アイスランド総合研究所の企画「アイスランドに関する記事募集」でご応募いただいた記事のうち、「特別賞」「優秀賞」に輝いた記事を掲載しています。
今回の記事は「優秀賞」に輝いた、伊東貴史さんによる「心を温めにいく旅 ~愛の敷衍する国アイスランド~」です。
東京の街を歩いていて、「なんだかみんな冷たいなあ」と感じることもしばしば… な今日この頃。
私は、そんなときにきまって思い出す、ある国があります。
それは、昨年の夏にひとり旅で訪れた国、アイスランドです。
この国、漢字で書けば「氷」の国と、一見かなり冷たそうなイメージを持ってしまうのですが、それは違います。
というのも、そこにいる人々が、とっても、とっても、とっても(くどいですね笑)温かいのです。
もちろん、アイスランドの魅力といえば… 世界最大の露天風呂『ブルーラグーン』
はたまた、太陽から射す七色の光のうち、青い光だけをその氷の中に留める神秘の洞窟『スーパーブルー』
そして、「一度観れば世界観が変わる」とまで言われる夜空のカーテン『オーロラ』
… などなど、挙げていればキリがないほどたくさんあります。
ですが、今日私がみなさんに紹介したいのは、そういったいわゆる“観光名所”ではなく、このアイスランドという小さな国にいる『ひと』の温かさです。
私は昨年の夏に、約4日間この国の首都レイキャヴィークに滞在する中で、本当にたくさんの人たちの温かさに触れました。
特に、泊まる宿も見つからず不安で仕方がなかった到着初日におぼえた感動は、あれから一年たった今でも少しも色あせません。
なので、それをぜひ、ここで紹介させていただきたいと思います。
バスの運転手さんの心配り
私は、先述の通り、3泊4日でアイスランド(のレイキャヴィーク)に滞在予定だったのですが、肝心の到着初日に、泊まる宿がないという危機的状況に陥っていました。
ただ、残りの2泊はあるホステルの予約が取れていたので、「もしかしたらそのホステルで誰かの急なキャンセルでもあれば、今日も泊めてもらえるかもしれない。」
そう思って、念のためそのホステルまでバスで行ってみることにしました。
空港のインフォメーションセンターの方の指示にしたがって、所定のバスに乗ります。
しかし、まだまだ英語力も未熟な私は、バス車内のくぐもった英語のアナウンスがうまく聞き取れず、自分の目的地がコールされたのかどうか、わからない…
「泊まれるかすらわからないのに、そもそも宿にすらたどり着けなかったら…」
不安な気持ちで悶々としていると、それに追い打ちをかけるように、バスはルートにしたがって平然と乗換所のようなパーキングエリアで停車。
周りの乗客を見渡すと、こなれた旅行客の方々は次々とバスを降りて、並列駐車してあるとなりのバスへと乗車しています。
でもかと思えば、なんの迷いもなくその席に座ったままの人も何人かいる。
降りるのか、降りないのか、自分がどうすればいいのかまったくわからず、ただただ不安で仕方がありませんでした。
するとここで、バスの運転手さんの優しさが!
彼は、バスの前方に立ち、私たち乗客に向かって体を向けると、メモのようなものを片手に持ち、マイクですらすらと、
「○○に行く人、ここで乗り換えて! ××に行く人、そのまま乗ってていいよ! △△に行く人、君たちもそのまま乗ってていいよ!…」
などなど、これから先そのバスが停まる目的地と、そこを目指す乗客がどうしたらいいのかということを、ご丁寧にもすべて読み上げてくれたのです!
「うわあ… なんて親切なんだろう…!」
しかし、感動もつかの間、すべての目的地が読み上げられたとき、私はある異変に気がつきました。
「あれ? ところで結局私の目的地って読み上げられたっけ?」
そう、馬鹿な私はすべての目的地が読み上げられてなお、それでもどうしていいのかわからなかったのです。
「もうダメだ…」私がもはや途方に暮れていると、ここでまたしても運転手さんの優しさが!
