伸びている気がします。

島の外からも観察してみると、水辺から水を飲むところを観察できたりします。島の外からの観察も見逃せません。

おサルさんが足元に跳んでくるよ


チェコの民話に「オテサーネク(食人木)」というお話があります。それを題材に映画もつくられたのですが、バオバブの木は人間でも食べているのではないか、と疑いたくなるほど巨木です。
 
その木があるマダガスカル島の南部には、飛び跳ねながら走ることで有名なサル、ワオキツネザルがいます。彼らを展示しているWaoランドではリスザルの島のように自然展示をしています。

同じマダガスカル島南部にベローシファカという、これも飛び跳ねて移動することが得意なおサルさんがいます。こっちは、全体的に灰色の体毛で顔が黒いです。ワオキツネザルは顔が狐っぽいという点と、あのボーダー柄のしなやかで長いしっぽです。でも目元は似ている気がします。

警戒心がないのか、結構近くで見ることができます。また、お客さんの肩を足場にして、飛び跳ねることもあるとか。なかなかサービス精神があるおサルさんです。

人間と同じ数え方

1人、2人と人間を数えるときは「人」という複数形を使います。類人猿は人間と同じ数え方をするようで、京都霊長類研究所・熊本サンクチュアリのホームページでも、チンパンジーを数えるときに「人」を使っていました。研究者の多くは類人猿に「人」という複数形を使うようです。
 
人間と近い存在の類人猿は、意外と知られていないことが多く、そして彼らから学ぶことも多いです。

テナガザルにはしっぽがないよ


雲梯が得意なテナガザルにはしっぽがありません。よってテナガザルは類人猿です。

ビジターセンターで見た分類図をみると、テナガザル科がヒト上科にいることがわかります。彼らは小型類人猿に分類され、どちらかというと我々が認識するサル寄りの類人猿のようです。

これは、たぶん眉毛が白いのでアジルテナガザルだと思います。なんか不貞腐れているように見えます。日本モンキーセンターには4種類のテナガザルが飼育されており、タイ、ベトナム、マレー半島やスマトラ島に生息し、中にはボルネオ島の固有種であるミュラーテナガザルがいます。
 
私がテナガザルのところに行ったとき、えらい大声で叫んでいました。何種類かのテナガザルが声を上げていたように思います。彼らは人間のように、言語を使って何か会話をしていたのかもしれません。

飼育員さんのお話

類人猿の代名詞といえば、チンパンジーとゴリラです。彼らは「アフリカセンター」にいます。それらを一通り見終わった後、たまたま飼育員さんの貴重なお話を聞けました。

マリリンのお話


少し不安そうな眼差しで、毛布を手放さないメスのチンパンジーは、マリリンといいます。以前彼女は伊豆のシャボテン公園にいて、得意の竹馬でお客さんを楽しませていました。彼女もそれを生きがいとしていたようです。

しかし、人間の生活に慣れ親しんでしまったため、チンパンジーの習慣に馴染めなくなっていました。日本モンキーセンターに来た時、すでにいたツトムとマルコ夫妻にきちんと挨拶ができませんでした。
 
マリリンは1989年生まれ。人間としても、大人としてきちんと挨拶することは当然とされる年齢です。チンパンジーの世界と置き換えれば、30代半ば過ぎの女性が挨拶もしない。人間社会でも重大な問題とされる行為です。よって、マリリンは挨拶もできないチンパンジーと思われ、孤立してしまいました。
 
その一方で、人間のスタッフさんたちには挨拶をしてくれるそうで、マリリンはチンパンジーの世界に、少し離れすぎていたことがうかがえます。しかし、最近ではツトムとマルコの息子であるマモルがかすがいとなってくれるようで、飼育ブログを拝見すると、息子マモルがマリリンにちょっかいを出しながらだんだんと距離を詰め、群れらしくなっているようです。
 
うれしいことに、1月下旬辺りから信頼の象徴である毛づくろいをし合うことが確認されました。今までマリリンが一方的にマルコに毛づくろいをしていたのですが、マルコがし返すということはなかったそうです。
 
人間もマリリンのような些細なしくじりをして、孤立をしてしまう社会に生きています。マリリンを見ていると他人事と思えない切なさを感じました。あの不安そうな眼差しは、まだ人間世界に未練があるからもしれません。

マモルが誕生するまで


2歳になったマモルを真ん中に、仲睦まじい様子です。しかし、マモルが誕生するときはいろいろとあったそうです。
 
母マルコは積極的な女性だったそうで、真っ赤に熟れたお尻を、後の夫となるツトムに必死にアピール。人間の知らないうちに結ばれ、マモルを授かったわけですが、焦るのは人間側。専門家ではなくとも、チンパンジーの繁殖となると、いろいろ準備が必要なことはわかります。

