日本人にとって全くなじみのない場所コソボ・プリズレン。
早口で言うと「え?プリズン(刑務所)?」と20人にひとりは聞き間違えるような名前の街で、はっきり言って表舞台には出てきません。
でも隠されてると余計気になっちゃうのは古今東西人の性。
場所によっては、入場するための鍵を近所の家から探し出さないと入れないという、まるでRPGのような場所もあります。
そんな「プリズレンについて知りたい!」という熱い要望にお応えして(あれ、誰もそんなこと言ってない?)、今回はわたしが暮らす東欧の田舎町・プリズレンの、ベールに包まれた魅力を一枚一枚めくっていきましょう。
コソボ・プリズレンの欠かせないみどころ
ウラグリ Ura e Gurit
プリズレン観光の目玉、ルンバルディ川に架かる石橋。
15世紀の終わり、オスマン・トルコ支配時代につくられたこの石橋。
地元の人はアルバニア語で「石橋」を意味する「Ura e Gurit ウラグリ」(Uraが橋、Guritが石)と呼びます。
数多くの歴史的瞬間を見守って来た石橋ですが、なんと1979年、惜しくも洪水で流されてしまいました。現在あるのはその3年後の1982年再建されたものです。
この橋のたもとから写真を撮ると、モスク・セルビア正教会・城塞・旧市街の街並みが一度にレンズに収まるので、大人気の写真スポットでもあります。
夏にはこぼれ落ちんばかりの人がこの石橋の上にいるのを見ますが、まだ壊れることなくしっかりと繋がっています。
プリズレン要塞
そしてもうひとつの欠かせない見どころといえば、プリズレン要塞。
城塞そのものは現在アメリカの支援によって改修中なため、新旧入り混じる混乱した状態に仕上がっていますが、何よりもこの要塞から市内の眺めは、第一級品。
プリズレンを訪れたなら必ず見てほしいです。町の東側にあるのでサンセット時は特におすすめ。
バルカン半島の要塞と言えば、ドブロブニクやコトルのものが有名で確かに景色は圧巻なのですが、なにせ入場料がかかります。
プリズレン要塞がそれらと一線を画しているのは、なんと、タダなこと!
時計塔と考古学博物館
プリズレンのどこからでも見えるのに、いざ行こうとするとなかなか見つからないのがこの時計塔。
プリズレン七不思議のひとつです。
その時計塔のふもとには、ハマム(トルコ風呂)を改装した考古学博物館もあります。
博物館自体はこじんまりしていますが、プリズレンに現存するハマムの中で唯一ここだけ中に入ることができるので、訪れてみる価値はあります。
展示品はまぁ、土器や鉄器など。
時計塔にも登ることができます。
と、このように期待値を上げておいてなんですが、この建物行くと、十中八九閉まっています。
やる気があるのかないのだか、もうひとつのプリズレン七不思議です。
地元の人に聞けば誰かしら係の人の連絡先を持っているので、気長に連絡がつくのを待ってみましょう。
ね、なかなか見どころあるでしょう?
その他宗教に関わる施設など
プリズレンは過去に、ローマ帝国、セルビア王国、オスマン・トルコ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、ユーゴスラビアといった数々の勢力に支配された歴史から、今となってはいろんな文化が混ざり合う大変興味深い町になりました。
住民も、アルバニア系、トルコ系、ボシュニャク系(ゴラン)、セルビア系、ロマ系と、民族的多様性に富んでいます。
さらに面白いのが、アルバニア人の中でもイスラム教徒もいればカトリック教徒もいる、という状態です。
ある人はモスクに行くがトルコ語を話す、またある人はクリスマスを家族でお祝いしてセルビア語の読み書きをする。
プリズレンの町はそういった住民たちの様子をよく表しています。
モスク
旧市街の中心にあるシナンパシャモスク。トルコ政府の支援で近年きれいに改修されました。地元の人によればプリズレンで一番きれいなモスクとのこと。イマム(イスラム教の導士)はトルコ系です。
バスターミナルの近くにある、屋根と壁のないモスク。プリズレンに一番古くからあるモスクのひとつで1455年に建てられました。現在は周りにベンチや木が植えられていて、見た目はさながら公園のよう。
プリズレンのもうひとつの代表的なモスク。1878年、オスマン・トルコ支配時に起こったアルバニア人独立運動の際、このモスクで様々な集会が開かれ、一時的に議会の役割もはたしていました。
どのモスクも基本的にはお祈りの時間以外は中に入れます。装飾がきれいなのも見どころ。
教会
ユネスコ世界遺産「リェビシャの正神女教会」。現在はセルビア正教会ですが、オスマン・トルコ支配時はモスクでした。さらにそれ以前は教会。2016年現在、この教会の中に入ることはできません。