彼は片手に持っていたメモとマイクを置くと、今度は前にいる乗客から順番に何やら声をかけています。
なんと、信じられないことに、彼は乗客ひとりひとりにわざわざ目的地を訊いてまわり、それぞれにまた、
「君はどこに行くの? じゃ君は乗り換えるんだ。」「君はどこに行くの? なら君は乗ったままだ。」
などと、その前に一度メモを読み上げたのにもかかわらず、またまたご丁寧に、乗客に心を配っているのです!
「こんなこと、日本じゃ考えられない…!」
彼が自分のところまでやってきて、私がようやく目指す目的地を伝えると彼は、
「オーケー、なら君は乗ったままでいいからね。」
そう言われたとき、私はもう泣きそうな気持ちでした。
でもあの運転手さんは、別に私が困っているのを見て私だけに優しくしてくれたわけではなく、乗客全員に対して同じように優しかった。
彼からすれば、あのような温かさをもって人と接することは、むしろ当たり前のことだったのかもしれませんね。
まあ何はともあれ、彼の優しさのおかげで、私は無事に宿へとたどり着くことができたのでした。
小さな女の子たちとの他愛のない会話
とはいえ、やはり予想はしていましたが、たどり着いたはいいものの、結局その宿にキャンセルは出ておらず、空きはありませんでした。
レイキャヴィーク内のホステルをそこしか知らない私は、どこへ行けばいいのかわからないまま、あてもなくふらふらと歩いてみることに。
雨の降るレイキャヴィーク、夏といえども気温は10度前後です。
寒さに耐えながら、スーツケースを携えて、淋しげに信号待ちをしていると…
“How do you like Iceland?” [アイスランドはどう?]
と、突然(本当に突然!)後ろから可愛らしい女の子の声が。
私が驚いて後ろを振り返ると、そこには小学生くらいの女の子がふたり。
見知らぬ男性の旅行客に“Excuse me.”の一言もなくいきなり話しかけるなんて、この国はよほど普段から平和なんだなと感じました。
彼女たちの質問に私が「すんごく寒いね。」と言うと、「まあ、だろうね(笑)」と白肌の子。
彼女たちは母親から迎えを待っていたところで、私たちの会話は実際のところそう長くは続きませんでした。
けれども、知らない土地で孤独や不安を感じているとき、誰か人と話せた喜びというのには、何にも代えがたいものがあります。
ですから、そんなわずかなひと時であっても、そのときの私の心を温めるには十分であったことは、言うまでもありません。
あのとき私に話しかけてきてくれたこと、それだけでも感謝千万です。
ホテルのレセプションで目にした優しさ
彼女たちと別れた後、私は歩いていて目に入った少々大き目なホテルに入ってみることにしました。
ドアをくぐり、受付に座っている女性に恐る恐る尋ねます。
「あの、すみません、今日ここのホテルにまだ空き部屋はありますか?」
すると、その女性は目の前のコンピューターをカタカタと操作し、数秒ののち、
「うーんごめんなさい、今日は一部屋以外もう全部埋まっちゃってるわ。」と一言。
その部屋の(私にとっては)かなりお高い宿泊料を聞いて、
「ああ、やっぱりダメか…」と私がうなだれていると、今度は彼女たちの方から、
「君、他に泊まるところがないの?」と聞いてくれました。
「そうなんです。でも私はまだ学生だし、お金もあまり持っていなくて、できれば安いホステルに泊まりたいなと思っているんですけど。」
私がそう答えると、彼女たちは「じゃ、ちょっと待ってて。」と言って、今度は目の前の電話に目を向けました。
一体なんだろうと思ってみていると、なんと、彼女たちはふたりがかりで、街中のホステルに電話をかけてまわっているではありませんか!
「今ここにジャパニーズの男の子がひとりいるんだけど、おたくにまだ今日の空きはあるかしら?」
電話の向こうの相手にそう伝えながら、次から次へと街のホステルに確認を取っていきます。
先述したバスの運転手さんにしてもそうなのですが、ここアイスランドの人々の接客というのは、なんと親切なのでしょう。
会社の利益を他社に譲るようなこと、普通だったら若干のためらいもあっていいものですよね。
でもここでは、そんな損得勘定よりも、人間としての純粋な親切心が優先しているのかもしれません。
結局、受付嬢のふたりが思いつく限りのホステルを確認してまわっても、空き部屋を見つけることは叶いませんでしたが、私としては、もうその気持ちだけで十分でした。
叩かずとも、開くドア
「本当にごめんね。」というふたりに深くお礼をして、ホテルのドアをくぐると、私は再び我に返って落胆しました。
「親切心には感動したけれども、実際まだ泊まる宿はないのか…」
すると、前から4人家族が歩いてきます。
「きっと、私がたった今出てきたばかりのこのホテルに泊まるんだろうなあ。」
そう思いながら、私が歩き出そうとすると、その家族の父親らしき男性が突然(これまた突然!)、私の目を見て、
「どうかしたのかい?」と、私に目線を合わせながら身をかがめて聞いてくるのです!