母マルコの積極性から、もしかして妊娠している?と飼育員さんたちは疑い始め、マルコの尿を採取。チェッカーで調べてみると陰性でした。
 
しかし、マルコの妊娠疑惑が拭い切れません。ちなみにチンパンジーに使う妊娠チェッカーは人間と同じものです。妊娠を疑う背景には、単純にマルコの体の変調が見て取れることあったからです。人間に最も近い生物というだけあって人間と共通点も多く、生理周期や妊娠期間も人間とあまり変わりません。
 
2回目の妊娠検査で陽性反応がでました。最初の検査が陰性だった背景は、検査が早すぎたというのがあったようです。それから出産日を逆算したそうですが、最初の検査のこともあり、マモルは理屈上一か月早く生まれていることになっています。

女性はお母さんになると強く(図々しく?)なります。

飼育ブログを拝見すると、夫のツトムはたびたび妻マルコの食べている物を取るなど、亭主関白なところがあるそうです。しかし、マモルを産むとツトムに意見したり、強く出たりするようになったそうで、これも人間と共通する点ですね。

ゴリラは優しい

「猿の惑星」でゴリラは軍人でしたが、どちらかというなら政治家として活躍してほしい生き物です。ゴリラが政を行えば、平和に過ごせるでしょう、と言われるほど、優しく争い事を好みません。ちょっと神経質なところがあるぐらいです。
 
日本モンキーセンターにはタロウさんというニシローランドゴリラがいます。

タロウさんは草食男子


ゴリラの好きなものはもちろんバナナ。しかし糖分が多いので、しょっちゅう食べることはお勧めできません。モンキーセンターでは季節によってタロウさんの食事内容が変えるそうですが、今の時期は白菜が好きだそうです。
 
筋骨隆々の勇ましい姿をしているから、肉を食ってそうですが、ゴリラは限りなく草食に近い雑食です。タロウさんの場合も、食事風景を拝見すると、鶏卵が唯一の動物性たんぱく質でした。野生でも基本草食で、昆虫を食べる程度と言われています。
 
以前、ゴリラのフンから鹿か何かの肉が出てきたというニュースがあったようですが、ヒョウなどの糞が混ざったのではないかと言われています。肉食も飼育下でという条件付きのことで、野生では考えられないといわれています。要するにゴリラは徹底した草食です。

基本草食なのはわかりましたが、どうやってあの体を維持しているのが不思議です。タロウさんの1日の摂取カロリーはやけ食いと、やけ酒すれば簡単に摂取できます。それでもゴリラのように筋骨隆々にならず、肥満でブヨブヨになるから人間は不思議です。

ゴリラは女性の理想


オスのゴリラは積極的に子育てをすることでも有名です。メスの子育ては「世話をする」といったもので、ひと段落するとオスに預けます。オスから社会性を学び育っていくそうです。
 
東山動植物園のイケメンゴリラのシャバーニを一度見たことがありますが、鼻血が出るほど男前でした。彼は繁殖目的で来日し、キヨマサとアニーという子供がいます。人間のメスも、シャバーニが子育てができるオスだとわかるのでしょうね。また、一緒にシャバーニをみた人間のオスは、彼の背中を見てリーダーとしてのカッコよさを感じたそうです。
 
ちなみにチンパンジーのオスは子育てに参加しません。
 
ここのタロウさんは、シャバーニのような男盛りとは言えませんが、雰囲気が紳士的です。彼にも好みの女性の顔があるそうで、とある女性の顔をじっと見ていました。私には全く興味がないようで、カメラを向けても知らん顔。ちょっと寂しかったです。

おわりに


この記事を辛抱強く読んでくださった方は、もともとサルをはじめとする、動物が好きな人だと思います。動物は賢く、合理的に生きていますが、それが人間にとって残酷に見えたり、人間の真似事をしているように見えて嫌悪する人もいます。でも、彼らの行動を、地球上で最も無駄な殺生をしている人間の価値観で図るというのは、人間の独善的な行為だと思います。
 
生物としても、社会的にも人間に近いサルですが、人間はサルの平和的なところを真似ようとはしないようです。

日本モンキーセンター
3月~10月 10:00~17:00、11月~2月 10:00~16:00
公式HPはこちら

この記事を書いた人

千津

千津ライター

幼いころは何者にでもなれると思っていたのに、成人しても特に何者にもなれず、外に探すようになりました。特に目的もなくふらふらと出かけるのが基本で、旅行も付き合いで行くという主体性のなさ。そんなことを積み重ねて、自分に厚みを出そうと思っています。

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