乳白色の肌に、肩から胸元にかけてのまろやかなライン。ロココ様式の絵に描かれた18世紀の女たちは、なんとも色っぽいですね。
そんなロココをはじめとした18世紀以降のヨーロッパの名画、工芸品を集めた美術館が名古屋にあります。
その名も、ヤマザキマザック美術館。
美術館のオーナーは世界的な工作機械メーカー
地下鉄東山線・新栄駅1番出口のすぐ横です。
ヤマザキマザックといえば、世界的な知名度の工作機械メーカーです。
あのF1マクラーレン・ホンダのオフィシャルサプライヤーとして有名な、男性的イメージの強い企業といえるでしょう。
そんな企業の名を冠した美術館になぜロココの女たちの絵が集められているのでしょうか?
出張先のヨーロッパで、山崎会長がひとめぼれ?
そんな私の質問に答えてくれたのは、主任学芸員の吉村有子さん。
「これらは、もともとは山崎会長のプライベートコレクションだったもの。40年ほど前に、出張先のヨーロッパで絵画に出会い、心惹かれた作品を1点ずつ集めていったといいます。まず絵画を集め、その絵画を公開するために1から企画設計したのが、この美術館なんです。」
最上階の5階で降りると、息をのむような展示室に通されました。まるで貴族の邸宅のような展示室に入ると、深紅の壁面に圧倒されます。
赤といってもエンジと深紅の中間色といえばいいのか、なんとも深みのある色で、その上に美しい女たちや子供を描いたロココ絵画が並んでいます。さすがは絵のために内装を考えたという言葉通り、頭上のシャンデリア、壁面、ソファ、絵画と、すべてが見事に調和しています。
赤の壁紙も「バックハウゼン」。ハプスブルグ皇帝家の御用達ブランドです。
ロココ美女たちの微笑み
部屋にはフランソワ・ブーシェ、ジャン=バティスト・グルーズをはじめとした巨匠たちの原画が展示されています。
禁止マークの作品以外は撮影も自由にできるのです。すこしお洒落して名画の横で記念撮影なんて素敵かも。
強い存在感のある「少女の頭部像」は、ジャン=バティスト・グルーズの作品。
長い間、かのロスチャイルド家のコレクションだったそうです。
「狩りの衣を着たマイイ伯爵夫人」はジャン=マルク・ナティエによる1743年の作品。
ルイ15世の愛人だったマイイ夫人は、実の妹にルイ15世の愛を奪われ、失意のうちに宮廷を去りました。この作品は、彼女が宮殿を追われたその翌年に描かれました。
王妃マリー・アントワネットに愛された女流画家、ヴィジェ=ルブランの原画を発見!
この部屋の大きな目玉の一つが、あのマリー・アントワネットの肖像画を描いた女流画家エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの絵が展示されていること。
ルブランはフランス革命に追われるように外国へ逃れ、現地でさらに多くの肖像画を描きました。逃亡先でのルブランの作品がここでは2点、展示されているのです。
「エカチェリーナ・フェオドロヴナ・ドルゴロウキー皇女」(1797年頃)
異国風のターバンを巻き深紅のスカートを履いて、伝説の女預言者に扮した皇女。画家ルブランは彼女のセンスや知性を称賛しています。
18世紀は、まだ写真がなかった時代です。上流階級の女たちにとって、肖像画はかけがえのない自己表現のためのツールでした。
神話や伝説をモチーフとした扮装をして、自分の容姿だけでなく個性や感性までも1枚の絵のなかできちんと表現されることを求めたのでしょうね。
そんなクライアントからの要望にきちんと応えきったルブランの手腕は、相当なものです。
フレームにも注目です。この美術館には、当時のままの額縁が少なからずあるというから驚きます。
うっすらとルブランの生没年を書いた文字も読み取れます。
「リラを弾く女性」は、ルブランがイギリス滞在中の1804年の作品。
ギリシャへの憧れと模倣が大流行していた時代で、この若い女性も白いギリシャ風ドレスに短い髪をバンドでまとめ、黄金のたてごとを奏でています。
あれれ? 絵がむきだしになっています。そう、ガラスのケースに入っていないのです。
この美術館の大きな魅力の一つが、アクリルやガラスケースの間仕切りを入れず原画をそのまま展示していること。絵の美しさをそのまま味わえるのです。
赤、黄色、青の3つの展示室で300年のヨーロッパ美術を概観
赤の部屋をぬけると黄色の部屋が現れます。ここには印象派以降の絵画が展示され、黄色の部屋の後には、青の部屋。
20世紀なかごろまでの作品を見ることができます。「つまり18世紀から20世紀ピカソまでの約300年の美術を、色分けされた部屋ごとに流れるように見ることができるのです。」と吉村さん。
あれ? 見覚えがあるな、この艶やかなブロンズ彫刻……と説明を見てみると、
ロダンでした。
さらっとロダンが置かれているところにヤマザキマザックの圧倒的な経済力を感じます。
最後はすっきりと落ちついたブルーの部屋。
ここには、エコール・ド・パリの油彩画、シャイム・スーチンやおなじみのユトリロ、シャガールなど、ちょっとエキセントリックで個性的な絵がいっぱい!
4階でアール・ヌーヴォーのガラス工芸や家具と出会う!
エレベーターで下の4階へ降りると、家具や一流工芸品など立体的なアート空間が現れます。
ジャック・グリュベールの「食器棚」は1904年の作。
人間の筋肉のようです。生命力さえ感じる美しさ。
ドームのシャンデリアは1905年ごろの製作。
「1900年代のお屋敷は今よりずっと暗かったでしょう。この空間では当時の明るさや暗さを再現しようとしています。」と吉村さん。
内部にはミラーが多用され、広々とした空間が演出されています。
オルゴール演奏会と音声ガイドは完全無料!
最後に館内の無料サービスをいくつかご紹介しましょう。
このオルゴールは1900年ごろの製作。
最初は壊れていたらしいのですが、なんとヤマザキマザックの社員さんが自力で修復したというのです。その修理を担当した社員さんご自身がゲストの前でオルゴールを実演し、説明してくれます。
参加は無料。うっとりするような深みのある音色に引き寄せられて、この日もたくさんのゲストが集まっていました。
音声ガイドも嬉しい無料サービスです。
絵のために一から建築設計した美術館
山崎会長が、激務の合間にコレクションを重ねてきた美術品と出会える、ヤマザキマザック美術館。
美術館自体が大切な絵のために企画設計したものだったんですね。ここではロココの魅惑的な女性像から精密な調度品まで、時代を超えた輝きを放つアートと出会えるのです。
吹き抜けの爽やかな1階。
愛知県名古屋市東区葵1-19-30
TEL:052-937-3737(代表)
入館料(常設展)
一般 1,000円
団体(10名以上) 800円
小・中・高生 500円
小学生未満 無料
※各種障害者手帳をご提示の方とその同伴者1名は800円
開館時間
平日 10時~17時30分
土日祝 10時~17時
(最終入館は閉館30分前まで)
休館日は毎週月曜日(祝日・休日と重なる場合は次の平日)
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