この国ではどうしてこうも、自分から言葉をかけなくても、自分から目を合わせなくても、困っていると自然に向こうから手が伸びてくるのでしょうか?
彼に「あっちに行けば何とかなるかもしれないよ。」と言われて向かったレイキャヴィークのダウンタウンでも、私は何も言っていないのに、
「迷ったのかい?」と道端でおばあちゃんが心配そうに声をかけてきてくれたり、
「宿が見つからないなら、おれも探すの手伝うよ!」と隣り合わせた男性が言ってきてくれたり。
「叩けば開く、ドアもある」という言葉がありますが、ここでは、叩かなくても、ドアはあちらから自ずと開くというような心地。
あたかも「そこに困ってそうな人がいるんだから、手を差し伸べるのは当たり前でしょ?」と言わんばかりに、周りに対する温もり、そして愛で溢れている。
また、そんな愛の溢れる環境に身を置いていると、こちらも悪い自分ではいられなくなるもので、
滞在して3日目の夜には、記念碑的なオブジェの前でひとりひとり記念撮影をしているふたり組の旅行客がいたので、
「よかったら、おふたりの写真も私がお撮りしましょうか?」
と何のためらいもなく自分から、自然と言っている自分がいました。
「あら本当に? ありがとう!」
「いえいえ、どういたしまして。」
この街に敷衍するアイスランド人の愛が、私にも確かに伝染している証拠だと感じました。
こうして、誰かから始まった親切心が、その相手へと伝わり、また他の誰かへと広がっていく。
そして街中が、ひいては国中が愛に溢れていく、そんな究極の正の連鎖が、この国にはあるのかもしれません。
心を温める
愛に溢れ、そして愛が広がっていく国アイスランド。
私は、この記事を通して、アイスランド人の優しさ、温もり、そして愛にあふれる人柄のようなものを伝えたかったのですが、いかがだったでしょうか?
この国、外の気温が夏でも少々肌寒いせいもあってか、そういった人の優しさ、温もりのひとつひとつが、やたらと心に沁みてくるんですよね。
今日ここでは紹介しきれませんでしたが、他にも、彼らの愉快な一面として、
店のドアにかかっている“OPEN”のパネルを、自分の都合だけで“CLOSE”に変えてゲラゲラ笑っていたカフェ店員や、
いい歳して目の前にいる相手となぜか携帯電話を使って会話しながら大爆笑していた30代くらいのお茶目なおじさんたちなど。
彼らのいつもいつも楽しそうな笑顔は本当に印象的でした。
今でも、あのときの思い出、そしてあのときもらった温もりを糧に、毎日を生きているような自分がいます。
また来年の夏も、再びこの国へと渡航しようと絶賛計画中の私。
例によって、「寒そうだけど…」などという声を友人からもらうことも間々あります。
けれど、一度あの国を経験した今の私は、この言葉に、はっきりとした確信をもって、
「そんなの全然問題じゃないよ。」と言うことができます。
なぜなら、きっと私は、身体で寒さを感じる代わりに、あの国に、心を温めるために行くのですから。
最後に…
ということで、最後にみなさんに質問なのですが…
“How do you like Iceland?”
アイスランド、お気に召していただけましたでしょうか?
みなさんのアイスランドに対するイメージ、少しでも変わりましたか?
多少なりともポジティヴなものに変わったという方がもしいましたら、アイスランドを愛する私にとって、それは至上の喜びであります。
みなさんもぜひ、心を温めに、心のひなたぼっこをしに行くような気持ちで、一度アイスランドへと足を運んでみてはいかがでしょうか?
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