プリズレン要塞に行く途中にあるセルビア正教会。オスマン・トルコ支配時に壊され、19世紀に改修を試みたものの断念。そのため今は天井がない状態になっています。ほとんどの場合入口に鍵がかかっています。その鍵は近所に住む人が保管中とのこと。わたしは数軒当たってみましたが、未だ誰が保管しているのか不明。
旧市街の中心にあるセルビア正教会。紛争時に攻撃にあったので、今では警察が駐在しています。入る時にパスポートの提示を求められることも。主にギリシャの支援で改修されました。
こちらも旧市街の中心にある正教会。この地域で一番古い正教会の建物のひとつで13世紀のもの。ほとんどの場合鍵が閉まっていますが、そんな時は両隣にカフェがあるので、気を落とさず一休みしてください。
プリズレンで唯一のカトリック教会。日曜日には地元の人が礼拝に行きます。クリスマスのときは、隣近所のイスラム教の人もミサをのぞきに来ていました。
アルバニアン連盟
1878年にアルバニア人の独立運動が起こった時の中心になった建物。現在は歴史民俗博物館になっています。入館料は1ユーロ。当時の武器、書類、またアルバニア人の暮らしがわかる衣服や日用品が展示されています。
石畳
オーストリア=ハンガリー帝国占領時に作らされたという石畳。旧市街の通りはだいたいが石畳です。飲んだ帰り、酔っぱらって歩いているとたいていこの石畳に躓くので、そんな時地元の人は、「ハンガリー人(オーストリア人)め、この野郎!」と、当時つけなかった悪態を今になってこっそりついています。
ここまではプリズレンの印象をよくするため、ある意味表向きな観光スポットを紹介したのですが、そういうオフィシャルな観光地にお疲れの方向けに、最後は番外編スポットをご紹介しますね。
ちょっとディープに
ドクキノ
プリズレンでは毎年8月に世界各国のドキュメンタリー映画を集めた映画祭を開催しています。
その名もドクフェスト。
この期間は町のいたるところに特設で野外映画館が出現します。町中の多くの若者がボランティアで運営に参加しています。
そんな映画好きの住民が普段から足繁く通うのは、町に唯一の映画館「ドクキノ」。
チケット代は3ユーロ。なんと3D設備もあります。
ハリウッドの最新映画(たいてい日本上映よりも早い)とコソボ・アルバニア映画が上映されています。
特筆すべきは「最低上映人数」。1回の上映に4人以上集まらないと映画は上映されません。
わたしはひとりで映画を見に行って、人が集まらずに帰らされたことが`何度もあります。
行くときはぜひ人を誘って行きましょう。
どうしても見たい場合は4人分の代金を支払えば見せてくれるという噂も。
ルンバルディ
ヨーロッパの中で一番古い野外映画館のひとつがこの「ルンバルディ」。
現在は映画館としては機能しておらず、毎週末に夜な夜なアンダーグラウンドなイベントが開かれる場所になっています。
というと、何やら不気味な集会でも開かれているようですが、プリズレンに限っては、音楽はオルタナティブでも、遊びに来る人はビールを飲んで隣近所の噂話をしているのが主なので、何も恐れることはありません。
過去に一度、市がこの野外映画館を撤去しようとしたことがありました。
それに対してプリズレンの住民たちは抗議の声を上げ、自分たちのたまり場の維持を勝ち取りました。
そのような経緯から、プリズレンの人にとってこの野外映画場は特別な思い入れがある場所です。
パリの橋
プリズレンにもパリがあります。
マラシの大木
樹齢400年から600年と言われている大木。
オスマン・トルコ時代に植えられた木だそうで、バルカン半島三大木のひとつです。
あとふたつはドブロブニク(クロアチア)とオフリド(マケドニア)にあります。
以前、友人に散歩に誘われた際、どこに行くのだろうと思ったら、ただこの木のところまで来てまた引き返す、という何とも素朴な散歩をした記憶があります。
地元の人々にとって大切な憩いの場、プリズレンの誇りの一つのようです。
噴水
町の中心で400年以上湧き続けている噴水です。
「この水を飲むとまたプリズレンに戻ってきてこの町で結婚相手を見つけとどまることになる」という伝説があります。
婚活パーティーに失望した方なんかは試しにここで飲んでみたらどうでしょう。
かなり多くの人が積極的にこの水を飲んでいる姿を目撃します。
いかがでしたか。プリズレンの魅力が少しでも伝わりましたでしょうか。
よほど変わっている人か暇がある人でない限り、わざわざ日本からプリズレンだけを目当てに観光しに来るという人はいないと思うので、次回以降プリズレン以外のバルカンの観光について取り上げたいと思っています。
おまけ
いろいろご紹介しましたが、プリズレンでの一番のおすすめは、このきれいな空だったりします。