こんにちは、ユルワです。
日本では「パワースポット」という現代風の表現で寺社参拝の文化が蘇り、多くの人が神聖な空間へ足を運んでいますね。
ベトナムではどうかというと、日本以上に宗教的な習慣を大事にしています。例えば、新月・満月期にはベジタリアンの食事に換えたり、ごくごく若いカップルがお寺で熱心にお参りをする姿が見られたりします。(聞くところによると、親に対するデートのいい口実になっているようです)
そんな信仰心のあつい国ベトナム。ダナンも例外ではありません。今回はダナンで最強とも言われるパワースポット「五行山(ごぎょうさん)」へとご案内したいと思います。
五行山(Ngũ Hành Sơn)とは?
ダナンからホイアンへ南下する平地を走ると、突如天へと伸びるように切り立った複数の岩山が目前に迫ってきます。オーストラリアのエアーズロックのような規模ではないにしても、間近で見るとなかなかの迫力が感じられます。
「五行山」は名前の通り、東洋思想体系の「陰陽五行」に基づいて、200年ほど前にフエのグエン朝2代皇帝「ミンマン」により名づけられました。それぞれの山に「木・水・火・土・金」のエレメントの名前がついています。現在一般公開されているのは水山(Thủy Sơn,トゥイ・ソン)のみ。5つの岩山の中で最大で最も美しいと現地では評判です。
さらに、五行山は日本人も知っている中国の「西遊記」にも縁があると言われており、孫悟空がお釈迦様に閉じ込められてしまった場所であるという伝説もあります。
またこの五行山は英語でマーブルマウンテンと呼ばれるように、大理石の産地としても有名なので、五行山付近には大理石彫刻のお店が林立しています。とはいうものの、近年大理石の採石状況は芳しくなく輸入に頼っているという話も耳にしたことがあります。
ダナンからホイアンへ行くのに五行山は素通りされることが多いのですが、実はパワースポットとして奥が深い歴史があります。上記の話はあくまでも中国南部地域から南下してきたキン族(現在のベトナム主要民族)による位置づけあり、キン族以前にベトナム中南部を支配していたチャム族の時代からこの地は聖地として崇め奉られていたそうです。
チャム族ってどんな人たち?
チャム族は、ニャチャン付近の沿岸部やカンボジア国境付近の郊外の村でひっそりと暮らし、イスラム教を信仰しています。現在でこそ少数民族ですが、その昔はホイアンを拠点に日本も含む世界の民族と貿易を行い、繁栄を極めていました。当時信仰していたヒンドゥー教の聖域をミーソン(現在のミーソン遺跡)に置いていたことからも、その様子がうかがえます。
チャム族は、ベトナム史上重要な「チャンパ王国」を築き上げた歴史を持つ人達なのです。
チャム族の姿はお隣カンボジアのアンコールトム遺跡バイヨン寺院の壁面レリーフにも描かれているほどで、当時はクメール族(カンボジア)や中国人、キン族たちと領土をめぐって争うことが多かったとか。このあたりのエピソードは歴女&少数民族マニアのユルワにはたまりません。
五行山入口
そんなベトナムの歴史の中で、2つの民族が聖域とみなした五行山。その神聖さを肌で感じるべく、晴れた日を選んで足を運んでみました。五行山へはダナンとホイアンの間にあるので、ホイアン行きの公共バスまたは、宿からタクシーで行く方法があります。
ユルワは友人とダナン聖堂前から公共バスを使って行ってみることに。乗車したら車掌さんに行先を告げるのですが、五行山はベトナム語で「ングーハイソン」と言います。「ング」のところは思いっきり息を鼻に抜く鼻濁音で発音してください。
バス停から少し歩くと入口が見えてきます。実はトゥイーソンには入口が複数あります。ネット上でも有名なエレベーターがある入口は、リゾートホテルが林立する海側の道路沿いにあるので、タクシーを使う場合はこちらから入ることになります。もちろん、入口は別でも山の中のルートを辿れば全体的に回れるので、どちらから入っても問題ありません。
ただ、ユルワのおすすめとしては、最初にエレベーターがある入口から入場することをおススメします。その訳とは……?
