暴力OK。男達がつかみ合う「フィレンツェ古式サッカー」にルールはあるの?
イタリア

サッカーの起源を調べると、蹴鞠(けまり)の中国説、戦争勝利の際、敵の将軍の首を蹴っていたイングランド説、そしてイタリア説があります。

そんなイタリア説を裏付けるかのように、フィレンツェには約500年前から現在も続く地区対抗サッカー、カルチョストーリコ(カルチョ=サッカー、ストーリコ=歴史の)があります。サッカーというより、ラグビーのような、プロレス的格闘技のような試合が、毎年6月の毎週末、フィレンツェのサンタ・クローチェ教会前広場で行われます。

男たちのぶつかり合うサッカーはどんな祭りなのでしょうか?

2月の記念試合の秘密


毎年、6月になるとサンタ・クローチェ広場の石畳に大量の土が運ばれます。古式サッカー、「カルチョストーリコ」の準備です。周囲には観客用のスタンドが組まれ、夏の始まりを感じさせます。

個人的には、いつか見ようと思いつつこれまで1度も見たことがありませんでした。6月のイタリアの太陽は結構強く暑い為、日陰のないところで入場料を払って見るほどのことでも?と思っていたのです。

そんな折、6月以外に2月17日に無料のカルチョストーリコがあると聞きつけ、それを見てきました。多くの人達は何故2月!?と言うのですが、2月の試合は、約500年前に起源を持つ、記念試合です。

1500年代初頭、フィレンツェは政治的にも不安な時代でした。最有力者だった銀行家メディチ家を追放し、共和国制をとっていました。

しかし、1530年、フィレンツェ共和国をカール5世と当時のメディチ家の出身の法王クレメンス7世の連合軍が結託し、フィレンツェへ攻めこむことに。4万の教皇軍と皇帝軍に包囲された市民たちは、10ヶ月の攻防の末、最終的には飢えや疾病のため降伏するしかありませんでした。

そんな完全包囲の状態の時期に、当時のフィレンツェ人達は泣き言も言わずサッカーの試合を行います。1530年の2月17日の試合は、国の周囲を完全に包囲された状態の下で行われた、フィレンツェ市民の指揮を高め、鼓舞する、共和国のプライドをかけた重要なチャレンジだったのです。

歴史の中で多くの有名人も参加しており、メディチ家の当主達以外にも、ルネッサンス期のローマ法王もこのスポーツを楽しんだと言われています。サッカーは歴史の中でイタリア人にとって、身分や歴史関係なく、ボール1つで興じることが出来る身近な遊びだったのですね。

色鮮やかな時代衣装にも注目

カルチョストーリコは別名、カルチョ・イン・コスツゥーメ(=衣装)と言われます。その名前通り、試合前後には、美しい衣装を身にまとっての入場行進行われます。各衣装は決まっていて、公式サイト(伊語のみ)には衣装解説もあります。

こちらは砲撃手の行進です。コルビーナと言われる小型の大砲を持って進みます。荒々しい武器とは裏腹に、靴が女の子みたいで何だか可愛いです。

太鼓に合わせて旗手達は高く旗を投げます。旗にはフィレンツェの紋章が施されています。

周囲には怪我を防ぐためにワラが積まれています。手前ゴールから奥のゴールを見たところですが、赤い部分の上が全部ゴール。つまりゴールの高さが高く幅がすごく広いです。この中にボールを放りこめばゴールです。

アスリートの体型とは違う!?

6月の試合では、フィレンツェの4つの地区対抗で行われます。サン・ジョヴァンニの緑、サント・スピリトの白、サンタ・クローチェの青、サンタ・マリア・ノヴェッラの赤となっています。

さて、選手入場です。緑のサン・ジョヴァンニチームです。

白のサント・スピリトチームも入場です。

初めて観戦したため、想像してたよりも、選手の「年齢」も「体重」も少し高めでは?カルチョストーリコってこんな選手達なの?と驚いてしまいました。

実は今回は、フィレンツェの4つの地区から「偉大だった選手たち」が参加し、緑チームと白チームに別れての「記念試合」だったんですね。すごく動ける「ガチムチタイプ」の男たちなのでもう一度ビックリ。公式サイトには、もっと若い選手達が出ています。

つかみ合う男たち

通常、試合は50分間で、ボールは手で持ってもOK。1チーム27人が参加。

時代衣装は着ていても、足元は運動靴で、スネあて用のプロテクションもしているところが現代的ですね。

試合も佳境に入ると、Tシャツがそこらじゅう落ちています。

ボールの位置を遠目で見つつ、あちらこちらで組み合っている選手たち。つかみ合い過ぎて、着ているシャツも破れてきている選手が多数。1人を多数で攻撃はせず、1対1で戦います。手足は使っても良いのですが、頭部への攻撃は禁止です。

ある程度の暴力は許されているため、ルールはないようなもの。遠目で見てるとほぼ喧嘩のつかみ合いのようです。過去には、あまりに乱暴なので、中止になったこともあります。

今回の試合は記念試合です。6月の本当の試合の勝利チームへ贈られるのは、フィレンツェ風ビフテキで有名なキアナ牛の雌牛1頭です!

インフォメーション

入場料は、22~53ユーロ(2016年時点)。切符は5月初め頃からボックスオフィスで販売されます。それ以前には販売していないようです。

試合日は6月の毎週末で決勝戦は6月24日。24日はフィレンツェ守護聖人サン・ジョヴァンニ(洗礼者ヨハネ)の日にあたり、フィレンツェのみが祭日になります。夜は花火も上がります。

カルチョストーリコ
カルチョストーリコ公式HPはこちら

この記事を書いた人

ゆきとさな

ゆきとさなフィレンツェ県公認ガイド

旅行業界で20年以上働いています。旅行の度にコロコロシステムが変わるイタリアですが、できるだけ最新の情報を心掛けます。歴史と魅力が沢山の国イタリアに来て下さいね!

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