世界各地、人の心の数だけ様々な形のおもてなしがあると思いますが、今日はわたしがアルバニアで受けたおもてなしのお話しをしようと思います。
アルバニア民族の間には、「血の掟」に代表される、古くから受け継がれてきた規則=カヌンが存在し、今でも山間部などでは守られ続けています。「旅人が自分の元に来たら責任を持ってもてなさなければいけない」、というのもその1つ。
それをある1人のアルバニア人が実行に移したら、こんなことになりました。
アルバニア再訪 さらなる奥地ブルチーズへ
今回わたしが訪れたのは、アルバニア東部の山にある村・ブルチーズ(Bulqize)。
この場所の存在を知ったのは、アルバニアで主にイギリス人を相手に「4WDで誰も行かないような場所へ行くクレイジーなツアー」を主催している知人からの情報でした。そのツアー会社のリンクも貼り付けておきますね→ DRIVE ALBANIA
この人はイギリス人なんですが、数年前にアルバニアを訪れた際、完全にこの国に魅了され、そのままツアー会社を起こしアルバニアに居ついてしまった人です。
そんな人がおススメする場所、という盲信と、あの強烈なにおいを放つ「ブルーチーズ」に似た名前の村というのが気に入った、という理由で、わたしは更なるアルバニアの奥地・ブルチーズを目指しました。
ブルチーズでの宿泊は、先述のイギリス人から紹介を受けた民泊を予約しました。
まぁ「予約」というか、教えてもらった連絡先にWhatsApp経由でメッセージを送ると、「部屋アルヨ。ブルチーズに着いたら連絡クダサイ。迎えに行くネ」という返事があっただけ。
……電報か!
行く前に民泊のFacebookページを見つけたのでのぞいてみました→ Traditional House Hupi
もうね、この写真を見ただけでいい人であること間違いなし。
▲民泊宣伝用ページに載っていた写真
一緒に見ていたアルバニア人は隣で大爆笑。このように車のドア全開の光景は、ポップ歌手のPVから家にあるカレンダーに至るまで、アルバニアでは嫌というほど目にする「アルバニア通過儀礼」なんです。
これを一部の(けれどかなり多くの)アルバニア人は本気でイケてると思ってやっているから手に負えない。こちらからすれば、一体何がやりたいのか(換気か?)理解不能で完全に置いてきぼりです。
そしてこの写真を民泊宣伝用の(はず)ページに載せてしまう、その無邪気さ。←後日、「ビジネス用のページには自分の趣味の写真は載せない方がいいよ、見る人が混乱するから」と注意しておきました。
さて、気を取り直してブルチーズでのお話。
無事ブルチーズに到着したので、言われた通り連絡を入れると、「僕も今ブルチーズにいるから1分でそこに行く」との返事が。「1分なんてまた大げさな。これだからアルバニア人は……」と思っていると本当に1分で来ました。
オーナーの名前はルリさん。英語も話せます。
▲向かって左がルリさん
一通り挨拶を終えた後でしかし、ルリさんの口からとんでもない事実を知らされます。
「本当に申し訳ないんだけど、今日はイスラム教のお祭りの日で親戚中が家に集まっているんだ。
だから君たちを泊める部屋がない」
え?!
やはりあれは予約ではなくただの電報だったの?と衝撃を受けていると、
「でもその埋め合わせをさせてほしい。いいホテルを僕の家と同じ値段で泊まれるよう手配するから。本当は60ユーロの部屋だけど、オーナーは知り合いだから僕の力で何とでもなる」と、ルリさんはブルチーズの路上で大演説。
ルリさん流おもてなしのはじまり
ルリさんの家には泊まれないけれど、ぜひお茶に招待したいという熱烈な申し出を受け、結局ルリさんのおうちまで行くという流れに。
しかし、言われるがままついて行くと、なぜか途中で雑貨屋へ吸い込まれていくルリさん。そして出てきたルリさんの手にはこんなものが握られていました。
▲「アルバニアへ来た記念と思い出に……」
アルバニアの国旗が刻まれた腕輪のプレゼント。
▲ありがとうございます
そしてまだ5分も歩いていないのに、雑貨屋横のカフェでコーヒーブレイク。
コーヒーのお供に、ルリさんによるブルチーズ四方山話付き(ヨーロッパ最大のクロム採掘場があること、もしよければ採掘場もガイドできるということ、最近そこで中国人作業員三人が事故にあったこと、なので哀悼の意をわたしに捧げたいとのこと←なんでやねん)。
おまけにコーヒー代は知らないうちにルリさんが払ってくれるというスマートさ。
ルリさんのおうちへ
日も暮れかけたころになってようやくルリさんのおうちへ行くことになりました。ルリさんのおうちはブルチーズからさらに6キロほど先へ行った奥地。
急勾配なけもの道を普通車で必死に走っている途中、「ちょっと停めて」と後部座席のルリさんから無茶ぶりが入ります。
「ここからの眺めが最高だからぜひ見せたくて……!」と、確かに景色は圧巻ですが、もう少し停めやすいところでお願いします……。
▲ルリさんの家に行く途中の景色
思いついたら即行動派なんでしょうね。
▲無事ルリさんのおうちに着きました
▲子供たちもお出迎え
家の中にはすでに親戚が集まっていて、夕飯の準備が着々と進められていました。居間にかまどがあるので、そこで料理はするわ、でもやはり居間なので親戚もそこで休んでいるわで大わらわ。
もちろんわたしもそこに通されます。
▲病気のお父さんも居間で臥せっています(写真右端)
先にいた親戚を押しのけて上座に座らされ、トルココーヒーと手作りケーキが振る舞われました。わたしの一挙手一投足を、それこそ二十四の瞳もびっくりな熱い視線が見守ります。
大人は基本英語がわからないので、会話は子供を中継する伝言ゲームスタイルでした。
場が温まりくつろいだ気分になってきた矢先、「じゃ押してるんで、次、行きましょう」とルリさん。
すっかりマネージャー気取りのルリ・ジャーマネに急かされ、ファン(ルリさんの家族)との挨拶もそこそこに、せかせかと家を後にすることに。
▲みなさんお世話になりました
一体何に時間が押してるのかと思いきや、「君たちの夕飯をね、手配したいんだ」と、ルリさんの中では次のおもてなしプランがすでに一人歩き中の模様。
とにかく巻きで、ブルチーズまで引き返します。
ブルチーズにつくと、急いでどこかに電話をかけ始めるルリさん。唾を飛ばし飛ばし、何か一生懸命言っています。
「じゃあ行きましょう」とルリさんの案内で向かったのは、ある鶏肉料理の店。中に入るとテーブルいっぱいに料理が用意されていました。
▲これわたしがベジタリアンだったら、とかは微塵も考えなかったんだろうな
チキンはブルチーズの特産の1つ。地元の特産品をどうしても食べてほしいというルリさんの熱い願いだけは伝わりました。お店の人も、電話越しに「おいしく作れよ」と口酸っぱく言われたんだよ、と苦笑いする始末。
日が明けて翌朝。
ものすごい勢いでホテルのドアをたたく音で目を覚ましました。
何?!
「出る時に鍵を返すのを忘れないようにね、って念を押しに来たんだ」とドアの向こうからはルリさんの声。
……いや、そんなんわざわざ朝の9時に言いに来なくてもいいだろ!
おせっかいで独りよがりだけど、どこまでも親切な、アルバニア人の心温まるおもてなしエピソードでした。
→アルバニアの首都・ティラナ(Tirana)からブルチーズ行きバスが毎朝2本(6:30,8:30)あります