地獄の洞窟で罪を悔い改める
チケットを購入していざ入場。エレベーターに乗るのが一般的なようですが、ユルワはそのまま入口手前の洞窟へ。するとそこにはおどろおどろしい地獄絵が広がっていました……
よく見ればなんてことはなく、最近作ったのであろう人形や石像、ライトワークで寺山修二などのアングラ演劇を思わせる地獄世界が表現されていたのですが、洞窟の中となるとそれが妙にリアルに感じられ、ユルワは毒気にやられたのか少しめまいを感じました。
洞窟を歩きながら、日々の行いの反省をし、閻魔大王の前で罪を悔い改めました。
地獄の迫力と自己嫌悪に押しつぶされそうになりながら、洞窟を出ます。光の何と美しいこと!
聖地巡礼
罪を悔いたところで、ここから五行山癒しの巡礼が始まります。エレベーターで上がると最初のお寺「リンウン寺」があります。さらにそこからは徒歩でほぼ登山状態となります。岩山を這うような箇所もあるので、自信のない方はパスしましょう。境内のルートマップを見ると向かって左方向に進むことができます。徐々に天国世界が近づいてきます。
迫りくるような岩山の切通しの中を歩き、狭い洞窟の中に安置された仏像をお参りしていると、やはり五行山がただの山ではないことがうかがい知れます。中にはベトナム戦争時代の米軍による空爆で穴が開いてしまった所もあるとか。
お菓子の家のようなお寺が見えてきたら、それは「タムタイ寺」。阿弥陀如来と観音菩薩が祀られています。タムタイ寺はディテールが面白いので、ぜひ時間を取って細かいところを観察してみてください。
モザイクが実は陶磁器を割った陶片だったりして、手作り感満載なので心温まる思いがします。
タムタイ寺の左奥方面に向かうと、五行山最大の見どころかつ最高のパワースポット「ヒュエンコン洞窟」に入っていきます。
神秘的なヒュエンコン洞窟
洞窟の入り口では観音様が出迎えてくれます。手を合わせてご挨拶をお忘れなく。
薄暗い大きな空洞へとつながる階段に出迎える石像は妙にリアルで、最初は本当に生きているのかと思ってしまいました。
その先の空間にはあまたの神々がお祀りされており、厳かな雰囲気が辺りを包み込んでいました。
目線を上に上げると穴から光が差してきます。正午近くの太陽が真上に位置する時間には、光の筋が洞窟内を照らし、とても幻想的な演出となります。残念ながらユルワが訪れた時間は少し早く、天上からの光を拝むことはできませんでした。
その代わり、人もまばらで静かに五行山のエネルギーを感じることができたのが良かったです。
絶景の中で完全浄化
五行山を歩く中でいくつもの寺院や仏像と向き合うことになりますが、そのことで地獄の毒気がかなり癒されたのを感じました。しかし、ここで巡礼を終えてはいけません。最後の力を振り絞って、やや急勾配の階段を上ってみましょう。息を切らし気味に見えてくるのは……
眼下に広がる、ダナンの街とまっすぐ続く白浜のビーチの絶景が広がります。頂上から眺める景色、そして五行山を吹き抜ける風に身をゆだねると自分が浄化される気がします。五行山は意外と歩くのでなかなかの運動量となり、いい汗をかきます。だからこそ味わえる爽快感なのだと思います。
五行山というパワースポットを回って、改めていにしえのベトナム人がここを聖地とした理由がわかる気がしました。普段の生活場とは異なる雰囲気の場所に神が宿ると考えるのは、所変われども、人間なら同じことを考えるのかもしれません。
汗が引いたらもと来た階段を下りて、そのまま下山します。森林浴が非常に気持ちがいいのですが運動不足だと筋肉がプルプル震えてしまうかもしれませんね。けがをしないように無理せずご自分のペースで階段を下りて行ってください。