2016年10月7日から翌年の2017年1月21日まで、上野の森美術館で開催されているデトロイト美術館展。モネ、ルノワール、ゴッホなどヨーロッパ近代の名画たちを一挙に拝見できる展覧会となっており、私のように「芸術に明るくないけど有名どころを見てみたいなあ」という人も見に行きやすい展覧会となっています。
ですが、この展覧会、もうひとつの顔を持っています。それは、工業で発展し、しかし2013年に財政破綻したアメリカのデトロイト市……その市の盛衰の影響を受けたデトロイト美術館の歴史という面です。
純粋に絵画を見るも良し。ですが、このもうひとつの顔に目を向けたとき、一体何が見えてくるのでしょうか。
デトロイト美術館とは
デトロイト美術館は1885年に創立されました。
美術委員会委員長ラルフ・ハーマン・ブースを中心に1920年頃から作品の収集活動を行い、フィンセント・ファン・ゴッホの『自画像』など多くの名作を入手していきました。現在では、ギャラリーは100を超え、所蔵品の数は65,000点以上。とても大きな規模の美術館となっています。
ですが2013年、デトロイト市が財政破綻したことにより、美術館の所蔵品が市の財源確保の標的に……。所蔵品が売却されるかもしれないという危機に晒されました。しかし、美術館存続を望むデトロイト市民や国内外の支援により、所蔵品の売却は行われることなく、美術館存続の危機を無事乗り越えることができました。
この展覧会で展示されている作品は、デトロイト美術館を大切に思う人々が守り抜いた作品たちです。こういう背景を知ると、絵画一つひとつに芸術的価値とはまた別の、素敵な価値を見出せるのではないでしょうか。
展覧会の内容
デトロイト美術館展は『印象派』『ポスト印象派』『20世紀のドイツ絵画』『20世紀のフランス絵画』の4章で構成されています。私は印象派と聞いても、正直ちんぷんかんぷんなのですが、館内で掲示されている説明を読む限り、光や空気の質感を大切にして描かれた作品のようです。特別な場面よりも、日常のひと時を大切にした作品が多く、絵画から当時の生活風景を垣間見ることができます。
ちなみに、東京の巡回展では、月曜日と火曜日に全作品の撮影が可能です。私は火曜日のお昼頃に行ったのですが、平日だからかそこまで混雑しておらず、作品を正面から撮影することができました。平日なのでお仕事などで都合をつけにくい方も多いと思いますが、撮る側からしてみれば、あまり混雑しない平日の方が、好きな作品を綺麗に撮影できる貴重な時間になるのではないでしょうか。
ただし一部作品はSNSをはじめ不特定多数への公開が禁止されているので注意が必要です。
▲喜び楽しむ人々(カロリュス=デュラン)
▲三つの髑髏(ポール・セザンヌ)
不思議な可愛さを感じます。共感してくれる方、握手を(笑)。
ネタばらしをし過ぎて楽しみを奪ってしまうのも申し訳ないので、2枚だけ展示されている作品の画像を載せたいと思います。他の作品は、ぜひ生でご覧になって下さい。
複製画を触る
展示スペースの一番奥、全ての展示品を見終えたその先に『さわれる複製画』という展示スペースが置かれています。ここでは、インクジェット技術と3Dプリント技術とを応用してつくられた、色合いから質感まで本物の絵画とほぼ同じ複製画が展示されています。
撮影可能なだけでなく実際に触ることもできるので、視覚だけでなく触覚も使って芸術を感じてみましょう。
▲クロード・モネの『グラジオラス』の複製画
▲本物の『グラジオラス』
本物と複製画、見比べてみるのも楽しいかもしれません。私には全く違いは分かりませんでしたが(笑)。
『デトロイト美術館の奇跡』(原田マハ)
http://www.shinchosha.co.jp/book/331753/
作家の原田マハさんが書かれた小説で、デトロイト美術館で実際に起こった出来事が書かれています。客観的視点ではなく、何人かの人物に焦点を当てて物語が展開されていきます。館内でも書店でも販売されており、展覧会を見る前の予習として、または見た後の補完や復習として読んでみるのはいかがでしょうか。
絵画から、美術館の歴史から、はたまた小説から……この展覧会の楽しみ方は、人それぞれ。全てに目を向けるも、ひとつに絞るも自由です。
ただ、そこに触れて何を感じ、逆に何を拒んだか。それを考え理解し、その作業に『楽』や『喜』を覚えたなら、芸術の秋を満喫できているのではないでしょうか。
デトロイト美術館展で、今年の秋を芸術に染めてみませんか?