わたしが、この世で最も尊敬する人・野田秀樹氏。
名前を聞いたことのある方は多いはずですが、彼の作品を見たことはありますか?
今年の「芸術の秋」、劇場に足を運んでみてはいかがでしょう。
ご飯は炊き立てが美味しいし、料理も出来立てが1番美味しいですよね。
魚も野菜も、鮮度が味を決めます。
それは、お芝居でも同じこと。むしろお芝居のほうが鮮度命かもしれません。
芝居の“生”は、お刺身としてスーパーに並ぶことはなくて、劇場の椅子に座った人にしか提供されない味。
だからわたしは劇場に足を運びます。
公演予定作品
・『半神』
1986年、夢の遊眠社時代に初公演されて以来6回目となる公演。
萩尾望都原作の漫画を、今度はオール韓国人キャストで上演します。
体のくっついたシュラとマリアという双子が、死に瀕した病にかかったとき下す決断とは…。
原作・脚本:萩尾望都
脚本・演出:野田秀樹
ソウル:2014年9月12日(金)~10月5日(日) 明洞芸術劇場
※日によって英語/日本語字幕あり
東京:2014年10月24日(金)~10月31日(金) 東京芸術劇場プレイハウス
※韓国語上演・日本語イヤホンガイド
・『エッグ』
2012年初演の同作品を、妻夫木聡・中村トオル・深津絵里の同キャストで再演。
大阪:2015年3月26日(木)~4月8日(水) シアターBRAVA!
九州:2015年4月16日(木)~4月19日(日) 北九州芸術劇場 大ホール
2014年12月13日(土)全公演チケット発売開始
photo by.B4たかし
鬼才・野田秀樹
故・中村勘三郎への弔辞からもわかるように、とても美しい日本語を紡ぐ人です。
1988年長崎生まれの戯曲家であり演出家であり役者でもあります。
彼が東京大学在学中に旗揚げした小劇団「夢の遊眠社」は、鴻上尚史やつかこうへい、三谷幸喜らと同じアングラ演劇として日本の演劇界に革命を起こしました。
92年の遊眠社解散後、現在は新たに旗揚げした「野田地図(NODA MAP)」で活動中。
また池袋の東京芸術劇場の芸術監督や、多摩芸術大学の講師も務めています。
出演者も、大竹しのぶ、宮沢りえ、深津絵里、藤原竜也、妻夫木聡、蒼井優といった多くの有名俳優たち。どうしても野田作品に出たいと、役者たちに思わせる芝居を作るのです。
言葉と物による演出
巧みな言葉遊びと重層なストーリー、そして斬新な“見立て方”。
それが、鬼才と称される野田秀樹作品の魅力であり軸です。
彼の演劇が難解だといわれるゆえんでもありますが、そこには日本語の不思議や美しさや面白さが詰まっていて、きっとそれがお芝居のコクなのだろうと思います。
味付けは、物をそれと思わせない演出。
別にそれが机だからといって永遠に机でしかいられないわけじゃないと分からせられるのです。
例えば、『キル』という作品。
タイトルの『キル』には、生きる/着る/切る/KILLなどたくさんの言葉がかけられていて、それが1層ずつ物語を作り上げていたり。
例えば、『THE DIVER』という作品では、たった一つのソファが、テーブルや運転席、壁などありとあらゆる物として使われたり。
後味は突きつけられる現実。
題材は近未来・過去・異国・宇宙と様々ですが、3時間近い芝居の終わりには国際問題や日本の重大事件への警鐘が必ず鳴らされています。
“世界に対して、いつまで観客でいるのだ”という鐘の音が聞こえるのです。
だからこそ、幕が下りた後に言葉が出なかったり椅子から立ち上がれなかったりする。
『THE DIVER』を見たときのこと。
役者の額に滲む汗の粒が見えて、声が鼓膜まで届いて、空気が震える音が心臓に響くような、そんな経験したことありますか?
物理的な距離を越えて、まさに芝居を体感したのです。わたしにとってはそれが初めてで、魂が震える芝居ってこういうことを言うのかと知りました。
3歳の時から、子供のためのシェイクスピア・第三舞台・キャラメルボックス・新☆感☆線・小劇団など含めて、100弱の作品を見てきましたが、その中で痛烈に突き刺さったのは野田秀樹作品。
他のお芝居にはない言葉遊びによる笑いや、舞台上の道具の使い方に驚くばかりではなく必ず何か考えさせられる演劇です。